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45.夢の中へ

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 夢のようだった。

 色とりどりのお酒が入った綺麗なグラス、大きな長テーブルには真っ白なクロスがかけられ、さらにその上に金の縁取りをした赤いクロスが重ねられている。もちろん、その色彩がすべて埋まってしまうくらいたくさんの料理が、盛りつけも美しくずらりと並んでいた。

 異世界から来たという理由ばかりでなく、こんな場所が初めての琴音にはそれらの料理の材料すら想像できなかったが。あと、未成年なので飲酒は禁止と、マネージャーや社長、月香達から固く戒められている。

 もっとも琴音は、とても優しくエスコートしてくれるレナードが隣にいるというだけで、もう十分だった。

 本来のエスパシアであるアンジュは、少し遅れるという連絡を寄越してきたらしい。アステルは多少気を悪くしていたようだが、そもそもアンジュは神官であり、パーティーに出席すること自体彼の職務と属する場所を考えれば異例なのだ。かといって琴音を一人で放って置くわけにもいかないと、アンジュが来るまでの間の措置として琴音はアステルと行動を共にし、レナードが二人の相手を交互に務めるということになったのだった。

 レナードは、長い金の髪を深緑色のリボンでまとめている。同じ色の上着と白いズボンががっしりした長身に映えて、本当に凛々しかった。

 琴音は思わず見ほれて、すぐ恥ずかしくなって俯いた。その視界の中に、あわい水色のドレスの裾が入ってくる。

 下の方は水色で、上に行くに従いピンクに変わっていくという不思議な色合いのドレスだ。ふわふわして手触りのいい布で、胸やお腹を締め付けることもないので動きやすい。それでいて、隠したいラインはばっちりカバーしてくれるという素晴らしいデザインだ。

 一応今日のためダイエットを敢行し、そして見事に玉砕した琴音としては、ドレスをデザインしてくれた人に感謝の気持ちを述べたいところだった。

「琴音」

 レナードが、そっと琴音の手を自分の腕に掴まらせた。いわゆる「エスコート」である。琴音は反射的に逃げようとしたが、寸前で思いとどまった。

 アステルは、兄と踊っている。その間の自分の役目は、レナードの相手役。逃げてはいけない。

 でも異性の身体に触れるなんて家族以外では初めてで、どきどきするのは止められない。

 指先まですべて、とても温かい。

 がっしりとした固い感触が鮮やかに伝わってくる。とても身体を鍛えているようだから、きっと筋肉だ。

 それとも男の人は、みんなこんな風に固いのだろうか。

 あの人も……。

 初めて好きになって、初めて失恋の痛みを琴音に植え付けた、あの人。

 音楽が終わった。レナードがごく自然に、琴音を連れてホールの中央へ進もうとする。琴音は一瞬狼狽えたが、結局それに従った。

 天井が高い。大きな大きなシャンデリアが、目も眩むほどに眩く輝いている。蝋燭ではなく、魔法で点しているのだそうだ。そのせいかどうか、琴音の見慣れている蛍光灯ほどにも明るく思えた。

 フロアには、絨毯などは敷いていなかった。足を取られて転ぶと危険だかららしい。確かに、琴音のような初心者にとって、その方がありがたい。

 レナードが、琴音の身体の向きをそっと変えた。向き合って、琴音の背中に躊躇いがちな掌を触れさせる。

 どくん、と心臓が高鳴った。

 頬が熱い。

 そして、バイオリンに似た楽器が旋律の先陣を切って、琴音を夢のような世界へと誘った。


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