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晩餐会

部屋を出ると、一匹の魔物が待っていた。


二足立ちのドラゴンで、甲冑を身につけている。


リザードマンかな?


「メグミ様はじめまして。警備隊のドグルと申します。晩餐会会場まで護衛させていただきますので、よろしくお願いいたします。」


ルイーガに命じられてのことらしい。


お城の中で護衛が必要だなんて、やっぱり恐怖心は持っておいた方がよさそうだ。


「ドグル、はじめまして。お城についてもまだ何も分からないし、助かります。マーナも女の子だし護衛まではさせられないもんね。」


「もったいないお言葉です。…あの、メグミ様。その…私はこのままの姿でよろしいのでしょうか?」


そう言ってドグルは自分の姿を見る。


晩餐会なのに、おしゃれしていないのが気になるのだろうか?


首をかしげた私に、マーナが口添えしてくれた。


「メグミ様、ドグル様は魔物のお姿でメグミ様のお側にいても大丈夫かとお聞きになったんだと思います。」


それを聞いてドグルはうんうんと頷いた。


ああ、なんて勘違いを。


「あの、そのままで大丈夫っ。怖くないと言ったらきっと失礼なんでしょうけど、ドラゴンの姿の警備隊なんてかっこいいと思うし。だから気にせず、そのままで。」


私がそういうと、ドグルはにっこり笑ってくれた。


ドラゴンもこんな顔して笑うんだなと失礼なことを思う。


たいてい、物語の中のドラゴンはぎろりと睨みつけるような顔か、無表情だった。


「ありがとうございます。私、変身はどうも苦手でしたので助かります。他の者にも伝えてよろしいでしょうか。」


「うん、ドグルみたいな見た目の人には大丈夫。他の人には…会ってみないとわからないから、まだ何とも言えないんだけど…。」


やっぱりデロデロのドロドロ系は不安なので言葉を濁した。


「かしこまりました。では、こちらへ。」


薄暗い廊下を3人で歩く。


外は先ほどと違って雷が鳴り響いている。


時々ピカッとするたびに奥の方まで視界が開ける。


こんな真っ暗な中、よく歩けるなと感心する。


もっとも、体のつくりが違うので、見え方も違うんだろうな。


私の部屋から3階下の、大きな扉の前にきた。


ここは宴会場みたいなもので、パーティ等大勢が集まったときの食事会場として使われるらしい。


「では、参ります。」


マーナとドグルが扉を開けてくれる。


開けた先には、大勢の魔物がすでに席についており、一斉に視線が注がれる。


一番奥の中央には、魔王が鎮座していた。


あまりの視線の多さに体が強張った。


「メグミ様、お手を。お席はあちらでございます。」


マーナが手を差し伸べてくれた。


温かい手に触れ、少し緊張が和らぐ。


中央の通りをまっすぐ抜けて、魔王の前に立った。


「お待たせいたしました。」


マーナはすでに離れ、私が座るであろう席の後ろに控えている。


本当に出来た子だ。


魔王は何も言わず私を見ている。


その顔も無表情で、何を考えているのかわからない。


遅くなったことに怒っているのだろうか。


「あの、魔王様?」


再び声をかけると、魔王は「あぁ」といって立ち上がった。


「美しいな。よく似合っている。」


無表情でそう言われ、心臓が跳ねる。


そんな褒め言葉を男性から言われるなんて、もう何年もない。


ほんとだったら今頃…。


そう思ってしまう自分に苦笑する。


まだ、あんな男を思い出すなんて。


そんな気持ちを振り切るように「ありがとうございます。」と会釈した。


「そなたの席は余の隣だ。こちらに。」


促されて席の前へ歩いた。


すると一斉に魔物たちが席を立ち、グラスを掲げた。


私の前にもグラスがあったのでそれに倣う。


「今宵、我々はメグミを迎えた。今日はその祝杯だ。共に祝おう。」


魔王がそういうと、「うおおおおおおお!!」と一斉に叫ぶ。


多分人間で言う「乾杯!」のようなものなのだろうけど、人間の私には耳が痛い。


