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「約束をした…?」
「はい、小学校で一緒にソフトボールをしてた女子5人で、中学校に行っても部活動に入って野球を一緒にしようって…」
先輩は世奈の話を、少々笑みを浮かべながら聞いていた。
「それで、その5人は野球部に入ったの?」
「いえ、最初は入ったことは入ったのですが…」
「やめた?」
世奈は小さく頭を縦に動かした。
「もともと、入った時から野球部の部員は3人、私たちが入って8人で、試合に出られる状態ではなかったんです」
「そっか…、部員は募集した?」
世奈は、先輩の顔まっすぐ見つめて答える。
「しました、毎日毎日、正門に立って」
先輩は、厳しい表情でゆっくりと頷く。
「でも、無理だったし、私たちが野球をし始めて、やっぱりなんか、男子の先輩との力の差があるのは当たり前なんですけど、年の差じゃなくて、男女の差っていうか、そんなんで、みんな、いなくなっちゃたんです…」
そうやって話しているうちに、空が夕焼けに染まる時間になった。この寒い季節は、太陽が沈むのも早いものである。今日もとても寒い日だったが、世奈はなぜか先輩と話しているこの時間、寒さを感じなかった。少し汗さえかいているほどだ。
「なら、5人の約束をあきらめないことから始めるか!」
「えっ?」
「5人で野球をするって約束したんだろ?」
先輩のその言葉に、世奈は声が出なくなってしまった。5人をもう一回くっつけられるものならくっつけてみたい。
「でも、4人のうち3人は、戸畑の女子ソフトボールクラブに入りましたし…もう一人は、昨日電話で誘ってみたけど…」
「俺は、世奈ちゃんがバットの音を鳴らすのに、諦めなかったのに気に入ったの。あきらめない人間は、大好きだ」
「先輩…」
世奈は、「分かりました!」と言うと、まずは川野夏妃の家に先輩を案内しようと動き始めた。
「先輩、すぐに会える人がいるんです。その人のところに…」
「分かった」
先輩はそう言うと、バットをケースにしまうと、目の前にある家に入り、バットを仕舞い込んだ。世奈は、ここが先輩の家であったことを確認した。
「あ…ここ俺んち…」
「大体わかります」
「あと、俺の名前は、谷野隼介ね!」
「たにや…分かりました。谷野さん!」
「あと、今日から、友達な!」
その一言に世奈はつい笑ってしまった。
「AKIRAのGTOみたい!」
「反町のGTOだな…ジャネレーションギャップ…」
すっかり打ち解けた二人は、川野夏妃の家を目指して歩きはじめた。