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第9話 襲撃

 ごくり、と僕は唾を飲み込んだ。

 

 気炎万丈から追放されてフリーの身になり、これからどうしようと不安に思っていた。それがまさか、選りすぐりの冒険者集団である聖帝騎士団からスカウトされることになるなんて。

 どうしよう。本当に僕が騎士団に入っていいんだろうか? SSランク冒険者に匹敵する、と言われてもいまいちピンとこないし……


(ねえ、どうすればいいと思う?)


《リューオ様が決めるべきことです》


 ですよねぇ……。うーん、どうしよう……。

 

 悩んでいると、ミラエルと視線が合った。ミラエルは拳をきゅっと握り締め、何やら不安げに僕を見つめている。

 ミラエルはどう思ってるんだろう。僕が騎士団に入ったら、ミラエルは喜んでくれるのだろうか? 聞いてみる? いっそ聞いちゃおうか? ええい、聞いちゃえ。


「ミラエル」


「な、何だ?」


 まさかこのタイミングで話しかけられると思わなかったのか、ミラエルはやや驚いている様子だ。


「僕は、さっきも言いましたけど、ミラエルに認めてもらえたことが嬉しかったんです。1週間前の僕は、元いたパーティーから追放された直後で、途方に暮れているところでした。そんな中、ダンジョンで、追放したりなんかしない、仲間であり友達だから、と認めてくれたのが本当に嬉しくて。僕を認めてくれたミラエルには本当に感謝してます。だから、僕が騎士団に入ることをミラエルが望むなら、入ります」


「……!」


 ミラエルは小さく息を呑んだ。きらん、とその大きな瞳が輝いたようにも見える。


「……わ、私こそ、友達になろうと言ってもらえて、すごく嬉しかった。私はリューオに、この騎士団に入ってほしいと強く思ってる。友達と一緒にいられるのは、嬉しいに決まってるからな」


 ミラエルはたどたどしく言うと、くるっと後ろを向いてしまった。何だ? あと、なんだか顔が赤かったのはどうしてだろう。


「若さとは実に素晴らしいものだ」


 様子を見守るレインは何やら楽しげな様子だ。


「リューオ殿、では正式に聖帝騎士団に入団していただけるということでよろしいかな?」


「はい、僕がどれだけ役に立てるか分かりませんが」


「いえいえそんな。それでは、入団に伴う諸々の手続きを……」


「失礼しますっ!!」


 その時、ものすごい勢いでドアが開け放たれ、1人の女性が部屋の中に入ってきた。青い紋章が刻まれた鎧を纏っている、赤い髪の女性だ。よほど急いでここに来たのか、少し息が上がっている。


「ノックもせずにすみません! つい先程連絡が入り、ダンジョンの11階層を視察していたハスブルク王家のネミア・ハスブルクと、その護衛の兵士及び冒険者がフェアード教団から襲撃を受けたのことです! 襲撃者は確認されている限り5人、死亡者多数、そして教団は……『神級スキルを持つリューオ・アルブレードをここに連れてこい。さもなくば人質のネミア王女を殺す』と主張しています! ミラエル様の指示を仰ぎに参りました!」


「「「……!」」」


 赤髪の女性から告げられた、予想だにしない事態に僕たち3人は一瞬言葉を失った。しかし、騎士団団長であるミラエルの行動は早かった。


「分かった。早急に手を打つ。君はまず、この情報を速やかに各所に共有し、その後襲撃者側からの追加の情報や要求が無いかを再度確認してくれ」


「承知しました!」


 先程まで赤面していたミラエルはどこへやら、騎士団の団長として冷静に指示を出す姿は圧巻だった。赤髪の女性は敬礼し、どたどたと部屋から立ち去っていった。


「……参ったな。まさかこのタイミングで、教団がこんなにも分かりやすく動いてくるとは」


 ミラエルは腕を組み、苦々しい表情を浮かべている。


「僕の情報は外部には伝わってないんですよね? じゃあどうして、教団は僕の神級スキルのことを知ってるんでしょうか?」


「ううむ……騎士団内部の人間が情報を漏らしてないと仮定した場合、1週間前にリューオ殿が武器を錬成した時の様子を、教団の人間が目撃していたということになるかと」


 レインは重々しい口調で言う。


(ねえ、1週間前のあの場所に、僕たち3人以外の誰かがいたかどうかって分かる?)


《いえ。私に索敵能力は無いので》


 そっけなく返されるが、まあこれは想定内だ。それよりも……これ、けっこうまずい状況なんじゃないか?


 ハスブルク王家は、この周辺の地域で名を馳せる有力な王家だ。築き上げた財を独占することなく、むしろ平和と秩序維持を目的として財の提供を随所に行っており、それらの善行故に王家の評判は極めて高い。

 そして、冒険者ギルドも王家から多大な援助を受けている、と聞いたことがある。加えて、この事件にすぐに対応出来そうなのは精鋭の聖帝騎士団。つまり冒険者だ。この事件を上手く治めれば冒険者の株は上がる一方、失敗すれば恐らく冒険者の株が下がる。王家がギルドにマイナスな印象を抱いてしまい、最悪ギルドは王家からの援助を受けられなくなってしまうかもしれない。それは恐らくギルドにとってかなりの痛手であり、冒険者にとっても痛手だ。


 なんて思っていると、案の定、次にレインが話したのは僕が考えたこととほぼ同じ内容だった。今後のことを考えても、何としてでも王女を救出し、事件を上手く治めたい、とのこと。それなら……僕が動かなきゃ。