くらりとするタイミングで魔王が座ったので、私もそのまま座った。


ほうと息をついて周りを見ると、魔物たちがガツガツと勢いよく食事をしている。


テーブルにははみ出るほど大量の料理があったが、あれでも足りないのではという勢いだ。


私たちの前にも、できたての温かい料理が運ばれた。


どんなものかとドキドキしながら見ると、それは意外な物だった。


「え…これって…」


私の前に出されたのは、野菜とハムのゼリー寄せに、サーモンのマリネ、鴨のコンフィ、白身魚のムニエル、ポタージュスープとフランスパンだった。


見た目が似ているだけで、素材はまるで違うものなのだろうか。


「人間の食材を取りよせて作らせた。レシピも人間のものだ。これならそなたも食べられるだろう。」


魔王の言葉に唖然とする。


「魔界の食べ物には毒性の物もあるし、見た目が受け付けないかもしれん。これは歴代の妃たちの記録にちゃんとあるからな。そなた用に用意した。」


そう言う魔王の前には、私と同じものが並んでいる。


「魔王様も、人間用のでいいのですか?」


「目の前で気味の悪いものを食べていたらそなたの食欲が落ちるだろう。それに、そなたがどのような物を食すのか、興味がある。」


「どれも刺激が足りないな」と言いつつきれいな動作で食べていく。


一時眺めていたが、見ていたらお腹が鳴ってしまった。


おいしそうな匂いに我慢できなくなったらしい。


「…いただきます。」


恐る恐る口にする。


見た目は完ぺきなフランス料理でも、味が変だったら…と構えていたが、心配は無用だった。


とんでもなく美味しい。


久しぶりに味わう温かな食事に少し夢中になる。


物も言わずに食べる私を今度は魔王が見つめる。


「あ、あの、すごく美味しいです。まさか魔界でフランス料理が食べれるなんて思いませんでした。」


「そうか、よかった。」


一言告げてまた食事に戻る。


食べているときはあまり話したくないので助かった。


さすがに全部は食べきれなかったが、久しぶりの食事とは思えないほどよく食べた。


コルセットの締め付けもあるし、胃が小さくなっていると思ったのに。


「満足したか?」


杯を傾けながら魔王が問う。


「はい、とってもおいしかったです。ただ、あの、どうやって食材やレシピを手に入れたんですか?」


さすがにそこはスル―出来ない。


私のために人間界で強奪なんかしていたら、被害者に申し訳なさすぎる。


「人間に扮して購入したものだ。レシピは料理長自ら学びに行った。何ヶ国か行ったらしいから、いろいろな種類の物を作れると自慢して戻ってきたな。」


そんなことまで準備していたなんて。


もう驚くのも少し疲れてしまった。


「購入するときのお金はどうしたんですか?」


「それなら宝物をいくつか売った。なかなか高く売れてな。魔界の物など珍しいから、商人たちが飛びついたらしい。」


なんだかちゃんとしすぎていて怖いくらいだ。


魔物が悪行を尽くすなんて、夢物語なのかもしれない。


「では、人間界と魔界は、自由に行き来できるんですね?」


あんな世界になんて戻りたくもないが、興味はあった。


今は眠っている両親の命日にくらい、挨拶が出来ればとも思う。


「確かに行き来はできる。だが、そなたの住んでいた人間界ではない。この世界と直接繋がっている人間界が別に存在するのだ。そなたを呼び出したのは、妃となる者を召喚する力だ。帰す事は出来ない。」


魔王が言ったことを理解するのは難しかった。


私たちの世界の他に人間界があって。


そことここは繋がってて。


私は帰れない。


少し寂しい気がしたが、帰れないのは最初から覚悟していたので大丈夫。


それよりも、人間界が他にあるということが驚きだった。


「人間界って…二つあるんですか?私たちの世界とは全く別の?」


「あぁ。」


魔王はゆっくりと説明を始めてくれた。

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