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大学生とピザパーティー2

 意外にも時間ピッタリにおかっぱは現れた。ルーズなのは服装の襟元(えりもと)だけらしい。先月の新入生懇談会(しんにゅうせいこんだんかい)のあと数名の同期に部屋まで押し入られたため住所が割れていた。それがこんな形でじわじわ()いてくるとは。平等(たいら)の運転する水色のラパンはこの春に新調したらしい。まだ新しい割には走行距離がやたらと長い。

挿絵(By みてみん)

「春休みのうちに免許皆伝したんさなぁ。かわええやろー。ジョーシンも取りぃさ。」

「金がない。」

「言うと思った。」

 普免で免許皆伝てどうなんだ。しかし突っ込むのもメンドイ。たずねもしないのに平等は始終(しじゅう)ベラベラと喋り続けている。そうこうするうちに会場たる三笠(みかさ)の家に着いた。国道から少し離れた閑静(かんせい)な場所だ。広い駐車場にラパンを停めて見渡すと周囲には空き地と田んぼと畑と林がある。むしろそれ以外何も無い。無さすぎる。三笠は同じ学科生で、大学の近くに住む地元民である。一帯の田んぼは彼女の家のものらしい。因みに三笠の第一印象はデ…恰幅(かっぷく)がよい。平等に言わせると、

「ふくよか!」

 となる。

 三笠の家は表は日本家屋然としていたが、中はリフォームしたものか洋風のモダンだった。庭に面した広いリビングに通されると、既にそこそこのメンバーは集まっており、ソファーやキッチンカウンターなど思い思いの場所で準備をしている。中央のローテーブルにはピザも並んでいた。窓もテレビもでかい。照明や調度品(ちょうどひん)も中々高そうだ。天井扇が付いている家は初めて見た。

 参加人数は10名ほどだった。ど平日なのでまぁまぁの人数といったところだろう。さらにこの後サークルやバイトで遅刻してくるやつも居るようだ。三笠の家族は仕事なりなんなりで今日は遅くまで帰らないらしい。そんなわけで暇をもて余した学生の集まりの場として本日白羽の矢が立ったようだ。

 シャンメリーで乾杯した後、とりどりのピザを皿に取り分け、やんわりとピザパは始まった。

「ジョーシンくん、て呼んでいい?」

 キングサイズのソファーの端でピザをとっていると、程なくして話しかけてきたのは颯天春菜(そうまはるな)だった。噂の美人である。いつの間に隣に座っていたんだろう。新と逆の隣には取り巻きの一人である日下部基子(くさかべもとこ)も座っており、何が物珍しいのか(あらた)のことを上から下までじろじろ眺めている。

「別にいいよ。」

 平等がでかい声でいつも呼ぶので仕方ない。

「シンジョウシンて面白い名前やんなー。回文(かいぶん)みたい。」

 日下部(くさかべ)が口をはさむ。ついでにピザを口にはさむ。

「アラタくんだよ、本名。」

「あ、そうなん?男子の下の名前とか覚えやんもん。」

 食べながら喋れて器用なやつだなぁと思う。日下部と春菜で漫才のようなやり取りをするのを眺めながら新は黙々とピザを食べた。久しぶりのガッツリ飯だ。しかもタダだ。

 シーフードを食べ終わり照り焼きに手を伸ばそうとしたところで、突然背後から何者かにヘッドロックされた。

「ジョーシンたら積極的ぃ。混ぜて混ぜてー。」

 見ると平等(たいら)である。そしてその後ろに沖 紫夜(おき しより)紫夜(しより)は平等の彼女だ。たぶん。少なくとも新には彼氏彼女にしか見えない。何せ話すときの距離が近い。新は記憶力はいい方なのでメンバーの顔と名前は分かるが、人間関係には(うと)いため実際のところは分からなかった。因みに紫夜は、ややロリータファッションだ。平等と並ぶと非常にファンキーだと思う。騒がしい人間に囲まれていよいよ新は黙々と、それはもうモグモグとピザを食べた。あとで高額請求されたらどうしよう。ま、いいか。美味しいし。

「今日の小テストどうやった? 」

「あかんあかん。いつもただでさえオジイチャン何言うとんのか分からんのに無理やし。」

「明日のレポート出来とんの?見せてー。」

「絵理、別れたらしいで。」

「ホンマに!?」

 少しずつ外の景色が暗くなり、三笠家のリビングのだだっ広い窓に、騒がしい影が映り出す。遅れてきた2、3名が加わって徐々に盛り上がってきた。よく見るといつの間にかチューハイが並んでいる。誰か泊まる気なのか、それとも相乗りしてきているのだろうか。三笠が台所からサラダやらフルーツやらケーキやら色々と持ってきてくれるので食事も心なし段々と豪華になってきた。たまにはこういうのも悪くない、とは思う。

 

