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約束

「どうすれば、余の妃となるのだ?」


覚悟を決めて目を瞑った私に振り下ろされたのは、刃でも罵声でもなく、魔王の静かな問いだった。


ハッとして視線を魔王に戻す。


断ったのに、縋られている。


言い方に語弊はあるが、それでも、一度断られたくらいでは私を諦めたくないのだと取ってもいいのだろう。


疑問もあったが、喜びの方が大きかった。


「ええと…私、愛のない結婚は嫌なんです。お互いに愛し合った人と、結ばれて添い遂げたいのです。魔王様ともし結婚をするならば、私も魔王様を愛し、魔王様にも私を愛していただく必要があります。それは1日2日で出来ることではありません。お時間をいただき、共に生活をして互いをよく知りあい、その上で双方に愛情が芽生えれば、その時は魔王様の隣に並びます。」


魔王という異種族と結婚することに、私はあまり抵抗はなかった。


魔王が人間に近い(耳は大きく尖っている)姿をしているからかもしれない。


もし、魔王の後ろにいる、たとえば羽根の生えたピンクの悪魔だったり、一つ目の巨人だったりしたら話は別だったかもしれない。


とにかく、側にいるなら、愛情を持って大切にされたい。


もう、裏切られたくない。


私の言葉に、魔王は口に手を当てて考え込んでいるようだった。


魔物たちは静かに見守っている。


家臣なのだと思うけれど、主が結婚を渋られているのによく黙っていられるなと思う。


普通、周りから罵声が上がってもおかしくないんじゃないか。


先ほどの様子からみても、かなり躾がなされているようだ。


そんな様子と若干かわいらしい姿もあって、先ほど魔王が言った「この世界への恐怖」が私にはあまりない。


私の目の前にいる魔物は、社会現象を巻き起こした某RPG(話の中心がクリスタルではなくドラゴンの方)のモンスターのようないでたちで、もちろん若干の威圧感はあるものの、さほど恐怖心は湧かない。


