第一話「アルヒカルティエ」
「ねぇ、大丈夫?」
突然、そう呼びかけられた。
目を開けても、そこには誰もいない。
それどころか、私は森のようなところに横たわっていた。
「え? 誰?」
「僕だよ、僕! 神様でーす!」
「自称神様の間違えでは?」
「うえーん! ひどいよー! これでも一応神様なんだよ? 崇めて! そして奉って!」
崇めねぇよ。心の中でそう毒づきながら、話を戻す。
「そういえば、ここ、どこなんですか?」
「あぁ、ここ? 『迷いの森』」
「何てとこに送ってんだああぁぁぁ!!!!!!」
「僕は君のことを想って…。レベルを上げるのを手伝おうと…」
「僕を殺したいんですか!?」
「えぇ!? 何でそうなるんだい?」
自称神様は、心底驚いたような声色で言った。
「こんな装備でどうやってモンスターと戦えっていうんですか!?」
私の装備は、寝る時に着ていたパジャマのまま。武器は、ない。
「ごめんごめん! うっかりしてたよ」
思い立ったらすぐ行動なのか。この人は。
「うーん。じゃあこれは?」
そう言うと、同時に装備が軽めの鎧になり、武器は手軽そうな剣に変わった。
それにボロそうな袋も追加されている。
「おぉ! すごいですね!」
「すごいでしょう! さあ! 崇めるんだ!」
「そういうところがなかったら崇めてるけどね」
「ふん、いいもんいいもん。あ、地図はそのバックの中に入ってるから、頑張ってねー!」
そう言って声が聞こえなくなった。
…。
「いや! 送っていけよ!」
そのアルヒカルティエまで送っていってくれてもいいじゃないか!
私はしばらくの間項垂れていたが、ここで嘆いていても、意味がない、と考えを変え、地図を探す。
「地図地図…。あった」
見てみると、今の現在地が手書きの丸で囲まれている。
しかも、下手くそな神様の似顔絵付きで。
道まではそう遠くはないようだ。
早めに行動したほうがいいだろう。日が暮れたら危険だ。
出発してから結構たった。だが、
全然目的の道に着かない。
あいつ、間違った地図を渡したんじゃないだろうか。
私が地図を片手に唸っていると、草陰から変な生き物が出てきた。
あれがモンスターだろうか。
見た目は魔法使いのよう、ただ違うところは、
体が透明、というところだった。
これがモンスターか。
すると、モンスターが持っている杖から、炎の玉らしきものが出てきた。
あれ、ヤバくね?
モンスターが杖をこちらに向け、炎の玉を投げてきた。
「ちょっ! ヤバいってー!!!!!」
私が涙目で逃げ回っていると、
「ウォーターボール!!!!」
声がする方から水の玉が飛んできたかと思うと、炎の玉とぶつかり、大きな蒸発を起こした。
魔法使いのモンスターは勝てない、と察したようで、草陰に逃げて行った。
少し経って、私が尻餅をついたまま、動けずにいると、
「あなた、大丈夫? 立てる?」
先ほどの魔法を打った本人だろう人から声をかけられ、手をさしのべられた。
私はその手につかまり、立った。
大人びた女性だった。私のものとは、比べ物にならないくらい大きいものをお持ちの。
フードを被っていて、顔はよく見えないが、きっと美人だろう。
「あ、ありがとうございます!」
「いいのよ。それにしてもあのモンスターがこんなところに現れるなんて、珍しいものね。
とても強いから大変だったでしょう?」
どうやら、私の不幸が呼んだモンスターだったらしい。
「それにしてもあなた、たった1人で森に来るなんて。案外命知らずなのね」
「そ、それが…」
「?」
「ま、迷いこんでしまって…」
あぁ、これは一生の恥です。
あの野郎、今度会ったらただじゃおかない。
「あら、そうだったの? 地図って持ってる?」
私は、魔法使いの女性に地図を手渡す。
「これは…。20年ほど前の物だわ。よく手に入れたわね」
若干引かれた。あの野郎…!
