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6,バイト先には虹を越えて

( *^ー^)大事は日ほど何かが起きる。

初日遅刻は乙女ゲーヒロインの条件かも

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 琴音は必死で階段を駆け上がった。

 まさか乗り過ごすなんて、まさかラッシュでドアまで行き着けないなんて!

 ついでにエレベーターが点検で停止なんて!

 頭の中で遅刻の言い訳を考える。

 琴音的には不幸の連続としか言えない。でも、そう言ってしまうと、ただの言い逃れにしか聞こえ無い。

 手の中の紙切れを握りしめ、せめてこれが効力を発揮してくれますように。と一縷の望みを掛けるだけだ。

 実は遅刻に関して、琴音には何の責任もない。

 琴音は結構時間は守る子なのだ。

 学校を出て駅にに着いた時点で、現地には20分は余裕で着ける筈だった。何しろたった二駅だ。それなのに……。

 本当に冗談のような不運ぶりで、うっとりとカタログを眺めていたら、どっかのバカが線路内に入ったとかで電車が止まり、おかげで次の駅で死ぬほど人が乗って来てしまった。

 そのせいでせっかく確保していたドア前の場所から、列車中程迄に追いやられ、次の駅で人垣をぬけれずに乗り過ごし、次の駅でやっと折り返して戻って来たものの、目的地までは歩いて10分。約束時間は後11分。

 せめてと駅で配る遅延証明を受け取って、後はだだひたすらダッシュした。

 なのに、ビルのエレベーターは点検で停止中。

 神は我を見捨てたもうたか!

 ぜーぜーと息を切らせてドアの前で急停止。

 時計は健闘虚しく5分過ぎだ。

「遅刻しちゃったよ初出勤」

 悔しさと無念さで涙ぐみながら、ノックをしようと手をあげると、ドアは触れる前にスルリと開き、

「バブー」

 可愛い声が出迎えてくれた。

「あ、あら……」

「ねえた、いらっちゃい」

 舌っ足らずに幼児はいい、まん丸くてふくふくした手を伸ばしてくる。

 面接の時に仲良くなった子だ。名前は、レマといったか。

「こんにちは、レマちゃん」

 なでなですると、子供はきゃっきゃと歓声を上げた。

 かわいい。まだ幼いので顔立ちには現れていないが、目の色からしてきっと外国人かハーフだろう。子供好きの琴音はふにゃ~っと頬を緩め、ついうっかり当初の目的を忘れた。

「おや、琴音」

 面接官の声が上から振ってきてようやく、彼女は自分のしでかした失敗を思い出してさっと青ざめた。

「も、申し訳ありません! ごめんなさいっ!」

 立ち上がるのと頭を下げるのを同時にやって、琴音は遅延証明書を差し出した。

「電車が遅れちゃって、エレベーターが止まって、でもその前に人が線路に落ちて、降りれなくて……」

 しどろもどろの説明を、面接官はどんな表情で聞いているのだろう。初日から遅刻したから、怒られるかもしれない。いや、怒られるに違いない。

 首になったらどうしよう。

 泣きそうになった琴音だが、しかし面接官の言葉は思いの外優しかった。

「うん、ネットで先ほど確認した。大変だったな」

 遅延証明書が手の中から消える。顔を上げた琴音の髪を、面接官はそっと撫でてくれた。

「大丈夫、書類にも書いたように、勤務時間は変わらない。現地の時間に基づいて計算されるからな」

 現地時間。

 そういえば、そんなことも書いてあったような。

「さ、これを持って」

 ぼんやりしていた琴音の手に、何かが握らされた。

 鍵、だった。

 よくファンタジーの漫画に出てくるような、とてもアンティークでロマンチックな。くすんだ銀色というのもおしゃれだ。

「これがないと職場には入れない。絶対に忘れないように。いっそ肌身離さず、首から提げていてもいいかもしれない」

 くす、と面接官は笑い、琴音の背中を押した。

 目の前には、扉がある。

「開けてごらん。今日からそこが君のもう一つの世界だ」

 琴音は、いわれるままに手を伸ばす。

 扉は、簡単に動いた。

 そして――。


 【世界】は始まった。


さあ、やっと始まりだ

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