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不幸体質の私が異世界で勇者やってます  作者: クレイジーな猫
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プロローグ

始めに言っておこう。

私は不幸体質だ。



今日もやっと億劫な授業が終わった。

今は帰りホームが始まろうとしている時間帯。

ここは藤咲市白咲町。私、神無月(かんなづき)あおいは、市立(しりつ)(しろ)(さき)青葉(あおば)第二(だいに)高等学校(こうとうがっこう)に通っている女子高生である。



冒頭で言った通り、私は不幸体質だ。

私がそういうのにも理由がある。それは、去年の文化祭のことだ。



---



「あそこのくじ引きって当たりしか出ないよな」

文化祭に来ていた同い年くらいの男子高校生。見たことのない生徒ということから別の高校の生徒だろう。

連れの男子高校生とくじ引きのことを話しているらしい。

「あぁ、あそこな。もう当たりしか入ってないんじゃないのか?」

「てか、予算とか大丈夫なのか? まぁ、エリート校のスネでもかじりゃあいいんだろうけど?」

失礼な話だが、その通りなので言い返せないのが現実だ。



彼らが言っていたくじ引き、もしかしたらあそこかもしれない。

「行ってみようかな」

それだけ当たりが出るなら私でも、そう思い歩き出した。



私が今、並んでいるこのくじ引きには当たりとはずれ、大当たりの3つある。

当たりを引いたら鉛筆などの文房具。はずれは飴玉1つ。大当たりは秘密らしい。

この情報は私の数少ない友達に教えてもらった。私の番が近づく。



あの男子高校生達が言っていた通り、連続して当たりが出ている。

予算大丈夫なのか? そう思ってしまうほど当たりが出ている。いくらスネをかじっていようとあれは異常である。

はっきり言って怖い。当たりが出るたびベルがなるのだから。頭が痛くなってきそうだ。

みんな運が良いの? それとも当たりしか入ってないの?

