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67.思わず

 エリューシアは、とても優しくて世話好きな人なのだ。

 病み上がりの月香を気遣う様子を見て、琴音はそう思った。

「殿下、さすがに歩けますから……」

「父上と叔父上の命の恩人だからな。大切に扱わないと私が叱られる」

「お祖母様にですか?」

「そうだ」

 月香は照れるのか渋い表情をしているが、そんな風に言われてしまったら断れもしないのだろう。ふかふかのソファーに座らされて、エリューシアのかいがいしい気配りにされるがままになっている。

「そういえば、国王陛下と宰相閣下はどんな感じなんですか?」

 お茶を飲みながら、月香はエリューシアに尋ねた。

「わだかまりが解けたようには見えるな。叔父上主導で、毒物を酒に入れた犯人捜しと、その他の政務をこなしていらっしゃる。――まあ、犯人の方は見つかることはないんだが」

 月香は、カップをそっとテーブルに置いて俯いた。琴音は、『犯人』の事を考える。

 アンジュ。ザークレイデス皇国の皇子だったなんて。

 ダンスがとても上手だったのも、育ちのためだったのだろうか。それから、物腰がとても上品だったことも。

 でも、いつも親切にしてくれたのは。

 この世界に来た時、初めて逢ったのはアンジュだった。神殿まで案内してくれて、そのあとも王宮で顔を合わせる度に親しげに言葉を交わしてくれた。

 いい人、だった。

 いい人だと、思っていたのに。

 琴音は、きゅっと拳を握る。

「ねえた」

 レマが、よちよち歩いてきた。両手をうんと伸ばして、琴音の膝の辺りをてしてしと叩く。

「だっこ?」

「あい」

 琴音は微笑んで、レマを膝の上に抱き上げた。赤子は機嫌良く、きゃっきゃと笑う。その様子に、月香とエリューシアも表情を綻ばせた。

「レマちゃん、お菓子食べる?」

「あい!」

 琴音は、自分の前にある皿からクッキーを一つつまんで、レマに渡した。レマは両手でクッキーを掴み、上手に口に入れる。くずがぼろぼろテーブルに落ちるが、それはしかたがない。

 レマを撫でながら、琴音は溜息をついた。

 お菓子がおいしくて、毎日いろいろなことがあって、楽しいアルバイト。今でも基本的にそれは変わらないが、やはり辛い。

 月香が、元気がないから。エリューシアが、時折張り詰めた表情を見せるから。

 アステルと、以前話していたことを思い出す。月香は、アンジュを好きだったのではないかと。少なくとも、嫌いではなかったと思う。そんな人が、悪いことを企んでいてしかも逃亡中だなんて事になったら。

「月香さん」

 言葉が、口を突いて出ていた。深く考えていたわけではない。

 だから、自分の方を見た二人にこういったとき、一番驚いたのは琴音だった。

「アンジュさんを探しに行きましょう」

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