「すみませんが、アルヒカルティエまでの道を教えて頂けませんか?」
「えぇ、もちろん。道まで送っていくわ」
そう言って快く引き受けてくれた。それも、道まで送ってくれるという。やったー!
道中、強そうなモンスターが頻繁に出てきたが、彼女は全て一撃で倒していった。
凄腕の魔法使いなのだろうか。
途中、
「何でこんなにも強いモンスターが出てくるのかしら。おかしいわね」
と、何度も言っていた。
すみません、それ、私の体質のせいです。
そんなこんなで、私達は、アルヒカルティエへ続く道までやってきた。
「ここをまっすぐ行けばアルヒカルティエに着くはずよ。頑張ってね」
そう言って見送ってくれたが、私は、ずっと思っていた疑問をぶつけることにした。
「はい。ありがとうございます。一つ、いいですか?」
私は、彼女の返事を待つ前に、繋げた。
「あなたは、誰なんですか?」
私がそう問うと、少しの間があったのち、彼女はずっと被っていたフードを脱いだ。
フードから出てきた髪は、血のように真っ赤で、漆黒の瞳がこちらを見ている。
魔法使いの女性は、少し黙ったあと、ゆっくり口を開ける。
「私はシルティ・ベルト。ただの魔法使いよ」
そういって、私は、シルティと別れた。
アルヒカルティエへ続く道を、私はただ歩き続ける。
シルティ・ベルト。あの人は、本当にただの魔法使い、なのだろうか。
私の勘でしかないのだが、只ならぬ魔力を感じた、気がした。
ただ一本道を歩き続ける。
今のところ、モンスターに出くわしていない。このまま出くわさないといいけど。
しばらく歩いていると、国のようなものが見える。
あれが神様の言っていた、アルヒカルティエだろうか。
私は残っている体力で走った。だが、道に落ちていた小石に足を取られ、転倒。
我ながら恐ろしいくらいの運の悪さである。
私はゆっくり歩くことにした。
私は、神様にもらったお金で入り口から一番近くの宿屋に泊った。
指定された部屋には、最低限の日用品が置いてあり、私は迷わずベッドに飛び乗った。
今日は疲れた。もう何もしたくない。
この宿は結構な値段で、私の所持金の半分が根こそぎ持っていかれた。
明日も泊る、というのは無理そうだ。
明日はどこに泊まろうか。馬小屋とかにとまらないといけないのだろうか。
考えているうちに、私は眠りに落ちた。
---
夢で目覚めた、そう言った方がいいだろう。
そこは、私がこの世界に飛ばされる前にいた神の領域だった。
「どうだった?」
あの自称神様に話しかけられた。
「大変でしたよ、もう」
「けど、どうであれ、アルヒカルティエに着いたみたいだね!」
「はい、そうですね。でもあなたのせいで散々でしたよ。
どうしてくれるんですか。地図が20年前のものって聞かされた時、怒りどころか、
呆れ返ってしまいましたよ」
「それは、もう、ごめんね? うっかりしちゃってさー! 許してよ?」
「反省の色がありませんが?」
「すみませんでした」
そう言って神様は土下座した。否、させた。
神を土下座させる経験は、そうそうないだろう。今のうちに楽しんでおこう。
「で、これからどうすればいいんですか?」
「あぁ、それだけどね! ここ、アルヒカルティエには王様がいるんだけど、
その王様に会いに行かなくちゃいけないんだよね。
普通の冒険者はギルドで良いんだけど、ほら、勇者は神に選ばれた人だから」
「低級だけどね」
「そこまで言うことないじゃん…」
やばい、ちょっと泣きそう。
「ご、ごめんね? だから泣かないで?」
「じゃあ話を戻そう!」
さっきまで泣きそうだった声色はすっかり元気だ。
「いやぁ、まさかちょっと泣き真似しただけでこんなに効き目があったなんてびっくりだな!」
私は無言で神様を殴った。私の真心を返せ。
「ひどい! パパにも殴られたことないのに!」
と、有名なあのセリフを言った。ちょっと違うけど。
「早く、話の続き」
「もういいよーだ!」
あぁ、この人。どんだけ子供なんだろう。
「はいはい。さっきはすみませんでしたー」
自分でもわかるほどの、見事な棒読みだったと思う。
「いいだろう。許してあげよう!」
この人、どんだけ調子良いんだろう。
「で、話の続きは?」
「うん。じゃあ言うよ? 勇者の場合、王様に会いに行って、そこで色々して、認めてもらってくるんだ!」
神様はドヤ顔で言う。
「色々って?」
「知らない」
「なんで?」
「教えてもらってないし」
あぁ、こりゃダメだ。
「そういえば、さっき渡すの忘れてたんだけど、これ」
そういって渡されたのはスマートホンだった。それも私の。
「あ、これでお母さんに電話…」
「できないよー」
「え、なんで?」
「電波、異世界に届いてないし」
「え、じゃあなんで?」
「僕と電話するためだよ!」
「…。」
私はスマートホンを落としてしまった。今、何て?