アンデッド系だとさすがに不安だが、幸いここに今はいない。


人型や、獣、悪魔の類が中心となっている。


私が魔物たちを眺めていると、魔王が私に向き直った。


「時間が必要だと言ったが、余には時間がない。1年。1年なら時間を与えてやれる。それでよいか。」


どうやら私の条件を聞いてくれるらしい。


でも、1年じゃお互いに恋をするなんて難しいのでは。


恋に時間は関係ないというけれど、さすがに魔王との恋となると話は別な気がする。


そもそも、まずはこの異世界に慣れるので手いっぱいだと思うのだが。


「わかりました。しかし、もし1年経っても愛が芽生えなければ、私は魔王様と結婚しません。それでよろしいでしょうか。」


ここだけははっきりしておかなくては。


なし崩し的に1年経ったらはい結婚、なんてごめんだ。


「…わかった。だがその時そなたはどうするのだ。」


妃として召喚されたのに、結婚しないとなればここには置いておけないということだろう。


でも、まぁその時は。


「煮るなり焼くなりしてください。どうせ、人生を一度諦めた身です。後悔はありません。魔王様の意に添わなかった罪人として、私を葬ってください。」


魔物なのだし、人を殺めるくらい簡単だろう。


そう思っての提案だったが、なぜか一瞬魔王の表情が歪んだ。


一瞬だったし、気のせいだったかしら。


「わかった。では、具体的にはどうすればよい。」


一瞬私の殺め方かと思ったが、多分恋をする過程のことだろう。


そんなこと聞かれても…と思うが相手は魔王。誰かを愛したことなんてないのかもしれない。


「そうですね、まずはお互いのことをよく知らなくてはいけません。食事やお茶の時間を共に過ごし、話しながら理解を深めていけばいいのでは。」


恋をする以前に、私は魔王やこの世界についてよく知らなくてはいけない。


1年ここに暮らすのだ。


私のような人間が住める場所なのか疑問だが、郷に入っては郷に従え。


よく知りもしないうちに諦めてはいけないと思う。


「では、夕食のときに。それまでは城内を見て回ったり、自室で寛ぐが良い。マーナ。」


「はい。」


呼ばれて前に出てきたのは、エプロンにキャップをかぶった侍女のような姿のかわいらしい女性。


年は18、9というところだろうか。


ここにも人間がいるなんて。


「メグミ、そなたの世話係のマーナだ。身の回りの世話はそれに言えばいい。他の者も、皆そなたに力を貸してくれる。困ったことがあれば言うといい。」


「では」といって魔王は身を翻し去って行った。


魔王についてこの場を後にする者もいれば、まだ私を見ている者もいる。


マーナはととと、と目の前に来てお辞儀をした。


「魔王様に仰せつかりましたマーナと申します。お妃様のお世話をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。」


うん、とっても礼儀正しいし、かわいい。


ブルーの瞳に青みがかったグレーの髪。


なんとなく色味的にロシアンブルーを彷彿とさせる。


「めぐみです。これからよろしくね。慣れない間迷惑をかけてしまうと思うけれど、私もなるべく早く慣れるようにするから、いろいろ教えてね。」


「まぁ、迷惑だなんて!なんでも遠慮せずにお申し付けくださいませ。私で出来ないことは、他の方にもお願いいたしますので。」


「そうですぞお妃様。我ら揃ってお妃様のお役に立つ所存でございます。」


マーナの後ろからやってきたのは、一つ目の巨人。


多分サイクロプスと呼ばれるモンスターだと思う。


「お妃様、こちらルイーガ様でございます。このお城で警備長をやってらっしゃるお方で、それはそれはお強いんですよ。」


マーナが紹介してくれた。


どうやら世話係に選ばれるだけあってかなり気が利くようだ。


「マーナ殿、ご紹介感謝いたします。改めて、警備長のルイーガと申します。魔王様やお妃様の御身はこのルイーガがお守りいたしますぞ。この城の隅々まで知り尽くしておりますので、案内などもお任せ下され。」


「よろしくお願いします。迷子になったら、ルイーガさんを呼べばいいですね。」


「お妃様が我らに敬語など!なりませんぞ、しっかりと上に立つ者として威厳を発揮して下され。」


マーナとは違い年上のようなので自然と敬語になったが、どうも許されないらしい。


というか、私まだ妃じゃないんだけど。


「あの…魔王様との結婚もまだ決めていないし…その、お妃様って呼ぶのもやめてもらえないかな…。」


「しかし、いずれはお妃様になっていただきますぞ?」


ルイーガは先ほどのやり取りを見ていなかったのだろうか。


いや、こんな大きな存在見逃すはずないし、ちゃんといたのだけど。


「私は1年かけて魔王様の妃になるに必要な準備をします。それがもしうまくいかなければ、私は葬ってもらう約束をしました。どうなるかは、1年後までわからない。だから、妃なんて呼ばないで、名前で呼んで?」


そういうと、二人は困ったような顔を見合わせたけど、すぐに笑顔で私に向き直った。


「かしこまりましたメグミ様。」


「仰せのままに、メグミ様。」


なんだかそれもむずがゆいなと思いつつ良しとする。


他の魔物も少しずつ距離を詰めてきた。


このままだとここにいる全員と挨拶をさせられかねない。


今後1年一緒に過ごすのだから必要ではあるが、さすがにいろいろありすぎて疲れた。


もう休みたい。


「マーナごめん、部屋に案内してもらってもいい?ちょっと疲れちゃって。」


「かしこまりました。どうぞこちらへ。」


私の言葉にマーナは私を連れて歩き始め、ルイーガは近寄ってきていた魔物たちを止めに入った。


「みなさんごめんなさい。落ち着いたらぜひご挨拶させてね。」


一言言って退出すると、何故か後ろで歓声が上がった。

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