第2話 序章(中)
登場人物
天野宙 15歳
物語の主人公、銃の扱いに長けているが、非戦闘主義。
藤原遠流 15歳
PCの扱いに長けた天才、かなり濃いオタク。だがイケメン
大野葵 14歳
悪戯好きな基地の紅一点?いつもポニーテイル
鞘准 14歳
基地の戦闘員、サバイバル術も心得ている。宙曰く『絶対に伝説の傭兵(ス○ーク)の遺伝子持ってる』
リン・ベネツィア 14歳
ワルキューレの子孫だという少年、石と革命の使命を宙に告ぐ。
基地のメンバーはみんな同い年です。
あとこんな世界でも学校は一応あります。
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あれは、絶対刺客かなにかとそう思っていた。いや、ビビっていただけかもしれない。
手元を探ろうとして、銃が無い事に気がついた。なぜこんな時に携行していないんだ。
「誰ですか?」
葵の声が聞こえる。
あたりをぐるりと見やるが俺の銃は見当たらない。
この手際の悪さに歯噛みした、その歯もカチカチと震えている。
ガチャリ
もう、最悪だ。
せめて銃があれば───。
「あ、葵!!」
意を決して細身の葵を抱き込み、そのまま俺がクッションとなって地面に着地する。
そのときに頭を打った。
「きゃ!ちょ!!宙?」
葵の声が聞こえた気がした。
朦朧と立ち上がりながら扉を見つめる。
開かれたドアの向こう側から、黒い影が飛び出してくる。ちいさな影、俺より背は低めだ。少年兵か?
「厳国兵か!?」
問いかけながら、少年兵に歩み寄り、応戦しようとその影につかみかか──────。
腕元を掴まれた瞬間、俺の視界は宙を舞いまもなく俺の身体は地面に思い切り激突した。
「がぁっ!!?」
見事なまでのCQC。俺の意識が朦朧とする、俺はこの攻撃を受けこの刺客の招待に気がついた。
こんな事(CQC)をしてくるヤツは、アイツしかいない。
そいつは手を差し伸べてくる。
「准か....」
「油断しすぎ」
刺客の招待は、最強の戦士である鞘准さや、じゅんだ。あだ名はサヤジュン。
基地のメンバーにして戦闘員。基地に入ってくるといつも襲いかかってくる。本人にとっては遊びのつもりらしく本気でやってくる事は無いがやめて欲しいものだ。
まったく恐ろしいヤツだ。本当にいまのはシャレになってねぇぞ。黒服だったら拘束されてる。
「あたた....ちょっと宙、びっくりした...このヘンタイ!」
「そういうつもりでやった訳じゃない、遠流と一緒にするな」
口をへの字にしてぶーたれている葵は放っておく。
「これで今月は一勝二敗だな」
笑いながら准の手を取り、引き起こしてもらった。
「不意打ちはカウントに入らない筈だぞ准!」
あー、クラクラする。
「いや、入ったら『一瞬で消す』精神だから」
そう、准は『ミリオタ』じゃなく、本物のサバイバル術を持った男。森に半裸で放り込ませても、メシは自分で調達しそうだ。その右目に眼帯を付け敬礼すれば、似てなくとも『あの男』を連想させられるはずだ。そして相手は死ぬ。
そもそも『いっしゅんでけす』とかこわすぎです。
「だが俺は、そのCQCを防ぐ方法を見つけ出したぞ...」
くっくっく、と俺は低い声で笑った。
「何っ!!?」
ガババっ、と身構える准、いい反応だ。
「試しに掛けてみろ!!カモン!!」
「やってみやがれ!!」
准が向かってくる、だが俺には秘策があるんだよ!バカめ!!
腕を掴まれる、このときにその腕を俺の背に持っていき、ぐいと引き上げてやれば.....。
─────────ガンッ!!
──三十秒後
「参りました....」
負けた、秘策を実行しようとしたらもう決着はついていた。
「弱っ!!!宙弱すぎ!ワロタwww」
「黙れギャルゲマスター」
いつのまにか遠流が来て腹を抱えている、この野郎いつからいやがった!!
「あれはギャルゲなどではなく神作!!」
と敬礼する遠流をスルーした。准が敬礼を返している、意味が食い違っているぞ。
楽しげに眺めていた葵に向き直る。
「ところで冷房の回収だけど、お前の家か?」
「そーそー、はやくとりいっちゃってよ」
「わかった、暑いのはゴメンだからな」
この地下施設、夏になると熱気がこもるのだ。去年は異常な暑さでフル稼働してたら冷房が壊れた、夏前に修理すべくと修理費の稼ぎに奮闘していた。
結局家電を取り扱っている葵の両親の店に頼み込むと無料で修理してくれる事になった。当然俺は無料でやってもらう訳にはいかず、金を渡したが。
で、たったその冷房の修理完了の報を大家家の娘からあずかったわけだ。
あの両親には感謝している、身寄りの無かった俺の保護者にもなってくれたし。しかも、俺が基地で暮らすと言った時少しばかりの金と家具を譲ってもらった。感謝じゃ届かない程の恩人なのだ。
「まった!一緒に行こうよ!」
玄関に向かう俺を見て葵があわてて詰め寄ってくる。実家に用でもあるんだろう。
「わかった。そんなにあわてるな」
「おお!?これはまさか....外に出た時にリア充な展開をする気だな宙!葵!爆発しろ!!」
ファック、と親指を逆さに立てる遠流。
お前の煩悩に爆発して欲しい。
俺はこの小娘に恋愛感情を持った事なんてねぇ!!