いよいよ私の番だ。



箱に手を入れ、中から一枚の紙切れを出し、係りの生徒に渡す。

「当ったりー! …じゃな…い?」

私が引いたくじを見て、係りの生徒が言いよどんだ。

顔を窺ってみると、心底驚いたような顔をしている。

異変に気が付いたのか店番の生徒たちも集まってきた。

皆、くじを見て驚いたような顔をし、私とくじとを交互に見ている。

「「「あ、あれ?」」」

多分店番の子たち全員の声だっただろう。



まさか…。



くじを見ると、

「はずれ。」

あぁ、やっぱり。



「ご、ごめん!」

そのあと、少し放心状態だった私を友達がトイレまで運んできてくれたらしい。

なぜトイレに運んできたのかはなにも言うまい。

「まさかはずれくじ引いちゃうなんてびっくり! あのはずれくじ、1つしか入ってなかったの。ある意味運良いんじゃない?」

友よ。より心をえぐるようなことを言うんじゃない。

「はぁ」



---



この話だけならちょっと運が悪いだけだが、私の運が悪い話はこれだけでは終わらない。



飼っていたハムスターが飼った初日に勝手にドアを開けて脱走し、帰らぬ人ならぬ、帰らぬハムスターとなったり、

買ってあったはずのノートが知らないうちに消えていたり、じゃんけんで一度も勝ったことがなかったり、

交通事故なんてしょっちゅうだ。


恐ろしいことにその不幸は周りの人にまで及ぶのだ。


この体質、どうにかならないだろうか。



昔のことを思い出しているうちに帰りホームは終わっていた。

教室にはもう残り数名しか残っていない。

皆、もう部活へ行ったりしているのだろう。



私は帰宅部に所属している。そのため、部活に行く必要がない。

カバンに教科書類を突っ込むように入れ、私は足早に教室を出た。



私の通っているこの市立白咲青葉第二高等学校は、見てわかるように第二高等学校だ。

もちろん第一もある。



第一と第二の違いは簡単に言うと、

第一は各分野で優れている生徒が集まる、藤咲市でも名の知れたエリート校。

第二はその落ちこぼれが集まる学校。

と考えるのが一番まともだろう。



第二にいる私も、もちろん落ちこぼれである。



私の家は母、父、弟の私を合わせて4人家族。

母はグロい外国のドラマを見ながら大笑いしている変人。

父はリビングでパソコンを陣取り、ネトゲ廃人と化しており、

弟は学校にも行かず、自分の部屋に引きこもりじっとしていて、

生きる意味を失ったかのように、死んだ魚のような目をし、呆然と佇んでいる。


見てわかるように、私以外全員クズなのだ。否、私もクズなのかもしれない。


自宅へ着いた。私の家は学校から徒歩10分程度のところにある。

寄り道しても暗くなる前には帰れる超お手頃住宅なのだ。



私はドアノブに手を掛ける。

「ただいまー」

「おかえりー」

「!?」

おかしい。いつもは返事も返ってこないのに…!

もしかして、金がないからとか言われて売られるんじゃ…!

いや、さすがにそれはないか。今の世の中、そんなこと起きてない、はずだ。


私はリビングに入る。


案の定、パソコンでオンラインゲームをしている父がいる。

私はそんな父を無視し、ソファに座り、テレビをつける。

今の時間帯はニュースが放送されているはずだ。



『今、注目の的の市立白咲青葉第一高等学校の女子高校生、三上神奈(みかみかな)さん!

