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105.選ばれし時の果てに

 赤子が少年へと一瞬で姿を変える様を目の当たりにしていなければ、世界の創造主であるという言葉を到底信じることはできなかっただろう。

 シディアは目を真っ赤に腫らした妹を気にしながらも、レマと名乗った少年に視線を向けた。非常に美しい。だがそれ以上に、圧倒される。見ているだけで、緊張を強いられる。

「お前達は、守人の一族だな」

 美しい少年は不意にシディアとミュージアを振り返り、じっと金色の眼差しで捕らえた。妹を背にかばったシディアは、努めて背筋を伸ばして彼を見返す。

「守人の一族とは?」

「魔王の眠る山のそばで、お前の一族はずっと暮らしてきたのだろう? その理由を、恐らく先代の族長は語らなかったのだろうが」

 シディアは、眉を潜める。

 ミグシャ族の拠点は、確かに『魔王の山』の麓だ。よほどのことがない限りそこから動くことは禁じられ、一人前と認められ一族の戦士となった男達は、年毎に儀式として山へ登らされる。

 魔王の山へ。

「魔王の封印を見守り、有事の際は速やかに世界へそれを知らせて回るのが自分達の役目だと、ルダートは自分と自分の家族に言い聞かせた。そうして、あのときには滅びかけていたミグシャ族の血統をもう一度蘇らせたんだ」

 歌うように語ったのは、皇太后。いつも峻烈だった表情は、今どこか懐かしげで……悲しそうだ。

 ルダート。

 その名前は。

「先代の族長。五年前に病で亡くなった」

「知っている。知らせをもらったからね」

 皇太后は、静かに目を伏せた。

 シディアは、ルダートをよくは知らない。彼が物心ついたときには隠遁していたし、身内以外は会うこともできなかった。長く煩っていたのだという。

 皇太后と、知り合いだったのか。

「ともに戦った仲間だよ」

 シディアの疑問を読みとったかのように、皇太后は言った。

「彼が必死の思いで築いた、血族の基盤。それが危険に晒されても、私には何もできなかった……」

 皇太后は、変わらず毅然と背筋を伸ばしていた。瞳も、強い光を宿したままだった。

 ただ声だけが、弱々しく響く。

「ルダートは、魔王の復活をずっと危惧していた」

 重苦しい空気を断ち切ったのは、凛とした銀髪の少年の言葉だった。

「魔王の魂のかけらが、飛び去っていくのを見たと言っていたらしい。でもそのときは確かめる方法もなくて、結局ルダートが一族の拠点を山の麓に置き、監視していくことにしたんだ。だよな?」

「……ああ、そうだ」

 少年に答えた皇太后は、常の強さを取り戻していた。そのい抜くような眼差しが、シディアとミュージアに向けられた。

「ミグシャ族の伝承で、間接的に抽象的に伝えられているはずだ。山に眠る邪悪の存在が」

 一族の伝承。

「……眠る厄災」

 ぽつりと、ミュージアが言葉をこぼす。

「悠久の時を越え、滅ぼされし者。そは善なる鉄槌に砕かれ、永久とわの眠りにつかん。我ら定められし民、血の流れを以て厄災への盾とならん」

 子供の頃から、年毎の儀式の場で必ず聞かされてきた口伝だ。意味はわからない。けれど、最後の一句まで覚えている。

「心せよ。約束されし災禍の時。暗き天に森羅万象はおののけり。そは印なり」

 ミュージアの声に己のそれを重ね、シディアは語った。

 思い出す。ヴィラニカの書き付けを見てしまったときの衝撃を。なぜ、彼がこの言葉を知っていたのだろう。

「厄災は蘇らん。選ばれし時の果てに」

 ヴィラニカ。彼は。

 どうしているだろう。

 会いたい。

「禍の魂は、器に集約する」

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