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4.バイトは夢いっぱい

 今日からバイトの初日だ。

 琴音は気合いを入れてみた。

 うん、頑張ろう。

 だから、配られた模試の赤点近所な結果だとか、ちらりと耳に入った彼の噂なんて気にしない。

 気にしないったら気にしない。

 電車のドアに映り込む自分の顔に、にっこり笑ってやれば、ガラスの中のしょぼくれた琴音もにっこり返してくれる。

 OK無問題(もうまんたい)

 それよりは送られてきた書類は間違えてないかの確認して、最後に、添付されていた支給制服のカタログを吟味だ!

 ……何度見てもタメイキしか出ない。

 なんて素敵。

 面接のロココかリージェンシーな部屋にピッタリなドレス。レースたっぷりなパフスリープ。好みで選べるエンパイアスタイルやローブにプリンセスライン、ワイルドなオーバーコルセット。乗馬ドレスもあるよ、頭にシルクハットとか倒錯的。

 好きなだけ選んで良いとか、細かな色や装飾の要望受け付けますとか、なにこれ、天国?

 はぁ~

 琴音が何百回目かの幸せな方のタメイキを吐いた。これは失恋の不幸せの埋め合わせに違いない。

 きっとそう。自分の人生は上向き加減。

 とかなんとか。

 一時の幸せに浸る女子高生の後ろでは、そこそこ混んで来たのを幸いに、無防備な彼女のプリーツスカートに伸ばされた不埒な手があった。

 しかしそれは、横合いから突き出された屈強な手に阻まれて、ひねり上げられ、更に素早く口も封じられた。

 次の駅に着くまで拘束された痴漢は、周囲の冷たい視線に晒されたのだった。

 駅に着いた後の犯罪者の末路を、琴音は最後まで知らない。



「うむ、ご苦労」

 電話を受けた面接官は、にやりと微笑んだ。

「やっと始まったのだからな。いかなる障害も排除しないと」

 ライトは下から。何しろ座った椅子にダウンライトが付いている。

 面接官は懐からパスケースを取り出しその中のお写真をうっとり見つめた。

「そうだろう? イルダナフ」

「うむ」

 傍らの長身の男が、重々しく頷く。暗いライトの影のせいで姿が判然としない。

「それにしても、ずいぶん対照的な二人だな」

 男は、デスクに並べられた二種類の履歴書を眺めていた。一つは琴音の、もう一つは月香のもの。琴音が拙いボールペンの手書きでちまちまと文字を並べているのに対し、月香はきちんとパソコンで作成してきた。内容――主に『長所・短所』や『一言アピール』の欄も、当たり前だが社会人経験者の月香はまったくもって不備がない。琴音はちなみに、「はやくちことばが得意です!(原文ママ)」と書いてあった。

「月香は、ノウハウを生かして宮廷の事務をやってもらおう。琴音は当分は雑用だな。赤児が懐いた」

「まあ妥当だな。どちらにとっても、最初は戸惑うことしかないだろうが」

 二人は顔を見合わせ、くっくと笑った。

「驚くだろうな。何しろ」

 面接官は、つかつかと部屋の反対側へ歩いていく。そして、そこにあった古風で大きなドアに手をかけた。

「職場というのは、こんなところなのだから」

 開く。扉が。

 軋むこともなく、スムーズに。

 さあっと無音の音を纏い、空気と光が暗い部屋に流れ込んできた。

 空の青、風の甘い匂い、そして、温かな陽光。

 そこは――。

イルダナフは、エンパラにいます( *^ー^)

前回は短すぎなので、ちょっと早めに更新でした。

次回は来週

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