1.面接はどっきどき
面接室は白い部屋。
一般的イメージとして定着しているけれど、ここまで真っ白な内装なんてどんな素材使ってるのかしら?
河野月香は素朴な疑問を頭の隅に押しやった。
ぼんやりしている場合では無いからだ。
「皆山商事に二年勤務されていらしたんですか」
「はい」
「契約更新は為されなかったのですか?」
「不況の為の人員削減だとかで、更新は無いと……ただ、仕事の能力とは関係無い事なので、彼方の上司の方が推薦状を書いてくださってます」
リストラ替わりの足切りでごめんね、と詫びながら書いてくれた上司は、本当に面倒見がいい人だった。
「なるほどなるほど、こちらですね。はい、非常に高評価されてますね」
面接官がこくこく頷くと、肩までのボブがサラサラ揺れた。
それにしても、何で面接官がここまで美形なのか。 髪は鴉の濡れ羽色? 異様に艶やかな、天使の輪ピカピカなキューティクル。 頭ちっさいしそこらのアイドル真っ青な目鼻立ち、薔薇色なぷっくり唇。まるでCG並みな現実感の無い完璧さ。
声はハスキーアルトで、でも涼やか、男かな? 女かな?
いや、だからダメだから。
型通りな質問に、型通りに答えていると、ついつい暇な頭が思考をずれさせる。
悪い癖だ、と彼女は再度気を引き締めた。
が。
「うむ。大丈夫だ、問題ない」
昔話題になったゲームの有名な台詞を、面接官は得意げに呟いた。俗にいう「どや顔」だ。どちらかというとオタク気味の月香は、さっきの自重はどこへやら、うっかり嬉しくなってしまった。
「正社員も希望してくださっていますが、こちらもまだ新しい企業ですので、何かと不便をおかけしてしまうことと思いますし、お互いにとっての試用期間という意味合いで、まずは形式上は契約社員として来ていただけますでしょうか?」
双方合意すれば、正社員登用ということで。と面接官は締めくくる。一も二もなく、月香は頷いた。
「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」
面接官は、ニッコリと微笑んだ。
「それでは、必要書類を後日送付させていただきますので、必要事項を記入して捺印の上返送してください。もちろん、直接お持ち下さるならこちらも助かります。採用です」
勢いよく椅子から立ち上がりそうになったのを、辛うじて月香は堪えた。それでも頬は緩むし、かっかと熱を持っているのはわかる。
嬉しい。
胸がどきどきした。
舞い上がったまま、どんな挨拶をしてどうやって建物を出たのか覚えていない。人通りが多くなかったら、スキップしていたところだ。いや、ハイヒールだから危ないか。
ともかくこれで、連日の情報誌購入やハロワ通いから解放されたのだ。
「やったぁ……!」
地下鉄への階段を駆け下りながら、月香は小さな声で歓声を上げた。