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28.尋問

 好奇心の強い従兄を守るのが自分の役目だと、いつの頃からか思っていた。

 レナードはエリューシアのすぐ隣に腰を下ろし、いついかなる時でも何らかの防護的手段をとれるように身構えている。魔法も剣術も、レナードの方が技量が上なのだ。エリューシアには時々冗談混じりに愚痴を言われるが、彼を守る力があることをレナードは常に神に感謝している。

 しかし今回は、レナードよりも先に手も足も魔法も出しそうな面々が勢ぞろいしている。ある意味心強いことこの上ないが、いろいろな意味で物足りない。

 レナードは従って、唇を引き結んだ仏頂面で、彼に横顔を見せて座っているミグシャ族の罪人を睨みつけている。

 エリューシアの公用の居間には、合計八人の人間がいる。皇太后と清子、エリューシア、レナード、神官のアンジュレイン、そして今代の巫女二人。彼らにぐるりと取り囲まれ、罪人は端然と座っている。

「さて、と。まず名乗ってもらいたいね」

 最初に口を開いたのは、皇太后だった。

「私の名前と顔くらいは知ってるかもしれないが、華乃子・北方・ルゥン・エンディミオン。今日はまあ、うちのかわいい孫息子を危険にさらしてくれてありがとうね」

 皇太后の豪快な皮肉にも、男は眉一筋動かさない。

 いや、よく気をつけて見れば、そうではなかった。

 彼は、じっと凝視していた。彼の斜め向かい、皇太后の隣に縮こまって座っている琴音を。

 この男の気配を察知し、こういう状況に置くことになった原因は彼女だ。そうと気づいて、報復を狙っているのか。

 レナードは思わず肩の筋肉を緊張させたが、その気配を察したのか、隣から伸びてきた手が彼の腕に触れた。

「落ち着けよ。そうぴりぴりしなくても、心配いらない」

「……お前は楽観視しすぎだ」

「お前が心配性すぎるからちょうどいいだろ。というか、今のあの男に、殺意や敵意があるように見えるのか?」

 正直言うと、まったくそうは思えなかった。

 だが、常に最悪の可能性を考えるのがレナードの性分である。

「琴音ちゃん」

 二人のひそひそ話を割って、皇太后の張りのある声が響く。

「あなたなら、話をしてもらえるかもしれないわ」

「えっ?」

 名指しされた琴音はもちろん、部屋の中にいた全員が皇太后の言葉にぎょっと目を剥いていた。

「だって、さっきから彼のあなたを見る視線が尋常じゃないもの」

 皇太后は、ころころと笑う。往年の輝きを未だ留める美貌は、少女のように無邪気だった。外見だけは。

「あれじゃない? 虎視眈々と隙をうかがって潜んでいたのを一瞬で見破られて、あの塔から落下するついでに恋に落ちたんじゃないかしら」

 本人としては、軽い冗談のつもりだったらしい。しかし、居合わせた人々は微妙に顔を引きつらせるばかりだった。

 笑える状況でもないし、実際あまりおもしろくもない。

「えっと……」

 名指しされた当の琴音は、困った表情で周りを見回している。その視線が、月香の上で止まった。

 レナードには、そのとき琴音の見せた感情の揺らめきが何を意味するのか読みとれなかった。だが琴音はすぐに月香から目を離すと、椅子から立ち上がって罪人の方へ一歩踏み出したのだ。

「琴音ちゃん」

「大丈夫です。私、魔法の勉強しましたから」

 そのまま彼女は、つかつかと進んでとうとう男のそばへ立った。アンジュレインがその後を追い、背後から彼女の両肩を支える。

「あの……初めまして」

 この場の意味を考えれば、非常に間の抜けた第一声が小さな唇から漏れた。

「私、琴音と言います。美原琴音です。えっと……お怪我、されませんでしたか?」

 魔法で撃ち落としたことを言っているのだろう。別に気遣う必要はないと思うのだが。

 レナードがやきもきしているのを感じたのか、未だ触れたままだったエリューシアの手の、温もりと込められる力が強くなったような気がした。

「それで、その。お名前、訊いてもいいですか?」

 もじもじと胸の前で指を組んだりほどいたりしながら、琴音は続けた。

 だがそれきりで、痛い沈黙が降りてくる。琴音は見る見る顔を真っ赤にして俯いてしまい、その他の面々はそれぞれどうしたらいいのか思案している様子だ。もちろんレナードもその一人だった。

 そのとき。

「……シディア」

 溜息よりも密やかに、空気を揺らす音の連なり。

「名前は、シディアだ」

 低く掠れた声で、捕らわれの暗殺者は間違いなく名乗りを上げた。

ナチュラルにそういうスキンシップをするから、妹が喜ぶんすよ兄上……。

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