「そんなに嬉しいの?」
と、神様が期待するように聞いた。私は無言で神様を殴る。本日二度目。
「ひどい! また殴った!」
「なんで私が神様と電話しなくちゃいけないんですか!?」
「え? だって、便利でしょ?」
確かに、わからないことがあったら聞けばいいのだ。
「そうだね! よろしく!」
「いきなり態度変えたね!?」
「でも、お母さんとは連絡できないのになんで神様とはできるんですか?」
「神様サポートがあるからだよー」
適当すぎだろ。なんだよ神様サポートって。
「あ、もうそろそろ時間だね。じゃあ頑張ってねー!」
そう言って、手を降られた。いや、ちょっと待てよ!
私の意識は途絶えた。
---
気が付いたら、そこは宿屋の部屋だった。
夢か、そう思ったが、私の手には、しっかりスマートホンが握られていた。
私は身だしなみを整えて部屋を出た。まぁ、王様に会いに行くからね。
宿の食堂のようなところで、食事をとった。
そのあと、宿のカウンターでお金を払い、城までの道を聞く。
教えてもらった道を歩きながら、町を見る。
剣と魔法の世界だけあって、武器屋、道具屋があり、そこにいるのは冒険者のような服装をした人たちばかり。
私も、仲間を見つけて、あそこを歩くことになるのだろう。
私の手持ちは150ソル。この国のお金の単位は『ソル』というらしい。
1ソル1円くらいだろうか。
ちょっと近くの道具屋を覗いてみると、薬草1つ、10ソルだった。
神様にもらったお金は、案外安かったのかもしれない。
しばらく歩いていると、道具屋、武器屋などの数が減り、民家などが多く連なっている
場所に出た。街行く人々も、冒険者などではなく、王国に仕える兵士が増え、街の住人なども多く歩いている。
町を見ながら歩いていると城が見えてきた。
その城は、中世の城のような見た目、大きな容貌は息をのむほどの美しさだった。
入り口前には、鎧に身を包んだ門番のような人が、2人。
そこを通ろうとすると、門番が手に持っていた槍を私の前でクロスさせるようにして、
道を阻んだ。
「王に何の用でしょうか」
冷たく言い放たれた。私は怯まずに言う。
「私は神に選ばれた勇者です。王様に認められに来ました。怪しい者ではありません。通してください」
「勇者である証拠を見せていただこう」
「え、証拠?」
「うむ」
まいったな。証拠なんてないんだけど。
「あ、そうだ。神様に電話しよう」
腐っても神様だ。何か知っているだろう。
「はーい、神様でーす! 何だい? 僕の出番?」
期待するように言う神様。
「勇者って信じられてないんですけど。どうするんですか? 証拠ってないんですか?」
「証拠、証拠ねぇ…。あ、冒険者カードは? 書いてあると思うよ?」
「え、何? 冒険者カードって」
「冒険者カードっていうのは、その持ち主である冒険者の、ステータスを表示するものなんだ!
