Last
十六夜の夜、理子の感情が弾けた。
「もう、どうにも止まらない。子供のように貪欲に、あの人を求めてしまう。」
そう思いながら、靴をはいた。
「こんなにも愚かな私をあの人は、受け入れてくれるだろう。」
確かな確信を、胸に抱いて、部屋を出た。
理子には、自分が何をしているのか、わからなくなっていた。
本能と感覚の中で、行動をしていたからだ。
団地の階段を降りる…ヒールとコンクリートがぶつかり、音が鳴り響いていた。
駐車場に向かう途中で、近所の人が挨拶をしているようだが、それも理子の頭には聞こえていなかった。
車に乗り込み、無意識にハンドルをきる…。
車のラジオもステレオもついていない。
しかし、理子の頭の中には、理子と最愛の浅岡との思い出のシャンソンがながれていた。
激しく
「愛」を歌った歌が、理子は、自分の気持ちとシンクロさせていた。
「あの人と生きて生きたい。」
何もかも捨てて、不倫相手の浅岡と、人生を賭けて歩きたいと願っていた。
そう強く願えば願う程、感情が高ぶり、目から、涙が止まらなかった。
こんな風に、感情をださなくなっていたので、自分でも戸惑っていた。
「あの人に、早く逢いたい。」
理子の車のスピードが、気持ちと共に加速され…
…そして…
理子が、目の前のトラックに気付いた時には、もう遅く、次の瞬間、やけに光りが眩しかった。
薄れていく意識の中で、ゆっくりと走馬灯が流れ、理子は自分に終わりが来ている事を知った。
人の声がうっすら聞こえ、救急車のサイレンも近づいているよう。
頭からは、生温かいものを感じ…大量に出血しているのがわかった。
死を悟った理子は、
「あの人を愛せてよかった。」
そう思い、静かに瞳を閉じた。