「あーっ!ジョーシン、何コレめっちゃイカすやん!」

 一通りピザを食べた頃、突然平等がでかい声をあげた。なんだなんだ。

 新たちの座るソファーの斜め後ろに荷物置き場がある。平等はいつの間にかその前にうずくまって何やら騒いでいる。待て、何で俺の(かばん)が開いている。

「ジョーシンお前いつからこんなセンスフルになったんや。」

「センスフルってなんだ。」

「コレ、コレ。どこで買ったん。うわ、めっちゃ欲しい。」

 なーにー?と周りの視線がそれとなく平等に集まる。声がでかい上に格好が派手なので嫌でも目立つ。

 初め、平等が何を言っているのか分からなかった。コレ、とはどれのことだ。しかしややあって鞄の中身を思い出したところで()()()の その物体がようやく目に入った。


 (まぎ)れもない、『痛デバ』だった。

 

 新は凍りついた。

 よりによってこんなに人数のいるところでオープンにされるとは。学科同期達はまだ痛デバが目についていないためか、あまりのデザインの痛さのためかポカンとしている。痛デバを手に持ってキラキラした目をこちらに向けている平等(たいら)と目があった。

「何で俺の(かばん)をあさってるんだ。て言うか今なんつった。」

「タブレット出そーと思ってな。手前にあった鞄どけるやん、何かあるやん。したらめっちゃエエ感じの時計やんか。あ、鞄は俺が開けたんとちゃうで。開いてたんや。」

「欲しいっつったか今。」

「なに、くれるん?」

 いやぁ、俺としても持っておきたくないんだがデザイン的には。嫌な汗が出る。そもそも時計じゃない。そして改めて平等のセンスを疑う。

「うわぁ、ちょっと()けていい?いい?」

()く前から着けるな。」

 喋りながら平等が痛デバを巻き初めたので慌ててソファーから転がり出た。周囲からは、あれ、オモチャじゃないの?と言うようなざわめきがやんわり聞こえる。確かに子供向けのオモチャにありそうな雰囲気ではある。しかし安っぽくない。だからこそ異様なのだろうか。

 改めて平等が腕に巻いた痛デバを見ると、なんだろう、ちょっとしっくりきている。うん、中身が平等だからかな。うん。

「似合うな。 」

「くれるん?あ、これどうやって文字盤出すん?ボタンどれ?」

 平等が筐体(きょうたい)のまわりを指で押そうといじり始める。待て、待て、俺にも使い方わかってないから。そういえば画面をタップすると充斉(みつなり)に呼び出しがかかるんじゃなかったか。

「し、親戚の中学生から預かっているものだから、使い方は分からない。」

 それを鞄に入れて持ち歩く俺。それはそれで何かあらぬ誤解を招きそうな。

「なんや、借り(もん)なんか。納得ぅ。」

 それを聞いて渋々といった(てい)で平等が痛デバを外し始める。何とか無事に乗りきれた。無事だったかは正直分からないが。アレが人目についてしまったことがツラい。違うんです、俺のセンスじゃ無いんです。おそらくこれからも同期とあまり喋ることもないと言うのに、俺の印象が…。

 平等が痛デバをこちらに差し出す。


 ピコン


「あ、なんや、タッチパネルなんか。」


 画面をつかんで。


 …おい。


 新は再び凍り付いた。

 平等たいらから痛デバが手渡される。相変わらず奇妙なほど軽い。画面が緑色に発光し、黒地の模様が右から左へ流れていく。何かの記号のようにも見える。しばらくすると画面は再び真っ暗になった。明らかに今、何か装置が起動したわけだが。

 平等の手からデバイスが戻ったのを見届けると、離れた席の学生たちは再び元のお喋りへと戻っていったようだ。そもそもがさほど目立たないあらたのことだ。興味もそれほどかないのだろう。

 一部を除いて。

「珍しいもの持ってるんやなぁ。」

「みーちゃん。」

 会場のホストたる三笠みかさが近寄ってきてソファの端に座った。先ほどまで皿やケーキなどの準備をしていて席が無く、新が腰かけていた場所が空席になっていたからだろう。女子の間ではみーちゃんと呼ばれているらしい。およそ、キングサイズのソファが心なし小さく見えるような彼女の見た目にはそぐわない気がするんだが。因みに呼んだのは日下部くさかべだ。

 正直いうと、デバイスの起動により何か恐ろしいことが起こるんじゃなかろうかと気が気ではなかった。とりいそぎ痛デバをそそくさと鞄にしまうと、きっちりと鞄の口をしめた。あまりうろたえているのも不自然だろう。そもそも、何で鞄が開いていたんだろう。…ま、いいか。分からないことを考えても仕方がない。

 そして、気が付くと周りに女子ばかりだ。なんだろう、落ち着かない。

「今度その親戚に会ったらチョーダイって言うといてなジョーシン!」

 よく考えたら平等もいた。この席割り(俺は立ってるけど)からすると貴重な男子だが…何だろう、余計落ち着かない。

 春菜がニコニコしている。うん、かわいい。日下部が春菜と俺を交互に見てから口をはさむ。

「ちょっとー、にらまんといてよジョーシン。」

「睨んでない。」

 言いがかりだ。

「アンタ普段から目つき悪いんやで気を付けたってよ。全然笑わんし。」

「えっ。」

 そんなつもりは毛頭もうとうないのだが。確かに普段から面白いと思えるようなことがあまりないのは事実だ。現実というやつは兎角とかくキビシー。そして目つきは生まれつきだ。

「くーるあずあきゅーかんばー、やな。」

 平等も口をはさむ。

「お前は何を言っているんだ。」

「ジョーシン、つめたい!」

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