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創暦のレジスタンス  作者: 僕。
序章 
2/6

第1話 序章(上)

1

 創暦456年6月26日


 俺が子供の頃に、このへんは革命軍に解放された。

 その後革命軍は敗北して解体されたが、そのおかげでこのへんでは管理の目はあまり届いていない。

 だから、厳しい管理などあまり来ないし、安全に暮らせる土地だった。

 なにより、この極東地域が自給自足して成り立っているからという事も大きいかもしれない、神官どもは、こうした最先端の技術を扱っている地域には管理は緩めだった。

 だから食事の規制はあまり無く、たらふく食っていけるし、勉強などせずにも適当に流されて生きていける。


 俺は物心ついた時、両親を既に無くしていた。

 両親と仲が良かったという大野家に引き取られて、お世話になっていた訳だ。

 親の顔など覚えていない。厳国からやって来た管理人に反発して、殺されたと聞いた。

 

 俺が暮らしているのは元極東国(日本)の太平洋沿いの都市だ。

 ここでは創暦以前の建物や物資が残っているらしい、まさに化石と言ったところか。

 興味などないが。

 その都市から少し離れた郊外居住区の無法地帯。

 小さな地下部屋、そこに家具を持ってきて泊まっている。

 ここでは俺ひとりが利用している訳ではなく、この基地のメンバー三人がここにやって来ては自由勝手に使っている。見渡せばPCが鎮座していたり、扇風機が回転していたり小型の冷蔵庫が置いてあったりするが部屋はガラクタで埋もれていた。この多くが拾ってきた金属片だったりバールや銃、木片とかプラスチック素材とかだ。

 

「宙?いるか?」

 外から俺の名前を呼ぶヤツがいる。あの声は基地のPCを利用しにやってくるアイツ。空間プログラマーの才能を持ったイケメン。

 名前は藤原遠流ふじわらとおる、はっきり言おう、俺はこのオタク野郎が苦手だ。PCの周りに置いてあるフィギア、いろいろと目の邪魔になる要素がいろいろある。棚にはアレなゲームが置いてあるとかやめて欲しい。

「お前....そのゲームどもを何処かに撤去してこい...」

「は?てか早く入れろよぅ」

 扉を開くと、俺はそいつの両手を見て顔をしかめた。

「また買ってきたか...」

「おう、宙もやるか?」

 なにかのゲームの箱で俺をつついてくる。

「誰がやるかアホが!!それ撤去しないと明日燃やすからな!」

「ちょ、それ困るって!」

 慌てた様子でゲームのパッケージ達を守る遠流。

「俺の必所品だぞコレ」

「そんなんで生きていける訳ねーぞエロの権化が!!」

 ウヒヒ、サーセン。とふざけた顔をしてくる。

「あー分かった、分かった、ライター持ってくるから俺が来るまでに撤去の準備をしろ。五分間待ってやる。」

「だからこれが無いと生きていけな....!!」

「撤去しないならおまえごと燃やしてやる」

「は、ハイ、すぐにやります隊長!!」

「よろしい、じゃ外行ってくるわ」

「いってらー」


2

 この時代、子供は生きるのに必死だ。盗みを働く少年や、銃を持ち歩いている危険な子だっている。

 俺、天野宙あまのそらも銃は所持しているし、週に一度は大人の手伝いをして金をもらったり交渉して物資を売ったりしている。酷い話が、だいたい親の居ない孤児はそんな生活に追われている。俺の場合幼馴染みの家に引き取られたから前者のような盗みとかはしていない。

 だがたまに、稀に盗難に遭う事はあるが、手元の銃で威圧すれば性根の腐った少年でも、素直に反省する。

 そんな面倒な事が無いようにいつも盗難防止は完璧だ。

 にしてもここまで人間不信が溢れていると胸くそ悪い。

 大人共は野蛮な奴らばかり、よく銃声が聞こえたり怒声が聞こえてきたりする。こんな世の中はおかしいとは思うが、管理が緩いだけマシだ。まだ厳国はここまで手を出していないんだ。

 いつこの平穏が終わるか分かったもんじゃない。


 外出したのは昼飯を食べるため。鉄の臭いが立ちこめる中、今日も行きつけの店に来ていた。

 ファーストフードを頬張りながら、灰色の景色を眺めていると。

「失礼するよ」

 隣の席に誰かが腰掛けて来ているのを横目で確認する。

 綺麗な顔立ちに、この辺りの人間ではない風貌。

「ある人を索敵してるんだけど...」

「さく...てき?」

 敵?

 あまり聞かないなそう言うの。こういうはあまり見ないから、少し警戒する。


「天野宙って人物なんだけど」

 ........。

 

 俺だ、

 俺だな。

 俺はこのあたりでは少し有名だが、まさか名指しで探されているとは驚きだ。

 こういうのは適当にやり過ごすしかない、そう、適当に受け流す!

「天野...?知らないな」

「君が、天野宙だよね?この写真の顔だし」

 なにぃぃぃぃぃ!!

 そ,想定外すぎる、写真なんていつの間に撮られたんだ!?

