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117.果てしない



 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

 隣の部屋では、エリューシアとアンジュが話し合いをしている。自分が聞いてはまずいこともあるだろうと、月香はこっそり出てきたのだ。聞いてもわからなかっただろうが。

 気が咎めたが、運んでもらった朝食を一人で食べる。隣にも食事は運ばれているような気配がするが、おそらく二人は食べるどころではないのではないか。

 とてもおいしい食事だったが、月香がどうしても考えてしまうのは先ほどの自分の発言だ。

 琴音。

 確かに彼女は、力が覚醒している。それを使って人を救った実績もある。けれど、その力を使うということは、危険がそばにあるという意味だ。

 フォークを置く。今から隣の部屋へ飛び込んでいって、発言を撤回しようかと思う。

 なのに、足は動かない。

 ルカのことは、信頼できる人だと思っている。彼を安全な場所へ置きたいという、アンジュの気持ちも理解できた。けれどそれをエリューシアに納得させる、決定的な材料がないのもまた、事実だった。

 だからといって。

「何であんなこと……」

 ルカがエンディミオンや琴音に害を及ぼすなどとは、万に一つも思っていない。でも、それとこれとは別だ。

 琴音に危険が及ぶ可能性のある発案をしてしまった。この事実は変えられない。

 ノックの音がして月香ははっと顔を上げた。エリューシアとアンジュが入ってくる。

「支度はできてるいるか?」

「はい」

「それなら、すまないが少し休んでいてくれ。急いで出発できるようにするから」

 エリューシアに言われ、月香は鍵を取りだした。準備も何も、忘れ物があったとしても扉につなげさえすればすぐに戻れるのだから便利だ。宿の部屋は立派だが、一人で暇つぶしをするには手持ちぶさただ。

 だがその前に、相談結果の内容が気になった。

「ルカさんはどうなるんですか?」

「……会ってみることにした」

 エリューシアは、ちらりとアンジュを振り返る。かすかに苦笑しているところを見ると、アンジュはかなり強く押し切ったようだ。当の彼は、黙って佇んでいる。

「いつにするか、というのがまだ決まっていなくてな。このまま出発してしまえば、鍵を使えるような場所までは夜までたどり着かないらしい」

 このメンバーだけなら予定を変更して鍵で移動してもよかったのだが、グリードが迎えに来てしまった以上、ショートカットは難しくなった。

「そうだ。アステルと琴音に頼んだ魔王の調査も、そろそろ受け取りに行かないとな」

 エリューシアが、ふと思い出したように呟いた。月香も思い出す。エンディミオン待機の琴音達は、過去の魔王がらみの出来事を調べているはずだった。

 それなら、今自分で取りに行った方がいいかもしれない。時計を見ると、九時。今日は平日だから琴音はいないだろうが、アステルには会えるだろう。

「私、王女殿下に会ってきましょうか? それで、調査の進捗を伺ってきます」

「頼めるか? じゃあ、行ってきてくれ」

「はい」

 三十分ほどあとの待ち合わせを決め、月香は扉をエンディミオンへつなげる。王宮で使わせてもらっている自室にを経由して、廊下へ出た。

 何だか、エンディミオンがずいぶん久しぶりのような気がする。ついこの間も来ていたはずなのに。

 そのもっと前は、毎日通っていたはずなのに。

 廊下は、果てしなく伸びている。前にも、後ろにも。

 遠くへ来てしまった。

 変わってしまった。

 どこへ行けばいいのだろう。それすらわからないまま、月香は覚束ない足取りで廊下を進んだ。

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