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23.刺客

 絶対に、武術の心得があったり魔法に長けていたりするようないわゆる専門家であっても、あんなに離れた場所の殺気や気配に気づくはずはないのだという。

 だからそれを察知して阻んだ琴音は、王子の命を助けた恩人ではなくむしろスパイではないかと疑われたのだ。

 大勢の取調官に囲まれて泣きべそを掻いていた琴音の様子を見に来た月香は、あまりにひどい質問攻めと取調官の横柄な態度に腹が立って、エリューシアの秘書官の権限を最大限に利用して彼女を連れ出してきた。琴音はまだ泣いているが、取り乱してはいないようだった。

「大丈夫?」

「はい……ありがとうございます」

 部屋に一人で置いていくよりいいだろうと、月香は彼女をエリューシアの居間へ連れて行く。プライベートではなく、公務用の部屋だ。秘書官の月香は自由に使えるし、エリューシアもここにいる時間の方が長い。

 今も部屋の中には、エリューシアとアステル、そしてレナードが揃っていた。

「琴音、大丈夫か?」

 扉を閉めるなり、エリューシアは琴音に駆け寄った。

「乱暴されたのか? すまないな、あとで粛正しておくからな」

「……それはやり過ぎだ、エリューシア」

 物騒なことを言う王子を、後ろからその従兄弟が諫める。

「抹消ならばいいと思う」

「いえさらに駄目さがパワーアップしてます」

 あわてて突っ込む月香だった。

 裏拳をTPOに合わせて思わず自重したせいなのか、執務室のドアがいきなりバタンと開かれた。

 重厚で王子の身分は俺が証明してるんだぜな豪華なレリーフの扉は、観音開きで乱入者を目立たせる。

「聞いたわよ! あのバカ餓鬼供が可愛い後輩を虐めたんですって!?」

 見知らぬ女性だった。年齢は王太后と同じか、少し下くらいだろうか。勢いの良さは同程度だが。

「……キヨコ様?」

 茫然と呟いたのは、エリューシアだった。

 キヨコ。日本名。そしてちょっと昭和のかほり。あと、『後輩』というワード。

 月香はぴんと来た。

「初代の巫女姫だったもう一人の方ですか?」

「ああ」

 エリューシアは頷き、キヨコというらしい女性は両手を腰に当ててにんまり笑った。

「鈴村清子よ。よろしくね、後輩さん」

「は、はい……。河野月香です。よろしくお願いします」

 何となく流れで握手をする月香。

 清子はその間終始にこにこしていたが、手を解いた瞬間その形相がくわっと変化した。

 その昔、子供達にトラウマを残した某人形劇の某山姥のような変わりっぷりに、見事スイッチを踏まれた月香は二歩ほど後ずさった。

「それで! 餓鬼どもにいじめられたんですって!?」

 清子はその形相まま、ムンク状態の琴音にずかずか近寄っていって、ぎゅっと抱きしめる。琴音が「ほんぎゃー!」とか言ってるのはまるっと無視だ。

「こぉぉぉぉんな可愛い子を! なんてことするのかしら! よしよし、大丈夫よ! がっつりお灸を据えてきたからね! 物理的に」

 どんなだ。

 突っ込みたくなるのを寸前で堪える月香だった。

「毎月香を肩とか首とかにセットしてきたのよ。これで肩こり腰痛とはおさらばね!」

 それは、お仕置きにはならないのではないだろうか。取調官タナボタ?

 と、ものすごく突っ込みたかった月香である。

「清子様、それでは琴音の処遇はどうなりましたの?」

 己のツッコミ属性と戦う月香に替わって話題を元に戻したのは、アステルだった。

「え? ああ、もちろんナシになったわよ。だいたい、異世界から来たばっかりの、それも女子高生がなんだって要人暗殺なんかの片棒担ぐのかしらねぇ。そもそも前提からおかしいって、考えればわかるでしょうに」

 そこでようやく清子は琴音を解放し、琴音はふにゃーとかいいながら月香の背中に隠れた。清子は追いかけるかと思いきや、まったく見向きもせず蕩々と語り続けている。

「誰かしらねぇ、あんなアホなこと言い出したの。ミグシャ族自体、最近じゃ存在すら定かではないって言われてる少数民族じゃないの。そんなのと接触したらすぐばれるし、ミグシャ族とどうやって知り合うってのよね」

「ミグシャ族? って、まさか清子様……」

 エリューシアが青ざめていく。月香もその理由がわかる気がした。清子の会話の端々から察するに、どうやらこの女傑は。

「囚人に会ってきたのですか!?」

「うん。美形だった」

 絶叫する王子様をさらりとかわし、清子はかんらかんらと笑っていた。

「えっと、月香さん……」

 背中からこそこそ顔を出しつつ、琴音が月香を見上げてくる。

「何がどうなってるんでしょうか?」

「あー、つまりね」

 月香は、ばりばりと髪をかきむしった。

「清子様にはルール無用、ってことらしいわ」

 王子様暗殺未遂の要注意人物と面会して、もし何かあったらどうするつもりだったのだろうか、この人は。

 いや、勝算があったからこその無茶なのかもしれないが。

 とりあえずどうするか。月香は少し考えてから。

「レナード様、ミグシャ族のことから教えていただけますか?」

 しゃがんで頭を抱えるエリューシアを心配そうに見守っていたその従兄弟に声をかけたのだった。


鈴村Kさんが、諸事情によりネットに接続が難しくなってしまったため、これからしばらくはEのみで執筆していきます。更新が遅れまして申し訳ありません。前と同じ週一ペースでの更新を目指していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

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