3.早まったかもしれない
心もお肌も曲がり角。
がんばれ月さん
『初心者歓迎。適性さえあれば、どなたにでも簡単にできるお仕事です。勤務時間は9時から5時まで、現地で残業時でも当地の退社時間は変わりません。アルバイト可。正社員への採用有り。高級ウォシュレットトイレ完備です。定員二名。面接にて適性判断をさせていただきます 有限会社ウィヅ企画』
採用された興奮が覚めてくると、月香は求人広告の奇妙さに不安を感じてきた。
業務内容も仕事の場所も、時給の金額すら書かれてなかった。
当地時間が変わらないって何? 適性って何? 現地ってどこ行くの?
しかも月香が採用された夜には、ネットの広告は消えていた。
よく考えたら社名もなんか変だ。
ウィヅ企画って、何をするんだろう?
もしかしたら、ヤバイブラックに引っ掛かっているんじゃなかろうか?
貯金が少ないし、次の仕事を探すのを焦っていたのは事実だが、もう少し用心深くなってみた方がよかったかもしれない。いや、あの日ハロワで紹介された面接がうまく行っていたら、たぶんやけっぱちでこんな怪しいところに応募なんかしなかっただろう。
面接官は非常に美形でなおかつ愛想がよかったが、何となくつかみ所がなかった。信用できない、とまではいわないが、何とも名状しがたい印象だった。
「どうしようかな……」
もらった書類には、仕事内容や制服など、就業規則が書かれている。しかしそれを読めば読むほど、月香の心配は大きくなるばかりだ。
『業務内容:おそらくは事務がほとんどになると思われます。現地の事情により、パソコンは使えなくても大丈夫です。必要に応じて相談を受けます。ウォシュレットトイレの機種選べます。
制服:かわいいのからかっこいいのまで、よりどりみどりです』
「何事だよこれ……」
月香は二年、派遣として事務をやってきた。重要度はそれほど高くなかったが、能率とスピード、判断力を問われる仕事内容だった。そして、そのためにはパソコンなどのOA機器が何よりも重要だった。昨今、OAなしで事務をこなすなんて不可能である。
「うーん……」
どんどん不安は募るばかり。せっかく合格したのに、気分はどん底だ。
月香は重い溜息をついて、良さそうな弁護士事務所と求人情報の検索を開始したのだった。