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【短編小説】小鳥の首チェリー

掲載日:2025/12/19

 夏の雨が降っている。

 しかしそれは秋を告げる雨ではなく、夏を諦めさせる雨だった。

 バイクを停めた駐輪場に咲いている巨大な木は既に疲弊して葉を落とす素振りを見せていた。

「疲れたかい」

 疲れたさ、だが休むことはまだ許されない。朝い眠りを繰り返すだけだ。

「お前は桜の樹なんだってな」

 花がなけりゃ何の樹かも分からない。おれたちは目あきの癖に何も見ちゃいない。



 ふと車輪の下を見ると、毛の生えた蟹の爪が落ちている。

「蟹?」

 良くみると、それは千切れた小鳥の首だった。アスファルトに小鳥の首だけが転がっている。近くに小鳥の身体は無い。

 果たして俺が轢いたのか、それとも他のバイクが轢いたのか。または早贄か、落とし物か。

「お前も疲れていたんだな」

 首だけになった小鳥は目を閉じていた。

 小鳥にも瞼はあるのだなと思った。



「腹は減ってるか」

 小鳥の首が声をかける。

「いや、別に。喰えるけど」

 おれたちは空腹を感じなくなって久しい。

 空腹感、それは空腹じゃない。

 胃の中で消化が進んで胃袋に空きスペースが発生した事を言う。その隙間を埋める為に食うし、食う為に働く。

 その先?

 死ぬように眠るだけさ。

 おれたちはそうやって常に胃袋を満タンにし続ける、つまり充電器につなぎっぱなしのタブレットみたいなもんだ。

 布団の中で眠りつづけて死ぬのにも似たものがある。そうやって死んだ事はないから本当のところはわからない。



 俺はチャックを下ろして俺自身を出す。それは仮面ではない。

 ションベンと煙が吐き出される。

 桜の樹だとか小鳥の頭だとかに何を見出すか、それは都会で生まれ育った人間のコンプレックスでしかない。

 良くある話だ。

 田舎では人間の生首が落ちてるんだぜ。そいつと話せるなら人生は上がりだ。その時に飛び出すセリフが「新宿区新宿字恐山」ってやつだ。



 土着性の無さ、東京と言う街に存在する事に依る背骨の細さではアンダーグラウンドに宿りつく事が出来ない。

「東京に地下鉄が多いのはその所為か?」

 生首が訊く。

「それを掘っているのが土着性の高い人間たちと言う点も含めてそう言えるだろうな」

 結局のところ、おれたちはそうやって掘られたトンネルやファルスとしての巨大なビルヂングに囲まれた日当たりの悪い路地で手足を広げながら育っていく植物みたいなものなのだから、根が張らないのも仕方がない。



 おれたちは東京と言う土着性すら得られずに死ぬ。

 外は雨が降っている。

 夏の雨が降っている。夏を諦めさせる雨だ。おれはこの街でひとりぼっちだった。ひとりじゃない奴なんて存在しない街だからだ。



「何か食うか」

 生首が訊く。

「あぁ、食えるよ」

 食えるさ、食いたい訳じゃない。

 おれたちはそうやって網膜に文字を通しながら脳味噌に0と1の電気信号を送って成長していく。


 駐車場の傍を歩いて行くスクールデイズ達は笑うことでしか孤独を誤魔化せない。発育不良の豆もやしが羽目外して失敗していくのを見ている。分裂気味のエンドウ豆たちが一斉に喋り出す。

 これもどこかで見た0と1だ。

「食えるか」

 生首が訊く。

「もう食ってるよ、まだ食えるけど」

 桜ってどんな花だったっけ?そう訊くと小鳥の首が瞬きをした気がする。

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