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君告メモリア  作者: 雷星
3/3

君色ホリデイ

「あんた確か、この街のこと何にも知らないのよね?」

「うん。そうだけど」

「じゃあ、わたしが案内してあげるわ」

「ええっ!?」


 君の申し出には度肝を抜かれたというか、なんと言うか。

 ぼくは君の言葉が一瞬理解できなくて、パニックになったんだ。だって、想像できるはずないだろう?

 教室一の人気者が、転向してきたばかりのぼくを誘ってくれるなんて。



「なに? 嫌なの? このわたしがじきじきに案内してあげようって言うのよ?」

「い、いや、ただびっくりしただけで」

「で、どうなの? 嫌なの? いいの?」

「えーと……いいです」

「よろしい。じゃあ、次の日曜日、十時に校門前に集合。わかった?」

「わかりました」

「なんでかしこまるのよ、もう」


 君のあきれたような笑顔は、可憐だと思ったんだ。

そのまま額縁に入れて飾っても絵になるくらいだった。きっと、大層な値が付くんだろうな。

そんなどうしようもなく馬鹿げたことばかり考えています。


「遅―い! いつまでわたしを待たせる気?」

「え? まだ十分前だけど……」

「言い訳はいらないわ。誠意を見せなさい!」

「えー!?」


 君の傍若無人な振る舞いにはまだまだ慣れていなかったから、ぼくは、これから先だいじょうぶだろうか?って、不安ばかり抱いていたんだ。

 そんなのはまったくの杞憂に終わったんだけどね。


「まずは腹ごしらえよ!」

「いきなり!?」

「ふっ、腹が減っては戦は出来ずって言葉を知らないの?」

「知ってるけど……」


 とはいうものの、君はぼくのも含めてふたり分のお弁当とお茶を買っただけで、それをすぐには食べようとはしなかったんだ。

 君の目的がなんとなくわかってきたけど、黙っていたよ。

 君の悪戯っぽい笑顔をいつまでも見ていたかったんだ。


「ちょっと遠いけど、我慢してね」

「うん」


 どれだけ遠くても構わなかったよ。

 君と一緒に自転車を走らせているこの時間が、永遠に続けばいいと思ったくらいだったんだ。

 だってぼくは、君に恋していたから。

 まだ気づいてはいなかったんだけどね。


「ほら見なさいよ! 頑張って上ってきた甲斐があるってもんでしょう!」

「うわあ! 凄い!」

「地元では有名な花見の名所なのよ、ここ」

「日上さんのおかげだよ……!」


 透き通るような青空の下、五千本にも及ぶ桜が、眩しいばかりに咲き誇っていたんだ。

 風に飛ばされて舞い踊る無数の花びらが、君の勝ち誇ったような笑みを一層輝かせたね。

 君は、この桜に彩られた公園の中で、だれよりも楽しそうだったよね。

 ぼくだって、そんな君に負けないくらいに楽しかったけど。


「ありがとう」

「なによ、突然」

「日上さんが誘ってくれなかったら、こんな楽しいお花見なんて出来なかったんだ」

「楽しいお花見? 本当に楽しかった?」

「うん。嘘じゃないよ!」

「そう! それならいいのよ!」


 君がはにかんだように笑ったのは、結局のところなんだったのかな?

 ぼくにはわからないけれど、まあいいや。

 君の色彩に染まった至福の一日は、ぼくの記憶の中で永遠に色あせないものになったんだから。


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