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真実の姿

私はマーナの案内で自分に用意された部屋に来た。


先ほど私が召喚された場所は「召喚の間」というところで、二棟で構成されるお城の中心、中庭のような場所だった。


そこから東の城内に入り、一番上の奥が私の部屋だ。


魔王城なんてどんな造りかと思ったが、禍々しい感じはなく、簡単に言えば西洋の城といった風だった。


明りは少なく、松明が均等な間隔で灯されているだけなので薄暗い。


少年漫画に出てくる魔の巣窟のような、目玉や死体が埋め込まれたようなドロドロと気持ちの悪いのを想像していたので心底ほっとした。


「こちらがメグミ様のお部屋でございます。」


そういってマーナが開けてくれた扉の先は、こちらも豪華なスウィートルームのような部屋だった。


まさに「妃のための部屋」といえる。


天蓋付きのクイーンベットに、豪華な細工の施された衣装箪笥や化粧台。


窓も大きく、テラスもある。


色は全て白と水色を基調としていて、ギリシャの街並みのようだと思った。


「お気に召しましたでしょうか?」


マーナがほほ笑んで問いかける。


きっと私の顔が安堵と興奮でほころんでいるからだろう。


「ええもちろん。こんな素敵な部屋に住まわせてもらえるなんて。これは魔王様の趣味なの?」


魔王には確かに似合うのだが、それでもやっぱり魔物なのに、という偏見は拭えない。


「いいえ、魔王様は黒がお好きなんですが、人間の女性はこのようなお色味がお好きだとお調べになって、お迎えになる前に新調なさっておいででした。お使いになるものも、人間が使用するもので整えるようにとおっしゃって。」


それを聞いて納得した。


人間の女性に合わせたのなら、この部屋も理解できる。


派手なピンクなんかじゃないところ、魔王は美的感覚もいいのかもしれない。


「魔王様は優しいのね。」


素直にそう思ったので言ってみた。


迎える側として、迎えられる側への配慮は人間でもなかなか難しい。


それを魔王は迎える前に整えていた。


世界を統べるものとして、そういった配慮はやはり備わっているんだろうか。


「はい、魔王様は歴代の中でもそれはそれは慈悲深い方です。みんな、魔王様が大好きなんですよ。」


にこにことマーナは言う。


本当に慕っているんだなぁ。


でも、マーナは人間なのではないのか?


姿形は人間そのものだけど。


「マーナはいつからここにいるの?どうやってこの世界にきたの?」


「私は150年前に、息吹きの木から生まれ落ちました。このお城には、100年お世話になっております。」


え、150年?木から生まれ落ちた?


「えと…マーナは人間じゃないの?」


戸惑う私に、マーナはにっこりとほほ笑んだ。


「はい!私はケットシーです。今は人間の姿に化けております。他の方も、人間に変身できる方が多いんですよ。魔王様も、今はあのお姿ですが変身していらっしゃいます。魔王様が、お妃様のお世話をする私は、最初から人間の姿でお会いになるようおっしゃったんです。魔物に慣れていただかなくてはいけませんが、一人だけ人間というのは心細いだろうから、と。」


そんなことにまで気を配っているなんて。


先ほどの言葉少なく、冷酷な表情からは汲み取れなかった。


どうも、「お妃様」はかなり手厚いもてなしを用意されているようだった。


私個人に対してではないとわかっているのでそこで絆されたりはしないが、さすがにその器量の良さは尊敬の念を覚える。


魔物だからと言って、優しさや愛がないなんて本当にただの偏見だったのかもしれない。


実際、まだ触れ合ったことのある魔物は限られているが、召喚の間での様子や、マーナやルイーガを見ても、温かい感情を持って私に接してくれている。


心の中でそっと、魔物たちに謝罪した。


「そうだったの…。じゃあ、あなたは本当は猫の姿なのね?」


小説だったかゲームだったかの知識で、「ケットシー」が猫のモンスターであるというのは知っている。


確か王制を敷いた世界で生きているのだとかで、それならマーナのこの身の振り方もとてもよくわかる。


「メグミ様、よくご存じで!私うれしいです!先ほど魔王様もおっしゃっていましたが、メグミ様、魔物には恐怖心もないようですし、何か関わりがあったのですか?」


関わりなんて、そんな深い付き合いはしてないけど。


なんて説明しようかと少し悩んだ。


「んー、実際に会ったのは今日が初めてだけど、本で読んだりはしたことがあったから。恐怖心がないのは、みんなが私に殺意を向けたりしないで、温かく迎えてくれたからだと思う。もちろんびっくりはしたけど、私たちが想像していた姿より、みんなかわいらしいというか…受け入れやすい姿だったのも大きいと思うわ。」


そういうと、マーナはさらに笑顔を深めた。


そして、すっと片膝を立てて跪くと、頭を垂れた。


「メグミ様、私たちはやはり、あなた様をお妃様としてお迎えしたく存じます。お時間はかかるかもしれません。ですが、私たちのために、この世界のために、なにより魔王様のために、どうかお力をお貸しくださいませ。そのためでしたら、この身の限り、メグミ様に尽くすことをお誓いいたします。」


なんだか仰々しくされてしまい焦ってしまう。


そんな大層なことを言ったつもりはないのだけれど。


「マ、マーナ、お願い立って顔を上げて?」


とりあえず、跪かれたままでは緊張して話せない。


一般庶民の私には、やっぱり妃なんて勤まらない気がする。


顔を上げてなお羨望の眼差しを向けてくるマーナに居心地の悪さを覚える。


とても丁寧で気持ちのいい接し方をしてくれるけれど、それゆえに彼女の願いが心苦しい。


この雰囲気を脱すべく、話題を変える。


「ね、さっき魔王様も変身してるって言ったよね?本来の姿はどんな感じなの?」


「申し訳ありません。魔王様のお姿は、私も拝見したことがないのです。それはそれは威厳のあるお姿でいらっしゃるようなのですが、それゆえ、下々の者は見ただけで息の根を止められるですとか、消え失せてしまうとか、そんなようなことが言われております。なので、魔王様のお姿でしたら先ほどのルイーガ様でしたらおわかりかもしれません。以前お二人は魔界戦争でご一緒に戦ったと伺っておりますから。」


見ただけで死に至る姿――。


さすが魔王、とでも言おうか。


しかし、この世界の魔物を見る限りあまり想像がつかない。


魔王だけとんでもない姿なのだろうか。


それとも、この世界基準の「威厳」なのだろうか。


想像しても答えは出ないので、そのうち見せてもらいたいなと思う。


「わかった、とりあえずあとでルイーガに聞いてみるね。マーナの猫姿も、そのうち見せてもらいたいな。」


「かしこまりました!今はメグミさまの湯浴みの準備や晩餐のお支度があるので無理ですが、明日にでもぜひご覧ください。人間の姿も嫌いではないですが、やはりメグミ様にはありのままの私を見ていただきたいです。」


そうやってうれしそうに笑うマーナはやはり魔物になんて見えない。


正直、人間の方が憎悪に満ちている気がする。


もう二度と関わらないであろう人物たちの顔が浮かび、顔が歪む。


混乱の中であったため、片隅に追いやられていた感情や記憶がずるずると蘇ってくる。


そうよ、もう二度と、恋なんかしない。できない。


急に苦渋の表情になった私を心配したマーナに、「少し疲れたから眠りたい。明日、本当のあなたを見るの楽しみにしている。」と告げて、一人広々としたベットに横たわった。

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