 くそ、どうかしたんですか?と可愛げに首傾げてるとことか許せねぇ!

 もう、認めるしか無かった。

「はい....そうです....」

「良かった...」

 一気に喜びが溢れたのか、彼の表情が思わず喜びの色になる。

 だが俺は、警戒の態勢は崩さない。

「ああ、わすれてたね、僕はリン、リン・ベネツィア。よろしくね」

 差し出してくる手をまじまじと見つめる。

 白くて艶やかな手。

 恐る恐る触れてみる。

「なんでそんなに警戒してんのかな?」

「いやっ!警戒してなどいないぞ」

 白い手をきゅっとつまんで、さっと離した。

 その手の冷たさに、思わず怯んだ。

「あっとごめんごめん。えーと、これ持ってたから」

 氷がたくさん入ったサイダーが、容器の中で泡を立てている。

「これ、おいしいよね。色付きだと毒があるか気になっちゃうから透明の飲み物だと安心して飲めるんだよね」

 人懐っこい笑みを浮かべながら、サイダーを飲み干す。

 毒......。

 なんだその発想は。

「管理されてるとこだと、飲み物なんて水くらいしか飲めなかったからね。」

「どこの出身なんだ?」

「厳国」

 よく考えれば、この少年が厳国人である事は見てとれる。

 ........ということは。

 警戒するべきじゃないのか?

 そうだ、よく考えてみれば厳国人を訝しむのは自然の筈だ。

 俺は渋い顔をして考え込んだ。

 ついでに視線には威嚇の意も込めている。

「どうしたの?」

 俺の威嚇は、まったく効いていない様子。俺の恐さを教えてやるべきかもしれないな。

「お前が厳国のスパイではないという証拠は?」

「あちゃー、とことん疑ってるねぇ。まぁ仕方がないっちゃ仕方ないね」

 厳国が少年を送りつけるのは無いと思うが。

 と、リンの顔が真剣になる。他人に聞こえないように、顔を近づけてくる。

「ワルキューレって、知ってる、よね?」

「ああ」

 ワルキューレとは、俺が小さかった頃に起こった少数派革命。この世界でかつて希望を託された存在だ。この世代の子供はよくワルキューレの話を聞かされていたものだ。知らない人はいない筈。

 だが、そのリーダーを始めとして全員が名前や年齢が不詳。謎めいた彼らを、子供達はヒーローのように憧れている。

 俺も興味はあって、彼らの事が記載された本を持っている。だが厳国監修なので敵のように扱っていたが。

「実は僕はワルキューレのメンバーの末裔なんだ」

 な、なんだってー!!

「そんなアホな!」

 ええと、うん。

 嘘だろ。

 俺は口をあんぐりさせた。

「嘘じゃないよ!真実だって!」

「ならば証拠でもあるのか?」

「逆に聞くけど、僕の姓、『ベネツィア』って名前しらないの?」

 ベネツィア.....。

 聞いた事がある。ワルキューレの幹部の一人のコードネーム。思考が停止しかかってるが、その名前は記憶に刻み込まれている。知ってる。

「本物なのか...?」

「本物だよ」

 .........。

「マジか!!?」

「マジだけど声がでかいよ」

「お......おう」

 やばい、興奮してきた。

 唇の両端が思わず上がってしまう。

「で、俺を探していた理由とは?」

「そうそう、それのことだけど、今はものを渡すだけでいい渡すだけでいいとかなんとか」

 ずいぶん曖昧だな、しかも誰かに指令されたのか。

「あー、ちょっとここじゃマズいかな?人目につかないところに案内して欲しいんだけど、いい?」

「ああ、オーケイ、ノープログレム!」

 なんで英語なのかは、それは自分でも分からない。

 とにかく興奮している。

 落ち着け俺。


3

 俺の基地に少年を迎え入れる。

 人目につかなくて安全な場所といえば、ここしかなかった。

 遠流はいない。きっとゲームの処分に必死なのか、えらい散らかりようだった。

 あのゲームとかは自宅にでも持っていったのか、見たくなかったパッケージ群は消えていた。

 リンは室内を見回している。

「へぇ、一人暮らしなのにこんなに家具あるんだ」

「そのへんから拾ったものばかりだ」

 捨ててあるものはまんべんなく拾っていく。資金難は、常時直面している問題だからな。

「じゃあ、その辺に腰掛けてくれ。」

 その辺のソファを指さす。これも勿論拾い物、葵のお気に入りだったな。

「で、俺に伝えたい事とは?」

 怪訝な表情で俺は問いかけた。

 リンはバックをごそごそと探り、石を取り出す。野球ボールの様な大きさの石、それは青い輝きを放っている。真珠のように綺麗な水晶だった。

「これを君に届けにきたんだ。」

「何だこれは?」

「詳しくは知らないけど、君が持っててほしい」

 リンはその石を差し出してくる、俺はその石を受け取った。石は俺の手の中で淡い光を放っている。

「詳しく知らない、とは?」

「うーん、僕は渡してって父さんに頼まれただけで本当に知らないんだ」

「そ、そうか」

 なにやら寂しそうな表情になったので、追求はやめておこう。

「でね、ワルキューレは君に望んでいる事があるんだ」

「望んでいる?」

「そう、君に成して欲しいのは........」

 リンの言葉に、俺は呆然としてしまった。

 まさかだ、そのまさかだと思っていた。

 有り得ない、なぜ俺なんだ。

 俺の興奮は、一気に醒めていった。



「革命だよ」




 

