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15.謁見(割愛)にまつわるエトセトラ

月さんは脱いだら凄いんです。

 むかーし昔、育った環境のおかげで全裸でいることに抵抗を覚えず、こともあろうに殿方の前でまっぱを披露してしまった少女漫画のヒロインというのがいた。

 棚からぼた餅のラッキースケベに遭遇したその殿方は、きっと今の自分と似たような心境だったんだろうなと月香は思った。まあ自分の場合は女同士だから、琴音が下着姿でやってきても嬉しくはない。

 廊下に誰もいなくて何よりだった。特に男性が通りかかっていたら一騒動起きていたに違いない。主に琴音のパニックのせいで。

「やれやれ……」

 うんざり呟いたところで、目的の部屋の前に着く。月香はレマを抱き直し、扉をノックした。

「アンジュさん、いらっしゃいますか?」

「はい」

 アンジュはすぐに出てきた。彼の部屋は月香達に用意されたものほど豪華ではないようで、シンプルで使いやすそうだった。

「すみません、おやすみのところ。実は、レマちゃんがちょっと転んだらしくて。どこかでいちおう診ていただきたいんですが」

「転んだ?」

 アンジュは半分だけ廊下へ身を乗り出してきて、レマに顔を近づける。必然的に月香とも至近距離となり、思わず緊張した。

 睫毛が長い。青い目というのは元の世界でもあまり見たことがなかったけれど、こんなに透明で綺麗なものなのか。

「瘤はできていないようですね」

 だがアンジュが再び身体を動かしたので、月香ははっと我に返る。

 頬が熱い。何をまじまじと観察しているのだ。

「月香さん?」

「あ、はい! すみません。ええと、琴音ちゃんから頼まれたので、私もよく状況がわからなくて……」

 しどろもどろになってしまうのを、おかしく思われなかったろうか。

 狼狽える月香に、あくまでもアンジュの態度は穏やかだった。

「いちおう、治癒の魔法をかけておきましょう。大丈夫ですよ」

 優しく微笑んで、彼は口の中で小さく何かを唱え始める。

 魔法。

 呪文、だろうか。

 それに連れて起きた変化に、月香は目を瞠る。レマの頭の上に翳したアンジュの手が、白く淡い光を放ち始めたのだ。

 本物だ。

 どきどきと、鼓動が高鳴る。

「ヒール」

 その一言が、力の解放だったのだろう。

 光はアンジュの手からレマの頭に移り、しばらく小さな子供の額から後頭部にかけてを包み込んでいたかと思うと、やがて徐々に消えていった。

「終わりました」

 アンジュは優しくレマの髪を撫でてそういったが、月香は生返事を返すので精一杯だった。

 初めてここへ来たとき、琴音が適当に唱えたら飛び出した炎の矢。

 そして、今の魔法。

 ここは異世界のはずだ。異世界なんだから、ここで通用する現象について、琴音も月香も知るわけがない。

 なのに、確かに知っている。今の魔法を。

 これはあとで、社長とマネージャーにぜひともハリセンをお見舞いせねばなるまい。

「そろそろ謁見の時間です。控え室へ行きましょう」

「……はい」

 アンジュに着いていきながら、月香は心の中でハリセンクラッシュのイメージトレーニングに励んでいた。


 謁見。

 王様に、王妃様と例の王子と妹姫を紹介されて、がんばれと言われただけだったので割愛。

 神官長もそうだったが偉い人というのはだいたい似たようなことしか言わないのか。

 ん?

 それに気が付いたのは、第一王女様との語らいのお茶会でだった。

 型通りらしい手順で『えっけん』が終わり、先ずは国の事に慣れてから各々の役割に合う仕事を、とかなんとかよく判らない話をされた。

 あたしここに来ることが既に仕事なんです。とか言ったらややこしそうだし、きっと月香が把握してくれてるだろうから後でかいつまんで教えて貰おう。

 完璧他力本願を決め込んだ琴音は、年が近いからなんてありきたりな理由を振りかざした王女様に半ば拉致られて中庭でお茶を啜っていた。

 もちろんレマも一緒で、しばらくはその可愛らしさを愛でて話が弾んだのは幸先としては上出来だろう。年が近い程度で親しくなれたら学生は友人関係に苦労しない。幸い王女様とは話が合いそうで、レマがうとうとしだしたら、年嵩の女官に預けて美形談義に移行できた。

