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21. たぶん十何番目かの倉庫

スペシャルスーパーコンピューターだけにスパコーン。

 アーティファクト。

 それは神の奇跡の遺物とも、古代超文明のミッシングリングとも、はたまた強い想いや不可思議科学が産み出したとも謂われる『あり得ない力を持つ曰く付きなモノ』を指す。

 あるものは人の心を操り、あるものは物理の法則すらねじ曲げ、あるものは時間や次元に手を伸ばす。

 都市伝説の陰にひっそりと伝承されているらしい噂のブツは、エジソンの『完成した』霊界通信機やニコラ・テスラの転送機。はたまたロンギヌスの槍に聖杯やトールのハンマーにお菊人形に村正等々。

 一般人はさわっちゃいけない危険なモノらしい。

「某国サウスダコタのとある倉庫には、そんな危ないブツが大量にかき集められているとかなんとか」

「何処のおとぼけ国家公務員ですか」

 好きなドラマのネタ振りに、思わず突っ込みを入れた月香は、人差し指を立ててにっこり頷くマネージャーの笑顔を目にし、ハリセンを出し損ねた悔しさを噛み締める。

 入社以来の恒例行事だ。

 そうしながらも、心の何処かで自分はこうしてマネージャーのボケを待ち構えて居るのだなと納得していた。

 花嫁修行中で家事レベル7.3等というけったいなスキルを持ちながら、性別さっぱり判らなさ加減は相変わらずなこのふざけた人物とは、かれこれ一ヶ月の付き合いだ。

 が、ボケられる度に突っ込んでしまい、突っ込み待ちに応えた迂闊さを密かに悔しがる。結構これが癖になっている気がする。

 何しろ今のようなやり取りがなかった日は、なんとなくモヤモヤとして物足りないのだから重症だ。

 まあ、上司との関係が良好なのは良いことだし、マネージャーがニコニコしていると月香も釣られてニコニコして、なんだか安心するのだからやはり良いことなのだろう。

 当初の警戒をすっかり忘れて、良い職場に充実感を堪能する月香だった。


 さて、ほのぼのな上司と部下の交流は置いておいて。現在月香はウィヅから事務所に帰ってきてしばらく経つ。いつも挨拶したら速やかに帰る彼女と、あっさり見送るマネージャーには珍しい事だ。

 何故に二人が終業後の時間にのんびりと話をしているかというと、実は今日が初任給の給付の日だからであったりする。

 単に給料明細書を渡して終わり。では味気ないので、茶でもどうだと誘われたのを月香が快諾したからだった。

 例によって真っ白な部屋で、真ん中に忽然と現れた(出現に突っ込むのは何故かアホらしかったのでスルーした)硝子テーブルと白いレザーソファーにゆったりと座り、差し向かいで二人はお茶等飲んでいる。

 マネージャー手ずから淹れてくれた玉露はさすがに美味しくて、和菓子に良く合う。

 結構な御手前で。

 なんでまたここまでスタイリッシュな部屋で玉露に和菓子なのかは、考えたら敗けだ。

 ひよこ饅頭は可愛いくて、涼しげな水羊羹に金粉が踊っているのが綺麗だと眺めつつ、月香は社内備品で気になる話題を進める事にした。

「それで、アーティファクトは何の役に立つわけですか?」

 実のところ、月香や琴音が渡されている鍵を筆頭にウィヅ企画の支給する備品は、どういう訳かアーティファクトしかない。

 大きな鍵で異世界へやら地球上の距離やらを往き来する事とか(日曜日にこっそりロサンゼルスに行った時はかなり感激した。英会話に頑張って通ってて良かったとしみじみ実感したものだ)、小さな鍵の個人用バス&トイレなドレッサールーム。(一度使えば病み付きな程自分好みになっているのが堪らなかった)

 琴音が貰った魔法の攻略本は、琴音が宿題するまで読めない仕様に感心したし。支給されたドレスの制服は好感度アップとトラブル回避性能があり、更に実はこの事務所自体が入室者の好みに合わせて内装が変わるアーティファクトと聞いて、心底呆れかえった月香である。

 自動リフォームが何の役にたつのかさっぱり解らない。アーティファクトの有り難みが無さ過ぎだ。

 しかも今、月香が握りしめているボールペンもまた、アーティファクトだったりするから笑ってしまう。

事務効率を向上させる備品として、さっき支給されたものだ。

 遺物の名に相応しい異常さは見た目には何にもない。

 艶消し銀色ボディはシンプルで唯一特徴を挙げるなら、そのクリップ部分に刻まれた矢のマーク位だろうか。

 単なる事務用品として扱うには少々高級品なシンプルさが、月香は気に入っていたりする。

「役立つぞ、特にそのボールペンは、『の〜ぱそ』だからな」

 来たぞどや顔。

 月香は密かにハリセンに手を伸ばす

「ノーパソって言うには小さくないですか? ボールペンだし。スタイラスペンか何かですか?」

 以前社長が言っていた時と同じく、何となく字が違うような気がしないでもないが、取り敢えず当たり前の質問をした。

「いや、ノートパソコンのノーパソではない。『脳ミソを経由してノートにパソコン画面そのままに自在に書き込めるペン』すなわち『の〜ぱそ』だ」

 果たして、長い上にぶっ飛んだ返事が返ってきた。

 壮絶な斜め上具合に目眩すらしてくる。

「……で、肝腎のパソコンとモニターは?」

 恐る恐る常識の中で問い掛ければ、マネージャーはきょとんと目をしばたたいた。

「コンピューターは時空間バイパスによって、とある場所にあるスペシャルスーパーコンピューターに脳波が接続される。モニターは視覚内に自由意志で展開可能だ。それに、ノートに全て書き写せるぞ」

 なんだそりゃ。

「スペシャルスーパーコンピューターって、どんな中二病ですか」

 チープな名称に思わず突っ込み、変わらないどや顔にハリセンを握りしめ身構える。

 そんな月香を知ってか知らずか、マネージャーはさも当然と言葉を繋ぐ。

「銀河系規模の」

 スパコーン!

 マネージャーの脳天で、良い音が炸裂した。


 この日から、月香に頼りになる相棒ができた。

 因みに、帰宅してから明細を見た月香が、即座にネット通販でかねてより憧れていたブランドバッグを購入したあたりで、給与は推して知るべしとしておこう。

( *^ー^)題名元ネタは、勿論第13倉庫です。

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