君色ホリデイ
「あんた確か、この街のこと何にも知らないのよね?」
「うん。そうだけど」
「じゃあ、わたしが案内してあげるわ」
「ええっ!?」
君の申し出には度肝を抜かれたというか、なんと言うか。
ぼくは君の言葉が一瞬理解できなくて、パニックになったんだ。だって、想像できるはずないだろう?
教室一の人気者が、転向してきたばかりのぼくを誘ってくれるなんて。
「なに? 嫌なの? このわたしがじきじきに案内してあげようって言うのよ?」
「い、いや、ただびっくりしただけで」
「で、どうなの? 嫌なの? いいの?」
「えーと……いいです」
「よろしい。じゃあ、次の日曜日、十時に校門前に集合。わかった?」
「わかりました」
「なんでかしこまるのよ、もう」
君のあきれたような笑顔は、可憐だと思ったんだ。
そのまま額縁に入れて飾っても絵になるくらいだった。きっと、大層な値が付くんだろうな。
そんなどうしようもなく馬鹿げたことばかり考えています。
「遅―い! いつまでわたしを待たせる気?」
「え? まだ十分前だけど……」
「言い訳はいらないわ。誠意を見せなさい!」
「えー!?」
君の傍若無人な振る舞いにはまだまだ慣れていなかったから、ぼくは、これから先だいじょうぶだろうか?って、不安ばかり抱いていたんだ。
そんなのはまったくの杞憂に終わったんだけどね。
「まずは腹ごしらえよ!」
「いきなり!?」
「ふっ、腹が減っては戦は出来ずって言葉を知らないの?」
「知ってるけど……」
とはいうものの、君はぼくのも含めてふたり分のお弁当とお茶を買っただけで、それをすぐには食べようとはしなかったんだ。
君の目的がなんとなくわかってきたけど、黙っていたよ。
君の悪戯っぽい笑顔をいつまでも見ていたかったんだ。
「ちょっと遠いけど、我慢してね」
「うん」
どれだけ遠くても構わなかったよ。
君と一緒に自転車を走らせているこの時間が、永遠に続けばいいと思ったくらいだったんだ。
だってぼくは、君に恋していたから。
まだ気づいてはいなかったんだけどね。
「ほら見なさいよ! 頑張って上ってきた甲斐があるってもんでしょう!」
「うわあ! 凄い!」
「地元では有名な花見の名所なのよ、ここ」
「日上さんのおかげだよ……!」
透き通るような青空の下、五千本にも及ぶ桜が、眩しいばかりに咲き誇っていたんだ。
風に飛ばされて舞い踊る無数の花びらが、君の勝ち誇ったような笑みを一層輝かせたね。
君は、この桜に彩られた公園の中で、だれよりも楽しそうだったよね。
ぼくだって、そんな君に負けないくらいに楽しかったけど。
「ありがとう」
「なによ、突然」
「日上さんが誘ってくれなかったら、こんな楽しいお花見なんて出来なかったんだ」
「楽しいお花見? 本当に楽しかった?」
「うん。嘘じゃないよ!」
「そう! それならいいのよ!」
君がはにかんだように笑ったのは、結局のところなんだったのかな?
ぼくにはわからないけれど、まあいいや。
君の色彩に染まった至福の一日は、ぼくの記憶の中で永遠に色あせないものになったんだから。