 琴音としては『励めよ』の一言だけでさっさと消えた王子様の情報が少しは欲しいと思っていたし、他にも城内美形分布状況が聞きたかった。それは王女様も同じらしく、月香とどこかに行ったアンジュの話を聞きたがっていた。

 やっぱり女の子は美形が好物よね。とか思いつつ話していたが、なんだが方向性がずれ始めていた。

「それで、お兄様には、レナード様がいつもぴったり補佐をなさっていらして、もうそれは幼い頃からの阿吽の呼吸といいますか、長年連れ添ったご夫婦と言うのがとてもお似合いで、他の方は想像がつかなかったのですけど、あの神官様がなんといいますかしら、ダークホース? 思わぬ角度から切り込んできた感じでしてよ」

 ちょっと待て、上品に言ってるがつまり、そこに女性の立ち位置は無い類いの話ではなかろうか?

 高校の友達にも一人居る、醸造系の薄い本作りを楽しむタイプ? 実の兄で?

 あれだけの美形だし、仕方ないのか?

 アステル・エグマリヌ・リー・エンディミオン。

 薄い金髪にでっかい翠の目の、今でも絶対美姫と呼ばれてるだろう御年十六歳は、腐りかけていた。

「え、えっと。あの」

 琴音はこちら方面には詳しくない。というか、引きずり込まれそうになっても全力で逃げてきた。今も何とかして話題を逸らせようと、必死で声を上げる。

「レナードさん? っていうのは」

「ああ、わたくしったら。勝手にべらべらしゃべってしまって、申し訳ありません。レナード・アンシア・バークレイン様とおっしゃって、バークレイン公爵家の跡継ぎでいらっしゃる方ですわ。わたくし達とは母方の従兄弟に当たりますの」

 アステルは、可愛らしく小首を傾げた。その微笑みの理由は知りたくない。絶対よろしくないことを考えているのが、目を見ればわかった。

「知的でおとなしい方ですわ。兄とは幼い頃からとても仲良しで、兄が何かと悪戯をしたりするのを諫めてくださったり、失敗したときはかばってくださったり。何しろあの性格ですから、突っ走った兄を止められるのはお祖母様とレナード様だけですのよ」

 うふふ、と姫は小さく笑った。やっぱりよろしくないことを妄想中らしかった。琴音はさりげなく彼女から視線を外す。

「あとで紹介させていただきますわね。今は王都のお屋敷にご用があって、王宮にはいらっしゃいませんの。でも、異世界からのお二人に会うのを楽しみにしていらしたから、すぐ戻っていらっしゃいますわ」

「そうですか……」

 次期公爵というのは、どんな人なのだろう。やっぱり美形だろうか。

 心に浮かんだ疑問には、すぐにアステルが答えてくれた。

「身分も高いし、容姿のよろしい方なので、貴族の娘達にそれは人気がありますのよ。もっと年齢が上の貴婦人にも」

「へえ」

「でも、ご本人には浮いた噂一つなくて。やはりお兄様一筋なんですわ」

 最後の台詞は、聞かなかったことにした。

「あら、どうしたの?」

 部屋の外から、使用人らしい人が入ってきて何かをアステルに耳打ちした。アステルはぱっと笑顔になり、琴音を振り返る。

「噂をすれば、レナード様が帰っていらっしゃいましたわ。紹介しますから、行きましょう」

「は、はい!」

 グッドタイミング。いろいろな意味で。

 もちろん、琴音に否やがあるはずがない。

 新たな美形の予感に誘われて、琴音は王女と手を繋ぎ廊下をスキップしながら進んでいき、なんだか偉そうなおじいさんに怒られたのだった。

( *^ー^)びーえるは、姫の趣味なので。登場美形はノーマルです。

マネージャーは不思議ちゃんなので、員数外です。あらゆる意味で。

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