第4話 愚かゆえの偶然
ぐりぐりと、思考連鎖は続きます。
第5話
『愚かゆえの偶然』
1
────あなたは、生きている
あなたにしか、たどりつけない
でも、そこは行ってはいけない場所
人間は、『魔法』という壁を超えてはならない
でも、あなたはやってしまった
だからあなたは実刑されるのよ
ブラックホールって、しってる?
あなたが自分の力で生み出したのよ?
あなたは光速に近い速度で、落ちてゆく
あなたはブラックホールの重量に耐えられなくなって、つぶれてしまう
でも、それを止められない
光速に近くなると、流れる時間は遅くなる
あなたはいつ、たどり着けるんでしょうね?
その銀河の、中心へ
そのちからは、あなたに託されたもの
どうつかってもいい
あなたは決めなければいけない
決めないと
捕まって、実験台にされる
あなたは奴らに殺されるんじゃなくて
せかいにころされるのよ
0.00000000000000000000000000000000000000000000000000000....................1秒
「あ、あああぁぁぁぁぁ─────────────!!!!!」
2
「っ!!!」
目が覚める。
ソファーに寝ていたせいか、顔のあちこちにシミができていた。
また、あの夢だ。
ブラックホールに落ちてゆく俺
葵の声
あの笑い声が頭から離れない
なぜあの夢を見るのか、まったくわからない。
うだるような暑さの中、俺はだるそうにケータイをちらりと見た。
6月28日
そうだ、俺はあのあと実験を開始したが何も実現する事ができなくて眠っていた。寝たまま朝を迎えてしまったので夕飯は食べていない。ものすごく腹が減っている。減りすぎて腹が痛くなってきた。
当然基地には誰もいない。
あのケータイの、添付画像。
「.....」
思い出すだけで、嘔吐感と恐怖心がせり上げてくる。
そこに広がっていたのは、死だ。
厳国が、神官が、世界に裁きをもたらしている。
理由はなんとなくわかるような気がする。
俺の、俺への警告だ。
俺みたいなちっぽけな子供が、世界の支配に挑んでも、一瞬で消されるのだと。
抵抗など許されない、彼らはきっと俺達を人間だと思っちゃいない。
だが、逆に考えて見ると、泳がされているのかもしれない。
だからって、自由に動いても、大丈夫なのか?きっと、いつか消される。
俺に残された未知は、なんなのか
抵抗か
逃亡か
そうだ、ここは、地獄だ。この世界には天国などない。
だから、やるしか無い。
だが、それでいいのか?それだけで、俺なんかで世界を変えられるのか?
きっと、不可能だ。
だが、これしか残されていないのならば、やるしかない。
3
厳国
カツ カツ カツ
一人の軍服が綺麗な床に音を立てていく、その足が扉の前で止まった。
『染色体分析終了、入室を許可します』
しばらく扉の前に立ち止まっていると、モニタにそう表示され扉が開く。
まったくめんどうくさいシステムだな、つくづくそう思う。
開いた扉の先に見えるのは、武器類の回収室の入り口だった。
武器は持っていないので、スルーして進んでいく。
そして見慣れた大きな扉が目の前に開けた。
扉を開く。
「失礼」
巨大な円卓が置かれていた、そこには一人しか座っていない。その先に座る、一人の老人。
この男が神官のトップ。創暦という腐ったシステムの創立者の子孫。
「久しぶりだね」
円卓の主席に居座る老人は組んだ手を顎に置き、眉間にシワを寄せる。
「君を呼んだのは他でもない」
円卓に、何かが写し出される、映像が円卓の上に浮いている。
「私の先祖が立案した計画、この計画は創暦元年より続いてきた」
「が、私の先祖達は、だれも実行しなかった。その恐ろしさが故に、だが私は...」
「この囚われた世界を『解放』するのだ」
「世界に必要なのは、『神』ではない『神の宮』でもない」
「そう、天国だ」
「まぁ前説はここでいい、計画の下ごしらえを始めようと思っている」
「下ごしらえ、ですか?」
「そうだ、この時代では、計画の成就は出来ない」
「7年後...それが時と、私は見ています、計画どおりにいけば、世界は再生される」
「それを握っているのが、彼なのか」
モニタに少年と青年、そして三十代後半の男の顔が写し出される、どれも同一人物に見える。
「彼は我々に抵抗した、何度もだ」
「あなたにはθ計画の主任としてやってもらう」
「θ計画も、計画の条件準備ともいえる、早めに遂行してくれ」
「了解しました」
「君の弟と敵対する事になるが、いいのか?」
弟がいると聞いていた、なんの思い入れは無い、まだ成人に満たない弟だが、すべては計画の推移のためだ。この世界で生かしてやるよりも、救ってやった方がいいのかもしれない。
この計画に甘えなどいらない。
「ええ、大丈夫です」
「そうか、すまない事をしたな」
こめかみをぐりぐりと押し付ける老人の姿、彼は神官にして善き心を持っている、が、そうともいえないかもしれない。
「計画の為です、心を痛めないで下さい」
「そうだな、この悪政も、なるべく回復してやりたいのだが....私は罪を背負いすぎた」
「この計画の成就しか、贖罪はできんのだ」