シガレットキス
「なあ、火貸してくれねえか?」
深夜、コンビニ前でタバコを吸っていると、見知らぬ女性に声をかけられた。
「・・・はい」
いきなりの事だったが、ポケットに入れていたライターを投げて渡す。
「サンキューな」
目線を外して吸っていると、火打ち石を何回もするを音が聞こえた。
風が強い訳でもないし、オイル切れしたのだろうか。
「なあ」
再び声がかかる。
振り向くと。その人はタバコを咥えてこちらを向いていた。
「火」
そう言ってタバコを突き出す。
その意味をわからないわけではない。
背中を丸めて、タバコの先を近づける。
その人もまっすぐ近づけた。
タバコの先端が触れ、少しの間そのままの体勢でいた。
向こうのタバコに火がつくと、二人とも離れる。
吸っている間会話は無く、二人して空を見上げていた。
「「あ」」
声が出た理由は流れ星だった。
互いに顔を見合わせ、声を出さずに笑う。
タバコを吸い終わった後も、なんとなく離れる気にならない。
「なあ」
女性の声がする。
「なんだい?」
「また、火もらえるか?」
その人はタバコを咥えていなかった。
「また会ったら」
「そうかい。これありがと」
女性がライターを投げる。
その人はそのままどこかに行ってしまった。
いつものようにタバコに火をつける。
「なんだ。火、つくじゃないか」