 


4

 かくーめい【革命】

1.被支配階級が時の支配階級を倒して政治権力を握り、政治・経済・社会体制を根本的に変革すること。

2.物事が急激に発展すること。

 かくめいーじ【革命児】

1.革命を起こす人。革命の指導者

2.革命をもたらすような新しい仕事や事業を成し遂げる人。


 七時頃。

 眠っていると不意に、ソファの角に頭がぶつかった。

「あだっ!」

 アレから一日。リンからああ言われたあと俺は落ち着いて帰ってくれと頼んだ。今度また来るねと言い残し街の何処かに消えていった。


 革命なんて、ありえない。

 厳国に逆らう事は、死を意味する。

 史上最強の抵抗組織ワルキューレですらあっさりとやられてしまったのだ。

 いくらワルキューレの頼みでも、俺は了承しない。そこにはしっかりとした理由があったのだ。

 

 ワルキューレに関わったものは、全員殺される。


 関わった人が殺されているのを俺はこの目で見たのだ。

 そうだ、子孫であるリンに関わる事も、レッドゾーンではないのか?

 もうあいつとは関わり合いになりたくない。

 そんな思いでいっぱいだった。

 

 

 ───とりあえず考えるのはやめよう───

 今ここで結論を出せるとは思えない、この先の人生を棒に振る様な事はしたくない。

 俺はのろのろと頭を抱えながら冷蔵庫に向かった。

 冷蔵庫から飲み物を取り出し飲み干す。

 ひんやりとした水が喉を通り過ぎていった。

 朝食の準備でもしないとな、と準備しはじめていると、来客の証である音が部屋中に響く。

 ピンポーン

「宙ー、いますかー?」

 耳慣れた少女の声、俺は何の答えもなく、扉を開く。

 そこにいたのは紙袋を引っさげた同い年の幼馴染みの姿があった。

 茶色の瞳に、細めの身体。髪型はいつものポニーテイル....であってるな。詳しくないからよくわからんがそのはずだ。

「葵か」

「はい、ご飯もってきたよ」

「おお!ラーメン缶!」

「いいぞ葵!分かってるなお前は」

 さっそく缶のフタを開いて、ラーメンぐいっ、と口に入れた瞬間。

 くっくっく、と葵の笑みが聞こえた──────


 ───気がした

「アツァっ!!?熱!!!」

 熱湯だった。缶を触ったときはいいかんじの温かさだと思ったが。

 最近の缶は熱を遮断する性質があったのを忘れていた。

「あはは!」

 心配する様子など無く、いたずらっぱく笑う葵。

 許さん。

 最先端技術と葵を許さん。

「あがが.....こ、ころすきか...」

「まぁ、きをつけなよー」

 火傷が収まってから、ラーメンを食いながら葵を見る。

「それで、例のアレは?」

「は?」

「アレはアレだ」

「いやいやそんな事言われても意味分かんないし」

「冷房の修理」

「ああ、それね『例のアレ』とか言われてもわかんないからやめてよね」

 ちょっとカッコイイセリフに憧れてときがあった、その名残なんだろう。

 俗に言う中二病というやつだ、忘れたい。

「あんたあのとき黒い手袋とか集めてたからね、あれなんだったの?」

 

 俺は華麗に無視した。


 ラーメンを食べ終わり、片付けているとあの水晶が俺の視界に入る。そしてTVにはこんな事が報道されていた。

『極東部に視察を開始するとの動きを始める、と厳国が宣言しました』

 その報道を見た時、俺は固まった。

 定期的にやってくる厳国、いつもは物資を届けにやってくる。あまり大事ではないがこのタイミングの良さ。

 まさか....。

 

「顔色悪いけど、どうしたの?」

 その問いに、俺はゾワリとする。ワルキューレといろんな事が鮮明に蘇る。

 大好きだった人が処刑される光景。

 そして俺に託された使命と、部屋の隅で光る石。

「なんでも、ない....」

 抵抗したら、殺される。『リンに関わった時点で俺はもうレットゾーンかもしれない。』

 ということは、葵も.....。

  

 ピンポーン


 !!

 その音に、俺は心臓を握られたような緊張感を覚えた。

 だ、だれだというのだ!?

 まさか!

 扉の先には黒服がいて、俺達を検挙しに来たのかもしれない

 そんな想像をしてしまって、硬直する。

 ここは地下だ。逃げる為の窓は、無い。

「お客さんね、はーい」

 葵が扉に向かって歩き出す。

 やめろ

 行くな

 言おうとしたが、声がでなかった。

 ドアががちゃりと開く。

 恐怖と極度の緊張が俺の思考と動きを止めた。

後悔はしていません


次話はGW中に仕上げます

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