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3-3

 世奈は、帰りのホームルームが終わるとすぐに、野球のバッグを担ぎ、野球部の部室に向かって駆け出していった。それに「ちょっと待って!」と言いながら、美南とニコ、たつみんが着いてくる。下駄箱で、世奈とは違うクラスの夏妃、奏人と合流して、世奈たち6人は駆け足で野球部の部室へと向かった。

「よし、急いで着替えて、準備をしよう!」

「はい!」

 世奈の指示に、夏妃たち5人は一斉に声を上げた。久保奏人が入部した後、柚木世奈は高山田中学校野球部キャプテンになったのだ。世奈がキャプテンということで、監督、谷野の指示を掛け声で伝えたりする役目は世奈に一任された。

「そういえばさ、昨日の万引き犯の不良少女…やっぱり香田さんだよね」

 女子専用の部室で、世奈たち女子部員5人が着替えていると、ニコが言った。それに美南が「やっぱりそうだよ、あれは絶対、香田瑞希」とはきはきとした口調で続いた。

「万引きって?」

世奈は、ニコと美南がしていた話に興味を持ち聴いた。

「昨日の帰りね、私と美南が一緒に話しながら歩いてたら、ちょうどスーパーの近くに来たときね、いきなりスーパーの店内から、叫び声が聞こえて、そしたら金髪の女の子が走って逃げていったの」

「そんなことがね…」話を聴いていた、夏妃が吐き捨てるように言った。

「うん、それがその子以外に足が速くて、若い男の店員さんが女の子を追っかけていったんだけど、全然追いつけなくてさ、すぐに姿消しちゃったの、あれは速いわ」

ニコの話に同調するかのように、美南は激しく頭を縦に動かした。

「絶対に逃げようって、必死だったのかな…?」

「たつみんが言ってるのは、火事場の馬鹿力的な?」

「うん…美南ちゃん、そんな感じ」

 世奈は少し考え込んだ。香田瑞希は確かに1学期辺りまで、この学校に登校していたはずだ。クラスは同じクラスではなくて、夏妃や奏人と同じクラスのはずである。若い男性を走って巻けるほどの脚力の持ち主なのであろうか。

「香田さんって、色々先生たちと問題起こしてたよね?」

「問題っていうか、先生が注意したら、それに歯向かって、喧嘩するって感じだったよ…うちのクラス担任と喧嘩して、教室から飛び出したこともあったし」

 夏妃の言葉に、ニコたちは「やっぱり不良だったんだ!」少しあきれたような笑顔で答えた。

「でも、足速かったんだよね?美南とニコ」世奈は最も考えていたことを、目撃者の美南とニコに聴いた。

「うん、あれは速いよ!あっという間に消えたから!」

ニコの言葉に世奈は「そっか…」と一言つぶやいた。

「そりゃ、あいつは速いでしょ」突然、夏妃がそう言った。

「どういうこと?夏妃ちゃん…」

「だって、あいつは小学校の時、軟式野球してて、福岡県の選抜に選ばれて、4番打ってたから」

 夏妃がそう話した瞬間、野球部女子専用の部室内は、「えー!」という驚きの声に包まれた。世奈も思わずその声を上げた。

「夏妃、知ってたの?」

「知ってたというより、中学校に行ったら、多分違う中学校だから、野球部に入って倒してやろうって考えてた…そしたら、入学式いたんだよ」

「ちょっと待って、夏妃ちゃん…香田さんはどこの小学校出身で、どこの中学校に行く予定だったの?」

 たつみんが夏妃に聴いた。

「板川小学校出身で、板川中学校に行く予定だったと思う、だから野球部に入るだろうから、女子のライバルになるだろうと思ってた」

「そしたら、何か知らないけど、この中学校に来てた」

世奈がそう言うと、夏妃は大きくうなずいた。

「そして、野球部にも入らず、どんどん金髪になったり、ピアスしてたり、不良化していき、先生とも喧嘩し、学校に来なくなった…」

 世奈はそう話す夏妃の顔をじっと見ていた。夏妃のその表情からは、計り知れない悔しさが感じ取れた。自分のライバルになりえると思った人間が、期待外れなことになってしまっているのだから無理もないことかもしれない。

「会うことできないかな…」

世奈は、一言つぶやいた。

「まさか、香田瑞希に?」

「うん」

「世奈、まさかあんた、香田に会って、野球部に入れようとか考えてないよね?」

「えっ?いけないの?」

「いけないのって、あいつは不良、万引き犯だよ!」

世奈の言葉に、美南は強く反対した。世奈も美南の気持ちが分からないわけではなかった。野球部が一人の素行の悪い部員のせいで、試合に出られなくなる話はよく聞く。しかし、現時点では絶対試合に出られないのだ。

それからしばらく沈黙が続いていると、部室の外から久保奏人の声が聞こえた。

「ねえ、まだ?谷野さんも待ってるよ!」

「やばい、行くよ!」

女子5人は慌ただしく準備を済ませ、グラウンドへと向かった。


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