あ、スキルとかもそこで見れるよー!」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
即通話終了。ポケットに突っ込むとメールの着信音がなる。
尋常じゃないほどの数だった。
何これ怖い。
それを無視して門番に向き合う。
「これでどうですか?」
私は見えるように前に冒険者カードを突き出す。
「うむ。先ほどのご無礼、お許しください。お通りを」
そう言って通してくれた。
中は螺旋階段やら、甲冑など、いかにも王宮という感じだった。
中に入ると、入り口付近にいたメイドさんらしき人が、案内してくれた。
王宮だけあって広い。迷うなんてことはないのだろうか。
「こちらです」
メイドさんは大きなドアの部屋の前に立ち止まって言った。どうやら、ここに王様がいるらしい。
私はお礼を言うと部屋に入った。
中には玉座があり、そこまでの道の両脇には、銅像がある。
私は玉座の前まで行き、王様と顔を合わせる。
王様は予想以上に若く、丸々としていた。親から絶対甘やかされた系だ。
「今日は、貴方様に勇者であることを認めてもらいたく、参上いたしました」
なんとか綺麗な言葉遣いを心がける。
「え、もうそんな時期? 早くない?」
なんだろう、このふてぶてしさ。
威厳? なにそれおいしいの?
そんな感じだった。
「えー、めんどくさ。ボルビノ。何するんだっけ?」
ボルビノ、と呼ばれた人は、紳士のような立ち振る舞いのちょっと白髪が混じった老人だった。
「はい。この書類に王のサインをしていただき、供に旅をするお仲間をお探しになられなければございません」
え、うそ。そんだけでいいの? 儀式とかないの?
「サインね」
そう言って王様は書類にサインをし、そして、それを投げた。
いや、投げるなよ。
「仲間ぁ? そんなのギルドで探せばいいじゃん」
「で、ですが王。それも王の仕事ですので」
ボルビノさん。哀れ。
王様が小さく舌打ちした。
あら聞きました、奥様? まぁ、性格の悪いこと…!
そんな会話が繰り広げられているときに、慌ただしく兵士が数人入ってきた。
そのうちのリーダー格の兵士が、大きな声で言う。
「王。お話し中、申し訳ないのですが、金庫に泥棒が侵入しておりまして、
その泥棒を確保することに成功いたしました。
その処分をご命令いただきたい」
いや、そういうのは後からだろ。今はこっちだろ。
すると王様がいきなり唸りだして、しばらくしてから無茶なことを言い出した。
「じゃあ、そいつ。勇者の仲間で」
「「「はぁ!?」」」
多分、この場にいた人、全員が言っただろう。
てか、勇者の仲間って名誉なことじゃないの?
何泥棒にやらせてんの? バカなの?
「で、ですが、しかし…」
ボルビノさんやリーダー格の兵士も言いよどんでいる。ここは皆、私と同じ考えらしい。
「口答えしない! ここでは僕がルールなの!」
と自己中発言。
もう、周りの人たちは諦めムード。
「では、その者をここへ」
そうボルビノさんが言うと、兵士の人は泥棒を縄で縛って連れてきた。
「え?」
私は思わず声をあげてしまった。連れてこられたのは年は私とそう変わらないくらいの美少女。
髪の色は、金髪。髪を横に束ねており、服装は盗賊のようなものだった。
「では、この者をダルン王の名において、勇者と苦を供にする仲間となることを認める」
ボルビノさんはそう言って、私は、この少女と仲間になった。
私達が王宮から出たときには、もう日が暮れていた。
城から出るときに、ボルビノさんからお詫び、という形で5万ソルトをもらった。
これで、2日目も泊まれそうだ。
宿屋に帰ってくるまで、泥棒の少女とは一言も話さなかった。
部屋に来て、最初に口を開いたのは少女だった。
「あんた、勇者なの?」
透き通るようなきれいな声だった。
「あ、うん」
「私はイリーナ。イリーナ・イレイザンよ。盗賊をやってるの」
「あ、僕は神無月あおい。不幸勇者なんだ。よろしく」
私も軽く自己紹介する。すると、イリーナは驚いた様子で、
「え、お、男だったの!? ご、ごめん! 女だと思ってた」
私が僕っ子だということを説明するのに20分ほどかかった。
説明している時に、イリーナは何やら興奮するように鼻息を荒くして、
『ホモ?』だとか『相手は誰?』だとか、
『受け?攻め? いいえ、言わなくても大丈夫、私にはわかるわ。受けね?』だとか。
せっかくの美少女が台無しだ。
イリーナは腐女子だった。
イリーナが仲間に加わった。
私達は明日に備えるため、早めに寝ることにした。
初めての仲間が出来た。性格はどうであれ、心強い。
何せ、私はこの世界について何もしらない。神様も頼りない。
やはり、この世界に住んでいる人ほど、心強いものはない。
異世界の人最高!
