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1-17

 4人は、それぞれが普段守っている守備位置に散らばった。世奈はサード、美南はショート、ニコはファーストで唯一の左投げ。たつみんは唯一の外野手だったらしく、ライトの守備位置に着く。

「3か月ぶりだね!こんなみんなでノックするの!」

世奈は嬉しそうに、大きな声で話していた。世奈以外の野球部員は、3か月前からパタリと来なくなっていたのだ。こうやってノックをするのも久しぶりのことである。

谷野は、軟式ボールを持って、左の打席に立つ。野球部は今でこそ、1人しか練習には来ていないが、まだホームベースは埋め込んであり、マウンドだって小さな山がしっかり残っていた。

「あの!すいません!」

「なんだ」

美南が大きな声で、谷野を呼ぶ。そして、自らが持っていたソフトボールを谷野に軽く投げた。

「これでノックしてもらえませんか?私たちは、ソフトボールの現役なんです」

「わかった、これでやるよ」

谷野は素直に、美南の要求に応じた。世奈は少し残念そうであった。しかし、それも無理もないことである。普段使用しているボールと軽さや重さが違うものを投げると、肩や肘を痛める原因になってしまう。

「よし!じゃあ始めるぞ!怪我はしないように、捕ったらファーストのニコちゃんに送球だ!」

「だから、下の名前で呼ぶなっつーの!」

 そんなこんなでノックは始まった。谷野のノックは、美南やニコの予想を反して、とてつもなくうまいものであった。下手なノッカーがノックを打った場合、バウンドが高くなったりするものだが、谷野にはそれがなく、すべて低いバウンドでゴロが転がった来た。

 予想を裏切られたのは谷野も同様であった。最初は中学生の女の子だと思い高をくくっていた部分もあったが、基本通りのゴロへの入り方で4人ともボールをさばいていた。


 しばらくノックを打っていると、谷野の教えたい衝動に火がついてしまった。

「4人とも少しだけ勿体ないところがある!」

「どこですか?」

 谷野のあまりのノックのうまさに、感化されたのか、敬語を使っていなかった美南とニコが敬語を使い尋ねた。

「捕ってから投げるまでのステップが多い!ゴロを捕る基本はツー・スリーステップだ!」

「ツー・スリーステップ?」

 4人は声をそろえて谷野に尋ねる。4人にとって初めて来た言葉だったからだ。

「ゴロに入る前、右投げの人は、右足で左足と踏み出してとる。ここまでで、1(右足)2(左足)、そして捕る、そこから右足を引き付け、左足を投げる方向に踏み出しで投げる!ここまでが、1(右)、2(左)、3(投げる)だ!」

 4人はそれを聞きながら、自分なりの動作を固める。

「1、2捕って1、2、3!でどうでしょう!」

「それいいな!」

 世奈がひらめいた掛け声に、谷野は声を弾ませて答えた。

 それから、4人は「1、2、捕って1、2、3!」を合言葉にゴロを捕る練習を繰り返した。気づけば、辺りは暗くなり、練習しているグラウンドだけが証明の影響で、明るくなっていた。

「ありがとうございました!」

4人は最後に谷野に大きな声でお礼を言った。

「いや~楽しかった!」

谷野は、久しぶりに野球の楽しさを味わった気がした。

「ご苦労様でした、あなたはどなたですか?」

突然、グラウンドの外からまたしても女性の声が響き渡る。

「富岡先生…」

「先生?」

世奈の声に谷野は反応し、女性の声が聞こえた方に振り返ると、すごく怖い顔をした、かなり美人な女性が立っていた。おそらく、年は谷野と変わらないくらいだろうと、谷野はやばいと感じながらもそんなことを考えた。

「あなたは誰ですか?」

「僕ですか?」

「あなたしかいませんよね?」

「ここの卒業生です、」

富岡は頷いて谷野の顔を覗き込む。

「見覚えないわ、私隣の中学校だったんだけど…」

高山田中学と隣の町にある月山中学はよく交流会を行っていた。

「年は同じくらいですよね?」

谷野は、やばい状況をどうにかしようと話をすり替えようとする。

「私25です」

「僕も」

やっぱり同級生だったと、谷野の顔は一瞬にやけた。

「校長先生がお呼びです。会ってやってください…」

「校長がですか?」

「はい、呼んでくれと言われましたのです。さっきまで見てましたよ」

谷野は、そそくさとその場を離れる準備を始めた。

「あ!言いたいことがまだあるんです!」

「なんですか?」

谷野はそう言うと、4人の子どもたちの方を向いた。

「男の子に勝ちたいんだろ?人生はな、できるかできないかじゃなくて、諦めるか諦めないかだ」

世奈は「はい!」と大きく返事をした。美波とたつみん、ニコの3人は静かなままだった。

「あなたたちも早く帰りなさい」

「はい…」

4人は、そう言ってバッグを持つと、その場を後にした。帰り道は、世奈だけは一人外れて先に階段を下り始めた。美波とたつみん、ニコの楽しそうな声が響き渡る。さみしかった。しかし、今日のほんの数分だけ、前みたいに戻れて楽しかったと世奈は感じていた。


長くなりマスタ…

すいません


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