妃の理由
一瞬でも、ほんのわずかでも期待した自分を呪った。
もう二度と、自分に幸せなど来ないのだと思い知ったばかりだというのに。
この信じられない異世界で、きっと気分が高揚していた。
正常な感覚を奪う現実。
自嘲して、また状況確認へと戻る。
「タイミング…とは?」
「余は今すぐ妃を迎えねばならない。混乱が生じるので、この世界の者に妃を務めさせるわけにはいかない。異世界の者を召喚し、妃とするのが習わしだ。召喚出来るのは、その世界で絶望し、意識を手放した者のみ。余の召喚と、そなたの状況が重なり合い、そなたをここへ導いた。」
召喚の背景まで教えてくれたので、すんなりと理解できた。
同時におかしくなる。
召喚の瞬間、全世界で唯一絶望していたのが私だったのか。
それとも、度合いの問題だろうか。
どちらにせよ、私の絶望具合は半端ないということだ。
それなのに、今普通にこの状況と向き合い理解しようとできる。
ハイになっているだけなのか。壊れたのか。
「魔王様は、私でいいのですか?」
あまり深く考えずに聞いてみた。
魔王にだって好みはあるんじゃないだろうか。
異世界の者を妃にしなければいけないのはわかるけれど、召喚した人間をすぐに妃と認めてしまっていいのだろうか。
気に入らなければ再召喚、とか出来そうな気がするけれど。
「余はそなたで良い。今話をしていても問題はない。一番重要である、この世界への恐怖もどうやら無いようだな。安心して妃を任せられる。」
ようするに、「都合のいい女」なわけだ。
悲しくなるけれど、魔物なのだからそんな感覚で結婚しても納得できる。
でも、まぁいいかと諦めたりもできない。
愛のない結婚なんて、「世界で一番絶望した」私だって、やっぱり嫌だった。
「あの、そんな結婚私は嫌なのですが。」
今までとは違い、はっきり言った。
それで殺されてしまってもいい。
一度は人生に失望したのだから。
でも、結婚だけは譲れない。
私だって結婚に夢を見ていた。
愛し愛された人と、永遠を誓って添い遂げる。
困難も痛みも、愛し合っているからこそ一緒に乗り越えられる、そんな関係。
それを、愛してもいない愛されてもいない異種族と、なんて私には無理だ。
それならいっそ夢見たままで死んでしまいたい。
綺麗な憧れのまま、もし生まれ変わることができたならその時には叶えたい。
だから断った。
怒鳴られるかもしれない。いきなり刃を向けられるかもしれない。
だから、目を瞑った。覚悟を決めて。