---
私は、いつの間にか神の領域にいた。いつ寝たんだ、私。
神の領域に来て、最初に目に入ったのは、神様が体育座りをしていじけている姿だった。
そう、神様は拗ねているのだ。
「何拗ねてるんですか?」
面倒だが相手をしないと助言してもらえないのだ。
「だって、あおいが僕からのメール。全部無視したじゃないか」
こいつ、呼び方を君からあおいに変えてやがる…! いつの間に。
「だってめんど…いえ、王様に会いに行くところでしたし、構ってる暇がなかったんですよ。
すみませんって。これからはぜんぶに目を通しますから。ね?」
「絶対だよ?」
「はい、必ず目を通します」
「ならいいよ!」
そう言って神様は立ち上がって背伸び、あくびをする。
「そういえば、神様なんだから、予言みたいな事出来ないんですか?」
「あぁ、そういうのは低級の神は使えないんだよねー」
「そうなんですかー。本当に使えませんね!」
私は満面の笑みで言う。
「ひどい! そこまで言うことないじゃん。それもそんな満面の笑みで!
僕泣いちゃうからね! 本当に泣いちゃうもんね!」
本当に泣きそうだったので、私は、「まぁまぁ」と言いながら落ち着かせた。
「前から思ってたんですけど、神様って、何歳なんですか?」
「何々? もしかして僕を恋愛対象として見るために年齢聞いてるの?」
と期待するように言う神様。淡い期待はしないほうがいいぞ。
「想像の翼を広げすぎない方がいいですよ? 現実は人を打ちのめしますからね」
「そんなこと言わないでよ。それに、ぼ、僕人間じゃないし」
目を逸らした。
「で、何歳なんですか?」
話を戻す。
「5歳だよ!」
「まだ子供なのに出世争いかよ」
まったく、最近の若いもんはこれだから…。
「子供扱いはやめてよね! 神の中では5歳は成人なんだから!」
5歳児の神様に願掛けしている私達って、いったい…?
「あーわかりました、わかりました。もういいです」
「なんだよー。あおいから聞いたんじゃないかー」
「はぁ…」
仕方ない。
「わーすごいですねー。ぱちぱちぱちー。 …これでいいですか?」
形が大事なのだ。形が。人間は、心にも思ってないことを平気で言う。それと同じだ。
「うんうん! そのまま僕のこと崇めてよー!」
「そういえばこれからどうすればいいんですか?」
「え!? 無視かい!? まぁ良いんだけどさ。どうすればいいか…。
うーん、ギルドで依頼受ければいいと思うよ。2人以上でパーティが組めるはずだからさ」
と、神様にしては意外にまともな助言。
「案外まともな助言ですね」
「僕はいつもまともな助言を言ってるよ?」
「自分では気づかないこともあるよね」
「何でそんな可哀そうな子を見るような目を向けてくるのさ」
「まぁいいから、さいならー」
「ばいばーい!」
そして私の意識は途絶えた。
--- シルティ・ベルト視点 ---
新緑が香る、静かな森の中を、私は歩いている。
『迷いの森』 それがここに住む人間たちが、この森に付けた名前だ。
ある人から、領地としてここを守れ、と言われてから何十年経っただろう。
いつもは静かな森がざわついている。
この森がざわつくことはそうそうないことだ。
おかしい…。
私が、森を訝しみながら歩いていると、
「ちょっ! ヤバいってー!!!!!」
そんな声が聞こえた。
私が声のする方へ走っていくと、一人の少女が『魔法使い』に襲われていた。
少女は、身動きの取れないといった状況だった。
危ない…!
