2. 面接ならベルサイユへいらっしゃい
なんて素敵なアンティーク!
琴音のテンションはうなぎ登りだ。
白い漆喰の柱には細かな彫刻が施されているし、飴色の寄せ木細工な天井は彼女の好みど真ん中。品の良い壁紙がなんか印象派っぽい絵が嵌まった豪華な額縁を引き立ててる。
何よりも! 歩き辛いくらいに毛足の長い絨毯に配置されてる、猫足なソファーセット!
これはあれでしょ。ロココななんとかってやつでしょ!
ピンクのマカロンの乗った青磁の足高なお皿? ティーセットは金縁付いててお花なデザイン。
そうね、パンが無いならお菓子を食べれば良いのよ。
はっきり言って、面接官が何言ってるかなんざ聞いちゃいなかった。
豪華な部屋とおしゃれなお菓子に舞い上がった琴音は、気がついたらたっぷりなミルクティーを啜りながら、やたらに機嫌の良い一歳児くらいの赤ん坊とマカロンを食べ合ってはしゃいでいた。
「うむ、赤児に好かれたようだ」
面接官というとても綺麗な人は、満足そうに頷いている。琴音は赤ん坊をだっこして、にっこりと笑った。子供は好きだ。一人っ子だからなおさら。
「それでは、さっそくバイトに来てもらいましょう。いつからが都合がいいですか?」
面接官は、琴音に応えるように微笑んで尋ねる。
「いつでも大丈夫です。あ、でも今週は模試とかあるのでちょっと……」
「うむ。では来週の月曜日から。時間は、四時から七時までの三時間で。その他時給などの条件については、こちらの書類をよく読んでおいてください」
「はい!」
琴音は元気よく返事する。はきはきしていいお返事です、と小学校の時褒められて以来、大きな声で応えるようにしているのだ。
赤ん坊が、膝の上で歓声を上げた。黒い髪に金色の目の、とても可愛い赤ん坊を琴音はもう一度ぎゅっと抱きしめる。
「嬉しい。ありがとうございます」
「いえいえ。がんばってください」
最後まで愛想のよかった面接官と上機嫌の赤ん坊に手を振って、琴音は建物を出る。
まさか、初めてのバイト面接でこんなに素敵な経験ができるとは。赤ちゃんは可愛かったし、お菓子はおいしかった。仕事の内容は、説明してもらってもよくわからなかったけれど、たぶん大丈夫だろう。制服も可愛いみたいだし、時給もいい。
「がんばろうっと」
呟いて、琴音は電車の駅に向かう。定期入れを取り出す時、ちょっと胸が痛んだのは無視した。
帰ったら、しまってある写真は外しておこう。捨てるのは無理だから、アルバムにしまい込めばいい。
失恋してまだ三日だ。バイトでもして気を紛らわせたら、という友達のすすめで、琴音は履歴書を書いて応募した。
合格したことを友達に伝えておこうと、改札を通った琴音は定期入れを鞄にしまい込み携帯を取りだした。