第十五話(番外編②・最終話):首輪と手錠の結婚式
王都の誇る大聖堂は、荘厳な讃美歌と、降り注ぐステンドグラスの光に満ちていた。
国を挙げての盛大なロイヤルウェディング。純白のウェディングドレスに身を包んだベアトリスが祭壇へと進み出ると、そこには同じく純白の礼服を纏った王太子フェリクスが、とろけるような黄金の瞳で彼女を待ち受けていた。
「……綺麗だよ、僕の神様」
フェリクスがベアトリスの手を取る。
しかし、その美しく神聖な二人の姿に、司祭や最前列の貴族たちは内心で冷や汗を流していた。
なぜなら、次期国王たるフェリクスの首元には、豪奢な礼服には全く似つかわしくない『アイスブルーのチョーカー(首輪)』が堂々と嵌められており、対するベアトリスの左手首にも、脈打つ場所を塞ぐように『イエローダイヤモンドのブレスレット(手錠)』がギラギラと輝いていたからだ。
(……王太子の首輪など、前代未聞だ……っ!)
しかし、高位Domであるアレクセイら義兄夫婦が背後から凄まじい眼力で睨みを利かせているため、誰一人としてその「異装」に異議を唱えることはできない。
「病める時も、健やかなる時も、互いを愛し、敬い……」
司祭の言葉など、もはや二人の耳には入っていなかった。
フェリクスはベアトリスの左手首――イエローダイヤモンドが光る場所に、恭しく、そしてねっとりとした独占欲を込めて口付けを落とす。
「……君の心臓が止まるその時まで、君は僕だけのものだ。他の誰にも奪わせない」
「ええ。貴方の魂は、わたくしの首輪が永遠に縛ってさしあげますわ。……愛しています、フェリクス」
誓いの言葉。
ベアトリスが微笑むと、フェリクスは待ちきれないとばかりに彼女の腰を引き寄せ、何千という視線が見守る中で、深く、甘く、相手を喰らい尽くすような誓いのキスを交わした。
大聖堂が、割れんばかりの祝福の歓声に包まれる。
最強のDomと、最凶のSubによる、建国史上最も「重い」誓いが結ばれた瞬間だった。
◇◇◇
「……あー、もう! 限界!!」
その日の夜。
王太子の私室である豪奢な寝室に二人きりになった瞬間、フェリクスはバサリとマントを脱ぎ捨て、ベアトリスにのしかかるように抱きついた。
「フェリクス? まだ少しお酒が……」
「充電切れ! 今日は一日中、僕のベアを大勢の連中に見せびらかさなきゃいけなくて、気が狂いそうだったんだから! ベア、撫でて! 早く!」
さっきまでの威風堂々たる王太子の面影はどこへやら。
完全に「飼い主に甘える大型犬」と化したフェリクスは、ベアトリスの肩口に顔を埋め、すりすりと鼻先を押し付けてくる。
「ふふ、よく我慢できましたわね。偉い子ですわ」
ベアトリスが彼の漆黒の髪を優しく撫でると、フェリクスは喉の奥でゴロゴロと満足げな音を鳴らした。
「……ねえ、ベア」
不意に、彼が顔を上げる。
黄金の瞳は、昼間の甘えた犬のものから、暗闇で獲物を狙うそれにすり替わっていた。
「外の連中には、君の美しいドレス姿をたっぷり見せてあげたから。……ここから先は、僕だけの時間だよね?」
フェリクスの長い指が、ベアトリスのドレスの編み上げをするりと解いていく。
首元のアイスブルーのチョーカーが、寝室の仄暗い灯りを受けて妖しく光った。
「ええ。わたくしのすべてで、貴方を満たしてあげますわ」
「……ああ。愛してる、僕だけの御主人様」
甘い吐息と共に、寝室の灯りがふっと落とされる。
首輪と手錠で永遠に結ばれた二人の夜は、この先もずっと、誰にも邪魔されることなく甘く深く続いていくのだった。
―― 完 ――
本作を最後まで見守ってくださり、本当にありがとうございました!
DOM/SUBを題材にしたこの物語が幕を閉じます。
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