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荷物をまとめると、世奈は学校から家に向かって歩き出した。高山田中学校は高台にある中学校で、帰るときは長い長い階段を下らなければならない。通学路の途中で、北九州のシンボルともいうべき皿倉山がきれいに見えるところがある。世奈はここから見る皿倉山の景色が好きだった。
皿倉山の形は今日もきれいな形をしていた。皿倉山の頂上から見る夜景は、日本三大夜景の一つだと言われているが、世奈はここから見る皿倉山が一番好きだった。
階段の最後の方に差し掛かると、世奈が10か月前まで通っていた小学校の横を通ることになる。この小学校の運動場は、放課後の遊び場として、この小学校の児童だけに解放されている。そして、今日は火曜日であるので、世奈が所属していたソフトボールクラブの子どもたちが練習しているはずだ。しかし、この薄暗くなった時間は、もう誰もいないはずである。だが、この日は何やら男の人通しが言い争う声が聞こえてきた。
「だから、上から下にバットを振るという理論はもう古いんですよ!今のうちに、しっかりとしたレベルスイングを教えていないと、癖が付いちゃいますよ!」
「君は、平日にお父さんたちの指導者がいないから、ボランティアで指導をお願いしただけで、このクラブの基本をかえれとは言っとらん!」
なにやら、バットの振り方の教え方でもめているみたいだった。