「取り敢えず、襲撃者側が僕の連行を要求している以上、僕が11階層に行かないと何も始まらないですよね。行きますよ」


「リューオ、いいのか? 目が覚めたのはついさっきだろう? 動けるのか? それに、敵が待ち構えているところにこちらから飛び込む形になる。かなり危険だ」


 優しさからか、ミラエルはそう言ってくれたが、僕の答えは決まっていた。


「大丈夫です。それに、もう僕は聖帝騎士団の一員ですから」


 

 その後、襲撃者からの追加のメッセージを踏まえて緊急会議が行われた後、正式に『ネミア王女救出作戦』が発令された。事件の一報が入ってから作戦の発令まで、30分弱というスピーディーさだった。

 襲撃者は、僕に加えて、何故か3名までの冒険者の同行を許可しているようだ。その真意については騎士団の上層部も首を傾げていたが、許可されている以上最強の布陣を組んで乗り込むに越したことはない。


 王女の救出を最優先に考えた結果、とにかくすぐに出撃出来る且つ、その中でも強力な3人の冒険者が選出された。同行するのは、序列2位のミラエル・ソードフレア、序列47位のノルド・ラローア、そして序列13位のレイン・フルビラージュだ。レインが序列13位だったこと、そして騎士団の団長と副団長が揃い踏みすることに僕は驚きを隠せなかったが、これが最善だというならそれに従う他ない。

 既にハスブルク王家からは、ギルドを通じて騎士団に救助要請が出されており、『何としてでもネミアを助けてくれ、頼む、幾らでも報酬は出すから、頼む』と泣きつかれているようだ。


 僕は出撃の準備を整え、騎士団本部の入り口の前で待機していた。騎士団の職員からは、ミラエルやラルドが纏っているような鎧を装備することを勧められたが、慣れない装備のせいで動きが鈍るのを避けるべく丁重に断った。

 

 これから僕は、襲撃者の懐に飛び込む。不思議と恐怖は感じない。よく考えれば、今まで冒険者として何度も死線をくぐり抜けてきたわけだし、今までとやることは変わらない。僕は僕に出来ることをやるだけだ。


「リューオ、1週間ぶりだな」


 声をかけられ振り向くと、出撃の準備を整えたラルドとレインが佇んでいた。ラルドは1週間前と同じ鎧を、そしてレインは先程と同じ黒いローブを纏っている。


「お久しぶりです」


「おう。悪いな、復活して早々、こんな事態に巻き込んじまって」


「向こうが僕の連行を要求している以上、行かないわけにはいかないので」


「そうか、リューオは強いな。……色々迷惑をかけたこと、本当に申し訳なく思ってる。すまない」


 ラルドの顔があからさまに曇る。


「今更謝罪なんていりませんよ。というか、諸々の件は不問にすることで手を打ってるので」


「……そうか、ありがとう。ならもうこの話はおしまいだ。そうだ、この騎士団に入ってくれるらしいな。助かるよ。人手不足だし、なによりミラエル様にとってはそれが最善だからな」


 ラルドはしみじみと言い、僕の頭に手を置いて髪をぐしゃぐしゃと撫でた。


「ちょ、やめてくださいよ……って、ミラエルにとって最善ってどういうことですか?」


「ああ、それは……これは話していいのか? レインさん、どう思います?」


「問題なかろう。ミラエル様は恥ずかしがるかもしれんが、リューオ殿は知っておくべきことだ」


「分かりました。いいかリューオ、ミラエル様はな、幼い頃に両親を亡くしているんだよ」


「え……」


 予想外の情報に、僕は言葉を失う。


「流行り病によって、な。さらに、ミラエル様は生まれながらにあれだけの美しさと、強力なスキルを授かってる。そのせいで他人から嫉妬されたり、距離を置かれたりすることがとても多かったんだ。そしてミラエル様は18歳の若さで聖帝騎士団の団長を務めている。その負担や苦しみ、心の痛みは、俺たちには計り知れないものだ」


「なるほど……え、え!? 18歳!?」


 驚きのあまり僕は目を丸くした。若そうだとは思っていたが、まさかミラエルが僕より1歳年下だったなんて。


「ああ。そしてそんなミラエル様に、リューオは『友達になって欲しい』と真っ直ぐに気持ちを伝えた。それが本当に嬉しかった、とミラエル様は言っていたぞ。そんなことを言ってくれる人は今まで誰もいなかったから、ってな。今のリューオは、ミラエル様にとって他の人とは違う、特別な存在になってるってことなんだよ」


「僕が、特別な存在……」

 

「私がどうかしたのか?」


 突然背後からミラエルの声がして、僕を含む男3人は飛び上がって驚いた。


「ああ、いや、何でもないですよ。なあ、リューオ」


 ノルドはそう言いつつ、僕にアイコンタクトをしてきた。なんとか誤魔化せ、という目だ。了解です。


「あ、はい、何でもないです……」


「怪しいな」


「本当に何でもないですって……!」


 怪しむミラエルの追及をなんとかかわし、準備を終えた僕たち4人は王女救出作戦を遂行すべく出発した。11階層に行くためには、まずは冒険者ギルドに向かう必要がある。

 そして、あと少しでギルドに到着するというその時、予期せぬ邂逅が起こった。


「あ! リューオじゃん!」


 聞き慣れた声。そして、もう2度と聞きたくなった声が響く。思わず顔を歪める僕の前で、元パーティーメンバーのミリネが驚愕の表情を浮かべていた。


※第10話は2026年4月13日8時50分に投稿します。お楽しみに

【祝】ポケモンチャンピオンズでマスターボール級に到達しました(シングルバトル)! ばんざーい! まりほー! いやー素晴らしい! 特に昇格がかかった試合が楽しくて、なんとカビゴンが2体のポケモンを倒してくれました! カビゴン偉い! この調子で戦い続けます! ポケモン、ゲットだぜ!

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