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「では、世奈ちゃんはその人に野球を教えてもらいたいんだね」
「えっ!」
突然のおじいちゃんの一言に、世奈はつい笑い出してしまった。
「おじいちゃん、あの人に次いつ会えるか分からないんだよ」
「この町に住んでいる人だろ、世奈が会いたいと思っていれば、すぐに会えるさ」
世奈は首を縦に2回ほど動かしながら、返事をした。
「あの4人だってな、また一緒に野球できる日が来る」
「おじいちゃん、それは…」
世奈が、目を見開いておじいちゃんを見つめると、おじいちゃんは少しばかり微笑んでいた。とても優しそうな瞳であった。
「約束したんだろ、今は望めば野球ができる時、おじいちゃんの頃、野球は敵国のスポーツとしてご法度だったからな」
「ご法度?」
感慨深そうに話すおじいちゃんに、世奈は尋ねる。
「野球は、アメリカのスポーツだから日本人は禁止!やったら罰を受ける!ってこと」
「そんなにひどい時代だったんだ」
世奈がそう言うと、おじいちゃんはまた笑顔に戻った。
「だから、おじいちゃんは世奈にはやりたいことをやってほしい、それだけ」
「うん、明日からも頑張るね」
世奈はおじいちゃんと話していると、元気が湧いてくるような感じがした。夕食を食べた後、世奈は川野夏妃に電話をした。
夏妃は中学校で野球を一緒にすることを約束したひとりであり、小学校のソフトボールではピッチャーをしていた強気の女の子だ。中学校でも、男の子相手にピッチャーをすることを宣言していた。世奈が思うに、夏妃の負けん気の強さとマウンドでのふてぶてしさは、まるで女版ダルビッシュであった。
「久しぶり、世奈」
「夏妃、久しぶり。どうした」
久しぶりに聞いた夏妃の声は、いつも通り落ち着いた声で、その声の奥に芯の強さを感じさせるものであった。
「今日ね、ちょっと嬉しいことがあったから」
「嬉しいこと?」
「うんとね…野球の練習着て」
世奈のその一言の後しばらくの沈黙が続いた。
「夏妃、やっぱり…」
「やっぱりって、9人いないと野球はできないんだよ」
正当な夏妃の言葉に、言い返す言葉は見つからない。しかし、世奈はここで夏妃をあきらめるわけにはいかなかった。