私は、何かを考える前に、詠唱を始めていた。
「ウォーターボール!!!!」
私の手のひらから出現した水の玉は、『魔法使い』が打った火の玉とぶつかり、大きな蒸発を起こした。
『魔法使い』は勝てない、と察したようで逃げていった。
私は、未だ尻餅をついたままの少女に
「あなた、大丈夫? 立てる?」
そういって手を差し伸べた。
彼女は私の手を取り、立ち上がる。
すると、少女は私の胸を見て、ため息をついた後、思い出したように、
「あ、ありがとうございます!」
といった。
「いいのよ。それにしてもあのモンスターがこんなところに現れるなんて、珍しいものね。
とても強いから大変だったでしょう?」
私がそういうと、彼女は少し気まずそうにしていた。
どうかしたのだろうか。
「それにしてもあなた、たった1人で森に来るなんて。案外命知らずなのね」
私がそう茶化すと、
「そ、それが…」
少女は目を逸らしながら言いよどむ。
「?」
「ま、迷いこんでしまって…」
どこか遠いところからやってきたのだろうか。
だが、疑問は残る。
この『迷いの森』は、全国でも名の知れたダンジョン。
1人で入るなんて、命知らずにもほどがあるというものだ。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「あら、そうだったの? 地図って持ってる?」
私が問うと、彼女は、おずおずと地図を差し出してきた。
私は地図に目を通す。
!?
「これは…。20年ほど前の物だわ。よく手に入れたわね」
若干顔が引きつってしまうのは仕方がないことだ。
20年も前の物が残っていること自体変なのだが、そのことよりも私が顔を引きつらせてしまうのには
もう一つの理由があった。
なんだこの絵は。
その絵は、5歳児の子供が、落書きとして描くような物だった。
まさかこの少女が…?
私が地図に書かれた絵について考えていると、
「すみませんが、アルヒカルティエまでの道を教えて頂けませんか?」
遠慮しがちに言う少女。
「えぇ、もちろん。道まで送っていくわ」
この少女だけだと、なぜだかすごく心配だった。
それに、時間はいらないほどあるのだ。
私の勘は当たっていた。
道中、普段はこのダンジョンに生息していない『デストカゲ』など、強すぎるモンスターが出没し、
襲いかっかってきた。
少女だけだったら、と思うとぞっとする。
あまりにも強いモンスターが頻繁に現れた為、
「何でこんなにも強いモンスターが出てくるのかしら。おかしいわね」
と、つい呟いてしまう。
この時も、後ろの少女はなぜだか申し訳なさそうだった。
モンスターに襲われながらも、私達は、アルヒカルティエへ続く道までやってきた。
「ここをまっすぐ行けばアルヒカルティエに着くはずよ。頑張ってね」
私がそう言って立ち去ろうとすると、少女は
「はい。ありがとうございます。一つ、いいですか?」
そう言った。
少女は、私の返事を待たずに続ける。
「あなたは誰なんですか?」
私は、少し考えたあと、ずっと被っていたフードを脱いだ。
そこから流れ落ちるように赤い髪が出てくる。
少女は少し驚いたようにしたが、私は口を開き、
「私はシルティ・ベルト。ただの魔法使いよ」
そう言った。
私は少女と別れ、森へ戻った。
少女と別れてから数時間経った時、イービルバードが手紙を運んできた。
イービルバードは魔界のモンスター、ということは『あの人』からだろうか。
私は手紙を読む。
『シルティ・ベルト殿
このたび、魔王である俺様を倒しに天界から、また、なんちゃって勇者がやってきたので作戦会議します。
四天王は集まってくださーい!
魔王城で待ってます。
魔王 マリグナント 』
相変わらず彼は彼だな、と思う文章だった。魔王城に持っていかなくてはいけない物などないため、
私はすぐにこの森を出た。
風は私を優しく包み込んでくれる。
ようやくあの少女の正体がわかった。そして、あの不思議な事件の真相も。
「不幸勇者。また会える時を待っているわ」
『あの人』 否、魔王の待っている魔王城へ私は歩き出した。