165.月香の気持ち
「……ええっと」
サナの説明に、琴音は首をかしげるしかなかった。
「それで、月香さんはどうなるんでしょうか?」
「一週間後には回復して、目を覚ます。エリューシアとアンジュレインから代償をもらったからな」
代償。
わかりやすく言えば、何かを手に入れるためにお金を払うのと同じこと。琴音はそんな説明を受けた。
では、エリューシアとアンジュは、いったい何を支払ったのだろう。お金ではないだろうと思った。月香のために、彼らは、何を。
「いやぁ、琴音には話してなかったけど、実はヴィヅ企画ってこの世界での恋愛や結婚を推奨してるんだよ」
「はあ」
話題が明後日へ飛ぶ。間の抜けた相づちを打つ琴音に、サナは続ける。
「あっちの世界からの存在がこちらに定着すると、体内での免疫抗体が作成されるのと同じ原理で……って、難しい話はともかく、ヴィヅにとってはいいことなんだ」
「はい」
よくわからないが、わかった。
「華乃なんかもそんな感じで、ここで結婚してくれたから俺達は助かったんだけど、まだまだ充分ではないんだよな。だからできれば、巫女姫達がヴィヅで所帯を持ってくれないかなぁと思ってるわけだ」
「はい」
琴音は頷いて、考える。それといったい、月香と何の関係があるのだろうか。月香は確かに、エリューシアとアンジュから好意を寄せられているようには見えたけれど……。
「で、エリューシアとアンジュレインって、どう考えても月香に惚れてるよな」
「え」
惚れてる。
直接的な表現に、琴音は思わず赤くなった。サナは構わず続ける。
「それでいい機会だし、いつまでもうだうだしてないで本心を月香に打ち明けて勝負かけろって言ったんだよ。それが代償」
沈黙。
重苦しい沈黙が落ちた。
琴音はうーんと唸り、何度も何度もサナの言ったことを考えた。けれど、どうやっても結論は一つしか浮かばない。
「それ、駄目じゃないでしょうか」
「……やっぱり?」
サナは、がっかりした顔をした。
やはり、駄目なのか。否定してほしかったのに。
琴音はこんなとき、どういう顔をすればいいかわからなかった。
「だってそれじゃ、代償のために無理矢理告白するみたいですよね?」
およそ、そんな理由で告白されて喜ぶ女子はいないと思う。
月香なら、確実に怒るんじゃないかという気もする。
そもそも。
「月香さんって、お二人のどっちかを好きなんでしょうか」
アステルと一緒に盛り上がったことはあるが、あくまであれは琴音達の妄想だ。月香自身の気持ちはわからない。
「うん……」
サナは、気まずげにお茶を飲んだ。
また沈黙。
そしておもむろに、口を開く。
「成り行きに任せよう」
駄目だこの神様早く何とかしないと。
琴音は思った。