 女子高校生失踪事件などの事件を解決に導いた実績があります! そして… 』



ニュースキャスターが興奮するように言っている。

最近、お茶の間を騒がせているのは第一に通っているこの少女、三上神奈。

美少女の類に入るであろう容姿をしており、テレビ画面には友人だろうこちらも美少女が映っている。

世に言うクールビューティだ。眼鏡をかけていて、どちらかというと三上神奈とは正反対な印象である。

そんな彼女たちを見ているとため息が出る。

第一と第二でこうも違うのだ、そう改めて思い知らされている気がした。

「私、もう寝る」

「おう」

私が自己嫌悪に陥る寸前、父はゲームに集中しているせいか気の抜けた返事をした。



もう疲れた。こんな時は全てをを忘れて寝るのが一番だ。

我ながらクズみたいな考えだ、だがそんなことが、もうどうでもいいと思えるほど私は疲れきっていた。

私はベッドに潜り、眠りに落ちた。



---



この日も私は億劫な授業を受けるべく起き上がろうとする。すると妙に体が軽い。

「あ、起きた?」

声のする方に目をやると、



変な人がいた。



服装はジャージに長ズボン。ラフ格好をしている。

年齢は17、18歳位。

髪の色は少し青みがかった白。目は深い青。超が付くほどのイケメンだった。

そんな彼が軽い感じで話しかけてきたのだ。そう、私に。


「あ、あなたは…?」

こんなイケメンと話す経験はない。こうなって当然だ。

「あ、僕? 僕、神様!」

と、ドヤ顔。

なんだ、厨二病か。

私にもそんな時期があったが、ここまで長引くとは…。



「今、君が思ったこと当ててあげようか! むむ…。ぶ、無礼者! 神に向かってなんて態度だ!」

頭に人差し指を当てたかと思うと、いきなり怒り出した。どうやらさっき思ったことが読まれてしまったらしい。



「だって、『1年前から実家に引きこもって、朝から晩までネトゲやってます!』って感じの人に、

ドヤ顔で『僕、神様です!』なんて言われて信じる人いますか!?」

相手が、超の付くほどのイケメンだというのに、私は、今すぐタメ口でツッコミそうだった。

よく耐えた、私。

「い、いるもんっ…」

目をそらしながら言う姿には神の威厳などこれっぽっちもなかった。



「ていうか、ここ、どこなんですか?」

最初の緊張はどこへやら。

周りを眺めると、どうやら私は全面真っ白の部屋にいるらしかった。

「よくぞ聞いてくれました!」

満面の笑みを浮かべて喜ぶ神様。そしてこう繋げる。



「ここは、君達が住んでいる地球と異世界の狭間、神の領域」



こんなバカの塊のような奴でも、その容姿の良さから何でもカッコよく見えてしまうのだ。

まったく理不尽な話である。


「え! じゃあ僕、神デビュー!?」

「え? 僕? 君、男の子だったのかい?」

「はぁ。私、僕っ子なんです。神様なのにわからなかったんですか?」

「し、しかたないよ。僕だって大変なんだよ? 君の一人称を気にしている暇もないんだよ?」

そう神様が言ったのを私は見逃さなかった。


「じゃあこれは?」

私は神様のパソコンを神様に見えるようにして操作する。

そこには、ネットゲームをした動かぬ証拠が映っていた。

それを見た神様は血相を変えて、慌てて私からパソコンを奪う。

「こ、これは休憩の時に…」

だが、私は見た。

恐ろしいほどのプレイ時間を…。あれは、結構最近に配信しだしたゲーム。

休憩時間であれだけは流石にキツイと思う。



父が、

「これおもしろいな! ずっとやっていたいな! 俺のゲーム魂が唸るぜ」

相変わらず、厨二病めいた発言は控えてほしいと思う、と呆れたのを覚えている。


私が呆れ返っていると、逃げるように神様が言った。



「は、話を戻そう。神無月あおい、君は神に選ばれた! これから君は異世界で勇者として、

新たな人生を歩むのだー!」



そう神様が両手を広げて言った。



「なんで僕なんですか」

大事な問題だった。こんな面倒なことは出来るだけ避けたい。


「えっと、マニュアルによると、『異世界には、幸福勇者、無気力勇者、明暗勇者、暗黒勇者がおり、

最後は不幸勇者が必要じゃ。そこで君が選ばれたんじゃ! ホッホッホー』以上」

マニュアルについては何も言うまい。



「何で選ばれたのはわかりました。何すればいいんですか? …ってなると思いましたか?

バカなんですか!? 拉致ですよ? 犯罪ですよ!?」

「まぁまぁ、落ち着こうよ?」

「落ち着いてられませんよ!」


「聞いてよ! これ拉致じゃないし、それに君が今から行くところは剣と魔法の世界だよ?

あの、ド●クエとかの世界だよ? 嬉しくないの?」

「著作権問題に訴えられますよ? 自首をオススメします」

「いや、違うから! そんなのじゃないから! 聞くだけ聞こう?」

私は唸るようにして考える。


確かに、人間だれしもが一度は夢見る『剣と魔法の世界』。そこに行かせてくれる、

というのはこれまでにない大きなチャンスだ。だが、ここで素直に喜んではいけない。

悪魔で「仕方がない」というのを表さなければいけないのだ。

素直に喜べば、それは敗北を意味する。


「聞くだけです。どうぞ」

私は、悪魔で『仕方がない』風を装い言った。


「別の勇者よりも先に仲間と魔王倒して? 僕のために」


「は?」

数秒前の自分を叱ってやりたい。

なにが『仕方がない』だ。


「だから、僕の出世のために魔王倒して?」

今、神様は何と? 出世?



