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第一話:可愛げのない令嬢と無能な王子

※本作はDom/Subユニバース設定を含みます。

【基本設定】

Domドム: 支配したい・守りたいという本能を持つ「第二の性」。特定の相手(Sub)に対し、声による「コマンド(命令)」を使って精神を安定させたり、行動を制御したりできる。


Subサブ: 支配されたい・守られたいという本能を持つ。信頼できるDomからのコマンドを受けると、至上の安らぎと快楽を得る。パートナーがいないと精神的に不安定(Subドロップ)になりやすい。


・コマンド: DomがSubに対して発する「絶対命令」。相性が良いほど強制力と快楽が増す。

 外は闇のとばりり、月と星のみが静かに夜を照らすとき


 王宮は煌々と明かりで照らされ、不夜城のごとき広間では、盛大な舞踏会が催されている。

 そこに王と王妃の姿はなく、主催者である王太子が壇上で偉そうにふんぞり返っていた。


「ベアトリス・フォン・ローゼンバーグ公爵令嬢!」金髪碧眼、目つきが傲慢でどこか軽薄なジェラール王太子が高笑いとともに言い放つ。


「お前のような可愛げのない石女うまずめは、俺と釣り合わん! 婚約破棄だ!!」


 彼の指差す先には一人の公爵令嬢が立っていた。会場内にいる貴族たちが一斉に彼女を見た。

 プラチナブロンドをきっちりと結い上げたベアトリスは、知的なアイスブルーの瞳で壇上のジェラールを見上げる。

 そして、小さくため息を付いて、一歩前に出た。


「……謹んでお受けいたします」


「ふん。そうだ! あの能無しの放蕩弟がお似合いだ! フェリクスに熨斗のしをつけてくれてやる!」


「どうぞ、王太子殿下のご命令のままにいたしましょう」


 泣き言を言うどころか、一切の動揺も見せず、完璧なカーテシーで承諾の意を表す。


 周囲の貴族はヒソヒソ言葉をかわす。「王太子のいつもの横暴か」と呆れ顔だった。


 ベアトリスはこれ以上「元」婚約者の顔を見る必要を感じず、踵を返し舞踏会会場をあとにする。


 言葉に出さずとも、彼女の行く先を遮る者はいなかった。皆、そそくさと道を開ける。


(まあ、当然のことね)


 王太子に婚約破棄された令嬢など誰が近づきたいと思うだろう?


 ベアトリスは足早に広間を横切るのだった。


 ◇◇◇


「ま、待って、ベア! このまま、帰る気なの!?」 


 王宮の長い廊下で後ろから追いかけてきた声に振り返る。


 ベアトリスの数少ない友人、その中でも自ら親友と豪語するシャルロット・フォン・バーデン侯爵令嬢が追いかけてきた。


「あら、ロッティ。侯爵家令嬢たるもの、ドレス姿で走ってはいけないわよ」


 はぁはぁはぁ。


 いさめるベアトリスを恨めしそうにシャルロットは見上げた。


「貴女の歩くスピードが早いせいよ! って、そうじゃなくて! あのバカ王太子の無茶振り、受け入れちゃうつもり?」


「ええ、そうよ」


「ええっ! だって、貴女達の婚約、国王陛下がお決めになったことなのに」


 ジェラールとベアトリス、二人の婚約は王家と公爵家の間で取り決められた政略結婚だった。

 それを王太子本人と言えど、勝手に破棄できるものではないはず、だった。


「まあ、そうねぇ。あの方にしては珍しく『代案』を提示なさったから、いいんじゃない」


「もう、一生に一度のことなのに、そんな簡単に言っちゃって」


「わたくしの結婚相手が王太子から第二王子に変わっただけだもの。別に構わないわ」


「いやいやいや、ぜんぜん違うでしょ! 相手はあの『放蕩王子』フェリクス殿下よ!?」


 シャルロットが青ざめた顔でベアトリスの腕を掴む。


「いい? 噂じゃ毎晩違う女性を寝室に連れ込んでるって話だし、Subとしてのフェロモンが強すぎて、並の令嬢じゃ近づいただけで腰が抜けるって……そんな『歩く年齢制限小説』みたいな獣のところに嫁ぐなんて、正気!?」


 その必死の剣幕に、ベアトリスは少しだけ自らの記憶をたどる。


「放蕩王子」の二つ名を持つ第二王子フェリクス・アークライト。

 身分の低い実母から受け継いだ漆黒の髪、王家の血筋のあかしたる黄金のをもつ美男子。


 ……女癖の悪いという噂は知っていたけれど、『Sub』だという情報は知らなかった。


(私の情報網もまだまだね。「社交界の情報通ゴシップクイーン」の名は伊達じゃないわ)


「貴女のような清らかな花が、あんな獣の檻に入れられるなんて。高嶺の花すぎて誰も理解できないのよ……終わったわ!」


 ベアトリスが脳内で情報を認証している間に、シャルロットはしくしく泣き始めてしまった。


「ああ、もどかしい! ベアのその『鉄壁の無表情』のせいで、みんな『冷徹な能面令嬢』なんて呼ぶのよ。本当は誰よりも情け深くて、Domとしての技量も国一番なのに……。どうして誰も気づかないのかしら!」


 ベアトリスの周囲から「冷たい」と評価されているが、親友シャルロットにはそれが誤解であり、実はとんでもない「優良物件」であることを知っていた。


「……うふふ。情報感謝するわ、ロッティ」


「え? 何でそんな余裕なの? 私から、お父様に頼んで、この婚約は……」


「いいえ。『実地検証』が必要ね」


「はい?」


 ベアトリスは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。


(まだ、それほど遅い時刻ではないわね)


「わたくしの新しい婚約者の状態スペックも確認せずに契約はできないもの。――今からフェリクス殿下の部屋に行ってくるわ」


「はあぁぁ!? 今から!? もう、夜なのよ!?」


「善は急げ、よ。ロッティ、それではごきげんよう」


 真っ青になるシャルロットをその場に残し、ベアトリスは足取りも軽やかに、舞踏会にいなかった第二王子の私室に向かうのだった。


「ちょっとベアトリスーーッ!!」


 その場に残されたシャルロットの叫びが静かな廊下にこだまするのだった――。

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