「小娘ってゆーな小僧」
「お前も小僧といってるじゃねーか」
「Son of a bitch...」
「サノバヴィッチはねーぞオイ!このヴィッッチが!!」
なぜ英語、てかその言葉はシャレもんじゃねえ!俺が返した言葉も駄目だが。このヴィッチはたまにぼそっといい発音で英語を発する。何処で覚えたか知らないがたまに意味が分からなくて困る。意味を知ると傷つく。そして相手は死ぬ。
「リア充乙」
うしろからイケメンの声が聞こえたが無視。反論する体力なんて無かった。葵はワンワンと反論している、リア充話は葵の一方的な全力罵倒で終わっていた。
太陽の光が灰色の街並みを白く染める、そして街中は自由を求めこの街にやってきた無法者でいっぱいだった。管理社会の目が行き届いていないので、極東のこの辺りはまさに無法地帯と呼べる。危なっかしい銃声が聞こえたり、物を盗まれたりで大変だ。
快晴、最近太陽が活発に働いている。この暑さにはしんどさを覚える。
俺と葵はふたりならんで街中を歩いていた。端から見ればカップルかもしれない、だが違う。
葵は話をふっかけてくるが、俺は地味に答えるだけ、気があるのかもと思うかもしれない、だが違う。
外出中はいつも周囲を警戒している、この街で警戒心を剥き出しにするのは普通だが、厳国の兵士がいるのか、と身構えていた。
さっきは准のいたずらだったが、念頭においておくべきと思い直した。
「ねぇ、宙」
「ん?」
「十二歳のころ、病気で寝込んだ事あるよね」
「ああ、あれか、おもえば良く死なずに済んだな、俺は」
「二週間ずっと意識不明だったから、あの頃は心配してたよ」
そう、いまから二年前の事、俺は突然意識を失いぶっ倒れ、二週間ずっとうなされていたらしいのだ。そしてうなされていたとき俺は悪夢を見ていた。そんな記憶がある、だがそれはかなりリアリティーがあって、恐ろしいものだった。
医者は、いつ死んでもおかしくなかったとそう言っていた。
退院したとき葵は泣きじゃくって抱きついてきた、病み上がりのこっちが痛くなる程の力だったな、ありゃ。
「え!!?そうだったの!?」
当人は覚えていないようだったが。
そんなこんなで昔話をしていると、寂れた家にたどり着いた。俺の実家と言うべきなんだろうか。大野家だ。
「だっだいまー!」
「ただいま」
家主の夫婦が穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「ひさしぶりだね、宙」
「いつもお世話になってますよ」
「そんなよそよそしくしなくていいのよ?」
義母の言葉に、思わず笑ってしまった。
なんというか、恥ずかしいのだ。
「ええと、冷房の修理ですけど...」
職人の義父に問うと、義父も笑顔で
「だから『お父さん』でいいんだよ、宙」
俺をからかって笑った。なんというかこの二人はよく笑う、とっても優しい人だ。もちろん娘である葵にも遺伝している。
「いえいえ、本当にお世話になってきたんですから」
「恩返しはいらないよ。家族なんだから」
その義母の微笑みに、俺もつられて笑顔になってしまう。
本当にいい両親だな。会うたびにそう思う。
「でね、冷房の修理は終わったから、持ってっていいよ、荷台を貸そう」
「ありがとうございます」
「久しぶりに来たんだから、ゆっくりしていってね」
「はい」
それから俺は数時間、両親と葵とで談笑していた。
2
時計は午後の二時を示している。
心温まる会話のあと、俺は冷房を引っ張りながら歩いていた。
「お、重い!!.....」
「手伝うよ」
「サンキュ...」
「でも女の子に助けを求める男子って...」
「ああー!!もういい、手伝うな!!」
葵とそんな会話を繰り返しながら、基地の目の前にたどり着く。や、やっとついたぞ。
あとは地下へ続くこの階段を下りれば....っ!!
「あ!?.....」
基地の目の前には、昨日会ったあの端正な顔つきをした少年が立っていた。
「あ、天野宙、約束通り、また来たよ」
うん?だれだコイツは。
「すまないが、会った事は無いな....。何処かで会ったのか?」
「って、ヒドい、昨日話したじゃん」
そう、思い出しそうだな、えーと、ミンだっけ、レンだっけ。
そうだ思い出したぞ!
「レンか...」
「違うし、リンだよ」
「宙?この人誰?」
「昨日話を交わしたヤツだ」
葵はリンに会釈をして、適当に自己紹介を済ませる。
「で、リン、今回は何の用なんだ?」
おもむろに本題を持ち出した。
「革命は、断ったぞ」
「そう、それはもういい」
「そんなあっさりと...?」
また頼み込まれると思っていてもんだから、その即答に俺は拍子抜けしてしまった。というか、コイツへの警戒はまだ解いていないというのに、なぜこんなにも馴れ馴れしいのか。はっきりいって、もう関わりたくないんだが。
「昨日渡した石のことを、君に伝えるのを忘れててね」
「石?そういえばあったね」
葵はあの石に気がついていたようだった。
ああ、あれのことか
「立ち話もなんだし取り敢えず基地に入ろう」
「うん」
ああ、まためんどくさい事を吹き込まれるかもな。
そう思いながら、基地にリンを再び招き入れた。
もっと歯切れよく文章を書きたいです。