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桜―サクラ―  作者: 柊 恵海
5/5

5 少女たちの名前

そんなこんなで休憩時間。

もう一度真保に会って色々話をしてみようと、

自分がさっき通っていた道を思い出しながら教室のドアを開けると……―――


「あっ中島!」


やたら舌足らずな声に呼び止められた。

誰が呼んだのか辺りを見回すも、それらしき人物は見当たらない。


「どこ見てるんですか!こっちです!」


下から聞こえる……!?


少し下の方に首を向けると、


「やっと気付きましたか中島!こっちに来てください!」


小学生みたいな女の子が、

その姿に似合わない馬鹿力で俺を引っ張っていった。


「ちょ……待…あんた誰っすか!?」


「私のことはおいといてこっち来てくださいよー!」


「い、痛い痛い痛い!!」


正に怪力少女。



少女が足を止めたのは階段の踊り場だった。

終始放心状態に陥っていた俺にはここがどこなのか知る由もない。

まぁ平常運転でも分からないとは思うが。


「中島!私は一体どーしたらいいのですか!?」


「何を!?ていうかあんた本当に誰!?」



 *



「私は御笠といいます。一年四組です」


ミカサ、と名乗った。

だが残念ながら俺はミカサという人物に思い当たる人はいない。

ミカミっていうのはいたな。いやそれはどうでも良いか。


「朝、居ましたっけ?」


「いません。なので私のことは知ってなくて大丈夫です」


それなら良かった。


「…で、どうしたんですか?」


「あの……私って見た目小学生じゃないですか」


自覚済みなんだ。


「中学の頃からチビチビいわれてて…

名前もへんだからすっごいからかわれてて…

高校でもそんなかんじになったらどうしようかと思うとこわくて…」


身体的コンプレックスか…。それはどうしようもないよな。

名前に関してはフルネームを聞かされてないので何とも言えないが、

今流行りのキラキラネームというやつかな?


「なんで俺に相談しようと思ったんです?」


小学生みたいな奴に敬語ってなんか嫌だな。

本人には絶対に言えないけど。


「中島がぱしられてるの見てました。

ぱしりは人のこと笑わないと思ったので」


俺パシリじゃねぇし。




「成程。中島はパシリだったのか。道理でヘタレなわけだな。」


今度は上から聞こえた。


「いや俺パシリじゃねぇ……って真保!?」


真保が上に登る階段の最上段に立っていた。

いつの間に。


「さくらんぼちゃん!」


「黙れキャンディ。吊るすぞ」


さくらんぼ……?キャンディ??


「さくらんぼちゃん学校にきてたのー!?びっくり!」


「せめてさくらって言え!」


なんとなく分かったぞ。


「真保。お前の名前ってさくらんぼなのか?」


素晴らしきかなキラキラネーム。

リンゴやイチゴなら分からなくもないが、さくらんぼとは。


「断じて違う。私の名前はオウミだ。

桜の実と書いて桜実。真保桜実だよ」


桜の実て。

だからさくらんぼなのか。

マホオウミ。

…オウミマホにした方がなんとなくしっくり来るのは俺だけ?


「ちなみに、私の名前はアメです。

おかしの飴です。御笠飴です」


「飴!?」


御笠飴。

どこかの駄菓子屋にでも売ってそうな名前だなおい。

こいつの名付け親は……何を考えて……


「……っふふ……」


やっべ。笑いがこみ上げて来た。


「どうした中島。気持ち悪いぞ」


「私の名前がへんだからですかー?」


「いや……二人とも…面白い名前だなぁと……くくっ」


やばいやばい笑いが止まらない。

早く止めないと体育会系特待生さくらんぼに一発かまされそうだ。


「すまんちょっと待ってくれ……っふは!」


「どーせ私なんてキャンディなんですよーだ」


「子は親を選べないからな…運が悪かったんだよ私達は。だから笑うな」


[子は親を選べない]


そうなんだよな。


[運が悪かった]


そうなんだよ。こいつらも――、運が悪かっただけなんだよな。


「ありがとな。失敗例を聞かせてもらって」


俺は、二人に心からのお礼を言った。

皮肉ではない、純粋な。


「失敗例とは何だ。まさか名前のことじゃないだろうな」


「なんかお礼いってもらったのにへんなかんじー」








………自分に名付け親がいる、という当たり前のことを。


ずっと羨ましいと思っていたけど。


後悔する奴は後悔するんだよな。


そういう点では俺は良い方……なのか?




……そんなわけないよな。

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