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8.同僚は御姉様

琴音視点( *^ー^)

 マネージャーと名乗った美形面接官に、扉の向こうのとんでもない景色を見せられた。

 琴音が呆気にとられていたら、放課後間近なホームルームの教師みたいな早口でざざっと説明をしてくれて、琴音は鍵を受け取り体が消えた。赤ん坊ごと。

 最高にいい笑顔でサムズアップしているマネージャーが見送ってくれたのだが、気がついたら大して変わらぬ景色のなかに立っていた。自分が消える必要あったんだろうか? ドアが消えてるだけならそっちが消えろよ。

「あ、あれ?」

 あまりに不思議な現象に思わず声をあげたら、足元に人が動く気配がして、きっちりメイクでキメた女性が体育座りしているのが目に入る。

 赤ん坊預かったまま、知らない場所で立ち往生から、仲間が居た安堵に思わず赤ん坊をだきなおし、ついでにさっきのマネージャーの言葉を思い出す。

『先に河野月香という派遣社員が現地に行っている。君もそちらで詳しい事を聞きたまえ』

 きっとこの人が派遣の河野さんだろう。

 そう確信して声を掛ければ、彼女はにっこりと挨拶を返してくれた。

 ほっとした琴音は、そのままぽてんと草の上に座り込む。

 制服の下にスパッツは、最近の流行りじゃないが何時でもどこでも座れるうえに、冷えない蒸れない最強装備だ。

 昔はジャージ女子なんて種族も居たらしいけど、そこまで化石じゃない筈だ。 ふと月香を見れば、かっちりしたスーツのお尻にハンカチを敷いて座っている。これが大人のたしなみか。

 ぞんざいな自分がちょっと恥ずかしい。

 それにしてもこの人、腰細いなぁ。

 ちょっとプニかけた自分のお腹と比べて、かっちり前のボタンを留めてあるのに布目の引き吊りの無いウエストが凄い。ついでにウエストを際立てる胸の盛り上りも凄い。そして、腰が細い人は足首も細い!

 琴音は制服のボタンを外した上にレマを抱いている事で隠れた胸とお腹に安心した。並んで座る為の遮蔽物は大事だ。うん。

 足は隠しようがないけれど。

 あれこれ自分と比べて惨敗しつつ、やっと顔の観察に入る。

 とりわけて美人と言うわけでは無いが、不細工には程遠く中の上か上の下。つまりは普通ちょい上。(女は幾つだって同性の容姿評価は厳しいのだ)だが、めちゃくちゃ化粧映えする人だ。

 隙の無いメイクが、彼女をできる女だと証明している気がした。

「河野さん。これからどうなるんでしょう?」

 頼れそうな御姉様の存在に、琴音の口から弱音が漏れる。

 レマがきょとりと見上げてきた。

「月香で良いわよ。そうねぇ……マネージャーの説明だと、此方に誰か迎えが来てくれるらしいけど」

「あたしの事は琴音でも琴でも琴音ッチでもコッタンとかネッチとか好きに呼んで下さい! 月香さん!」

 優しい返事に嬉しくなって、まくし立てる琴音は、しっかり予定を把握しているらしい月香への尊敬が沸き上がってきた。こんなキャリアウーマンと一緒で良かった。

 もう安心だ。

 キャイキャイとはしゃぐレマをバンザイさせたりして喜ぶ琴音は、多分軽めのストックホルム症候群に近い状態だったのかも知れない。

 本人達に自覚なんてありはしないが。


「迎えが遅いですね〜」

「ね〜」

 レマと頷きあっていると、月香がマネージャーから渡された鍵を眺めていた。

「あ、月香さんのは青い石なんですね」

 レストルームへの鍵を指差して、自分の取り出す。後でストラップかネックレスにでもしよう。

「あたしのはピンクのハートなんです」

 えへへと鍵を振る。

「最新ウォシュレットって、どんなのでしょうね〜」

「そうね、それだけが楽しみだわ。この景色は綺麗だけど、人里が文明的かどうか心配だもの」

 月香はそう言って苦笑した。

「いきなりこんな野っ原に放り出されるなんて、笑っちゃうくらいテンプレ過ぎだわ。このままだとたどり着く人里のトイレは壺。って場合が大いにありそうでしょ?」

 言われてみれば確かにそうだ。中世ヨーロッパは衛生面の最悪さが騎士物語のロマンチックをぶち壊す。白銀の騎士のフルプレートアーマーが、剣道の防具の夏の臭いと言われた時にゃ、琴音は幻滅の悔し涙が出たものだ。

「そういえば、あたしたち異世界トリップしちゃってるんですよね?」

「まるでクローゼットの奥に迷いこんだみたいね」

 月香が肩を竦めて有名なファンタジーになぞらえた。迎えがライオンだったら赤ちゃんは泣くかな? 自分はもふもふしたいんだけど。

 見当違いな事を琴音は考える。

 くっさい汚いは別として、それでも剣と魔法の異世界には憧れる。

 魔法の杖を振りながら、箒に乗って空を飛ぶ……

「そうだ、魔法!」

 琴音はぴょこんと飛び上がった。

「こ……琴音ちゃん?」

 なにを言い出すんだ? と言いたげな月香に、琴音はレマを掲げてくるくる回る。

「異世界なんだから魔法ができますよ!」

 根拠なんて何処にもないが、自信と確信を持って琴音は言い放った。

「きっとここならできますよ! ファイヤーアロー! とか言ったら、火の矢が……」

 赤い細長い何かが、琴音の近所から瞬時に遥か遠い森の向こうへ飛んでいき、火柱がキノコ雲を作り上げる。

「……」

「……あれ、あたしですかね?」

 唖然と呟く琴音に、月香は冷静に首を傾げた。

「う〜ん。赤ちゃんも一緒にあろーとか言って指差してたから、二人掛け?」

「ですよね。あたしだけじゃないですよね」

 有名な最終幻想ゲームの双子の切り札を言いながら、チュドーンと遅れて響く着弾音に、物理の法則はここにもあるのかとぼんやり思いつつ遠い森の煙を眺める二人だった。

( *^ー^)大きくなったら無くなっちゃうのが寂しい二人がけ。


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