26.告解
罪人の尋問を行う際、どうしても口の堅い者に対しては、『告解』という魔法を使う。
シディアも過去に何度か、これを用いて一族の法に基づいた断罪の一助を為したことがあった。
「どこから来たのですか?」
今、目の前に座っている長い黒髪の男は、『告解』を使っている。シディアの目的、そして背後にいる何者かを言わせようとして。
だが、幸いなことにシディアには『告解』に対抗する手段があった。
『沈黙の眠り』。
『告解』の効果を無効化するために編み出された魔法だ。これを使う術者が『告解』の術者よりも力が勝っていれば、絶対に打ち破ることはできない。
「……厄介ですね」
黒髪の男は、溜息をついて小さく首を振った。白いローブを着ているのは、神官ででもあるからだろうか。
「『沈黙の眠り』を使われました。話を聞くのは困難かと」
「なんと」
男が話しかけたのは、役人だ。
「アンジュレイン殿、あなたのお力を持ってしても打ち破ることができないと?」
「ええ、非常に難しいです」
役人と、その背後に控えていた立派な服装の老人が顔を見合わせていた。そして一様に視線を転じたのは、この部屋に居合わせた四人目の人物。魔術師だろうとシディアは見当をつけていた。
果たして、それは間違っていなかったようだ。彼がうなずくと、役人と老人はやはり同じような動作で落胆を表した。
自白を強要させられるのは、初めてではない。『任務』をしくじったことは一度もないが、捕らえられて背後を吐かされそうになったことは何度もある。そのたびに彼は魔法その他の手段でくぐり抜けてきたが、『告解』を施され時には必ず二人以上の魔術師や同様の力を持つ者が同席するのだ。
つまり、自白をさせる役割を持つ者と、それが真実であるかを見極めるための者。『真実の鏡』と呼ばれる、力の発動している間は人の嘘を見抜くことのできる魔法を使い、『告解』の真偽を確かめる。質問者も罪人も嘘を見抜かれるから、彼らがもし共謀していればすぐにわかる。
「やはりここは、巫女姫のお力をお借りするしかないかと」
アンジュレインは、そう言った。役人達はとたんに渋い顔になる。
「しかし、その巫女姫に疑惑がある以上……」
「先の巫女姫、清子様のお墨付きがあってもですか?」
役人達は、顔を見合わせる。ますます渋面になっているのが小気味よかった。
「それに、ほら」
部屋の外が騒がしくなるのと、アンジュレインが扉を振り返ったのはほぼ同時だった。
「まだ尋問は終わっていなかったのね。ちょうどよかった」
役人達の百面相は、ここに来て一気にめまぐるしくなっていた。
最初に入ってきたのは、初老の女。すばらしく身なりがいい。だがシディアを射すくめた眼差しは、これまで戦ってきたどんな戦士達よりも鋭い。
「初めまして。この度は私のかわいい孫息子を狙ってくれたそうで」
その言葉でシディアは、この女こそがエンディミオン王国の王太后であることを知った。