そのあと言っていたことをまとめると、

・低級の神同士で出世のために地球から一人、人間をつれてきて、○○勇者と称して、魔王を倒すよう命じる。

・一人しか出世できない = 早い者勝ちで魔王を倒さないといけない。


このことからわかることは、

・私が、『自称神様とか超ウケる!(笑)』とか言っても相手は何も言い返せない。

・私には無理。



「えー。頑張ってよー」

「じゃあ、チートの武器か能力みたいなのでもいいのでください。そしたら僕、頑張ります」

「ねぇ。君、本当に女の子? 女子力無さすぎない!?」

「あ、僕、もう女子であることやめたので。ていうか、そういうのないと僕、勝てませんよ?」

そう言うと、神様がモジモジしはじめた。


「実は…、僕そんなの出せないんだ! ごめんね?」


あぁ、これダメなやつだ。もう開き直っちゃってる。


私はすぐに諦める。

「あ、そういえば。異世界の言葉とかどうするんです? あっちで勉強とかシャレになりませんよ?」

「それはなんとかなってるから大丈夫!」

どんな仕組みなのかは知らないがどうにかなるらしい。



「あ、そういえばさ、魔王倒してくれたら何か一つだけ願いを叶えてあげるよ!」



「え、本当ですか?」

「うん。本当さ!」

「なら頑張ります!」

「現金な子だね!?」

なんとでも言え。私は現金な子どもなのだ。将来会社の犬になる定めなのだ。



「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど」



「うん? 何だい? 僕のタイプの女性のことかい?」

「違います。私のパンチが炸裂しますよ」

私が拳を見せると神様はすぐに黙った。



「私が居た世界では、私ってどんな扱いされてるんですか?」

「うーん。失踪事件扱いじゃない? 朝起きたらいないって感じだし」

え? それってヤバくない?

私の不安を察したのか、神様が慌てて付け足す。

「あ、でもでも! 異世界での1年は地球での1日だからさ! だ、大丈夫だよ!」



「じゃあ、死んだら?」

「え、死ぬの?」

神様が驚いたように言う。

「いや、死ぬ気はないですけど、もしもの時のためですよ」


「うーん。じゃあパパに電話しよう!」

え? パパに聞くの?

そういうと、神様は、着ているジャージからスマートホンを取り出し、

「あ、もしもしパパ? え? 誰って? あなたの可愛い息子だよ!」

どうやら『パパ』に聞いてるらしいが、いつもあんな感じなのか。



ツー、ツー、ツー…。



「あ、あれ? 切れた?」

おい。大丈夫か、親子関係。

「いやーパパさー。いつも僕のこと『バカ息子』って呼んでて、いろんな人に自慢してるんだよね! 

だから、『可愛い息子』じゃなくて『バカ息子』って言わないとダメだったんだー! もうめんどくさいなー!」


手で頭をかくようにして、頬を赤く染める神様は恥じらい以外には何もなかいようだった。

いや、自慢してないだろ。神様って天然なの?

確かにバカだしさ、頭おかしいけども…!

ここまでだったとは、もう不安しかないよ?

もう、美形しか残らないよ?



「うーん。じゃあ、5回まで死んで良いことにしよう! 死んだらここに送られるってことで!

うん! それでいいや! 僕って天才!」

自分をべた褒めしている神様は放っておいて。  



5回、5回かぁ。多い方だろうか。

「5回死んじゃったら、どうなるんですか?」

ここは大事だ。聞いておいて損はないはずだ。


「うーん。天国逝き?」


マジかよ…。ていうか、

「なんでそんなに気楽そうなんですか?」

私は神様の肩を揺らしながら言う。

「だ、大丈夫だよー。そう簡単に死なないよー。多分」

「最後の言葉は何なんですかー! 他人事みたいに言ってー!」

「僕人間じゃないしー」

「そんな事言ってるんじゃないんですー!」

そんな言い合いをしていると、神様はすこし考えたあとに、


「じゃあ、5回以上死んじゃったら僕がなんとかするよー」

「え! 本当ですか!」

「うん。だからさ…?」

「?」

なんだろう、変なこと言われなきゃいいけど。



「僕を崇めてくれないかなー?」


……。


「あ、僕、もう行けます。早く送ってください」

「え! なんでだい!? なんで聞いてないみたいなこと言われるの!?」

神様がそんなことを言っている内に、私の意識は途絶えた。




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