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「夏妃、一緒に中学でもさ、女の子5人で野球して、私は男の子からホームラン打って、夏妃は、男の子たちから三振取るって約束したよね」
世奈がそう言ったさき、電話の奥でため息が聞こえた。
「世奈、うちは、野球することあきらめてない…」
「だったら!」
「でも、男の子相手にせないけん、中学校の部活動やないでもいいと思うんよ」
「えっ…」
「今、たくさん女の子のクラブあるけん、そこに入ろうと思っとるちゃ」
「女の子の野球チーム?」
「ごめん、世奈…」
その後もしばらく沈黙が続いた。二人の息づかいだけが、世奈と夏妃の耳に突き刺さっていた。
「世奈…」
「何、夏妃…」
「いいクラブ見つかったら、そこに入るけん、ごめんね……」
「分かった…」
「他の4人は、ライナーズに入ったらしいよ。イオンがあるとこのグラウンドで練習しとる、女子ソフトボールクラブばい」
「あーね……そうなんやね…」
世奈は、それだけ言うともう何も言わなかった。電話の奥は、通信が途切れたのを知らせる音が、何度もなっていた。
次の日の放課後、世奈はグラウンドに出て、練習せずに学校から離れた。なんだか練習するような気分ではなかった。半分あきらめかけていたのが、世奈にとっては珍しいことであった。世奈が学校を後にするときに聞こえたサッカー部のボールをける音や、テニス部が元気よく声を出して練習している風景が世奈の頭の中から離れなかった。
早く学校から遠ざかりたい一心で階段を駆け下りた。世奈はそのまま家に帰る気分でもなかったので、家とは反対側に進み、川沿いを歩いてみることにした。
さすがに冬なので、川で遊んでいる人はいないようだった。小学校の放課後、世奈はよくこの川で遊んだ。ソフトボールクラブの5人の女の子と一緒に。
その時と比べてこの川は、全く変わらず流れ続けているのに、世奈たち5人は変わってしまった。ずっと目指していたものが無くなり、5人の流れが止まってしまったようだった。
世奈がしばらく歩いていると、川沿いとは反対側の路肩の方でバットを振るような大きな音がした。しかもかなりスイングが良いと認知できる音だった。
「あー!」
世奈は振り返り、バットを振っていた人間を確認すると思わず大きな声を上げた。