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【本編】第一話(1)希望

【最終注意喚起】

BLです。

 ──家に着くと配信をするアイツが居る。そして俺は居候。勝手に風呂に入り、気分が良いので鼻歌が無意識に出てしまう。


「みんなー...ちょーっとだけ待っててね?」


『なんか声聞こえる?』

『家族かな?』

『おっけーです!』


──────。



「十咲さん、声入ってる。今配信中なんだけどー」


 いつもスマホの中で聞く声がドア越しに聞こえる。体が熱く、思うように動かない。住み着いている身なので上には立てていないけど、口が勝手に動いてしまう。


「年上をうやまえよぉー、シュウくー...」


 ぶくぶくぶくぶく、全身が熱く、酒がいよいよまわってきたらしい。意識が遠のきそうだ。


「ちょ、十咲さん!」


 勢いよくドアが開く音を耳にして俺の意識は途絶えた。



「....ーん。..........さーん。」


 いつも聞く、聞きなれた声が耳に届く。配信者である『SYU』。視聴者からは神として扱われ、俺を「おじさん」として扱う罪な男だ。


「....あ、シュウくんじゃん」


「...あ、ってなに?十咲さんが勝手に家来て風呂で溺れてたんでしょー」


 お陰で配信も途中で切ったと言ったシュウくんはいつもより余裕がなさそう。今なら勝てるかも。

 意識が遠のく前までの酔いはもうすっかりと言っていいほど無くなっていた。俺はあのふわふわした感覚好きなんだけどなー。


「あ、そうそう。俺よくできる男だからさ、シュウくんのためにお酒買ってきてたんだよね。」


 呆れ顔、哀れな目、そして頭を抱えている。それはまるで「なにやってんの?」と諭されたみたいに。


「いや、今日呑んでたのはお店!上下関係があるところで呑むより、シュウくんのお家でのんびり呑む方が俺は好きなの!」


「へぇ、俺の方が好きなんだ?」


 ゼロ距離で肩に顔を埋めるシュウくん。こうなるとねちっこくて、いつもよりガキで、調子が狂う。


「....あー...。」


「ふふ...あははっ...。十咲さん耳まで真っ赤じゃん。そんなに意識したの?」


「酔ってるからですケドー....」


「そういう所も気に入ってるよ、十咲さん。」


 若いやつは怖いよ、ほんとに。


「どうもー...うれしくないけどね?」


「そんなに照れなくてもー♩ほら、早く寝なよー?」


「え。」



「あれ、いいんですかぁ?助かりますぅ...」


 泊まれってことだよね!?自分から言ったんだもんね!俺からじゃないもんね!まぁ、か弱い成人男性をこんな真夜中に放り投げるなんてこと、できるはずないですもんね!


「....やっぱ泊めなーい。十咲さんは野宿でもしといてくださーい。」


 拗ねたように勢いよく後ろをむくシュウくんは、いつにも増して増して俺よりガキだった。


「シュウくん、たまにはかわいいとこもあるんだねぇ。っていうかシュウくん、今日そんなに呑むつもりなの?」


 手には俺があげた酒が添えられていた。

 そしてその日は、34回目のお泊まりをさせて頂く予定。



 起きるとまた会社に行く準備をしなければいけない。シュウくんみたいにずっっと家にいれるならいたいけど、お金も必要なので仕事に行く。俺、偉すぎない?


「シュウくんは....、寝てると」


 相も変わらず朝が弱いというか、ほぼ朝に寝てるというか。寝る時間が早くて真夜中2時、遅くて朝の6時。俺が起きるのでさえ6時なのに。俺だってもっと寝たいのにね。

 それでも前より全然マシ。前にいたブラック企業は7時会社着の夜1時まで。それに比べれば今は幸せのひと時だった。


「今日の昼はカレーかなぁ...」


 会社に行く途中では朝なのにも関わらず昼ごはんを食べている妄想をして何とか過ごしている。

 会社につけばあとは簡単、仕事のみ!今日はさすがに....帰ろうかな...。泊まり続けるのはちっと気を使うしね。

 仕事中もこんなことを考えており、気を紛らわせるのに最適だった。


「十咲。」


「はい!なんですか?」


 この会社ちょっと特殊で、営業部と企画部が同室で仕事をしてるんだよね。それくらい人が少ないんだと思う。そして今こわーい顔して俺の前に来たのはこの部屋でいちばん怖い営業部上司の佐倉さん。おれもう死んだかも。


「話がある」


 終わったー、仮病使おうかな。でもバレた時怖いしな...。なんかやったかなぁ。俺今日謝る気力ないよ...。



「...なんですか?俺なんか、やらかしてます?」



 この無言怖すぎるんですけど!やめて欲しいよね、こんな子犬のように反省しているというのに!



「よし十咲。お前を教育係に任命する。」

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