君恋エイプリル
「月代サクヤです。えーと、転校してきたばかりで――」
「ツキシロサクヤ~? 変わった名前ね~!」
ぼくが君に出逢ったのは、桜舞う季節のことだった。
高校二年の春、父の仕事の関係でこの街に引っ越してきたぼくは、当然、転校しなければならなかったわけで。
見知らぬ土地に来たばかりで、不安しかなかったぼくを、君の存在が救ってくれたんだ。
「わたしは日上アヤ。この学園の――いえ、この宇宙の支配者よ!」
「え……? あ、そう」
「そこは「なんでやねん!」って突っ込むべきところでしょ!」
「な、なんでやねん」
「乗りがいいのはわかったけど、イントネーションが違ーう!」
授業中でありながら、関西弁のツッコミを熱心な指導する君に気圧されることから、ぼくの学園生活は始まったんだ。
それはぼくにとって、まさに薔薇色の日々の始まりに違いなかった。
「まさか、あんたがわたしの隣の席だったなんてね―」
「ここしか空いてなかったけど?」
「ふふふ、甘い。甘いのよ! 角砂糖のように!」
「そりゃ角砂糖は甘いけど」
「じゃあキャッラメルマキアートのように!」
「なんでキャラメルマキアート……?」
「ふん、まいいわ。でも、見えないの? 教室の後ろに並ぶ机幽霊が!!!」
「いや、そんなことを顔面蒼白になって言われても」
君のハイテンション振りはいつものことらしくて、教室のだれもが気にしてもいなかったんだ。
といって、黙殺されているわけでもなくて、君はいつもクラスの中心にいた。
「ねえねえ、アヤっぴ~。この問題なんだけど」
「こんなのもわかんないの? もう一度小学校からやり直しなさいよ」
「なあ、日上。ラスエムの最初のボスが倒せねーんだけど」
「あー、あいつのこと? あんなの弱々じゃない」
「日上さ~ん」
「あやや~ん」
「ひ~か~み~」
授業が終わると、もうとにかく君は引っ張りだこだった。
他愛ない話題を振られては大声で罵倒したり、授業やゲームに関する質問にも、口悪くも懇切丁寧に答えていたんだ。
いつだって明朗快活な君の周りには笑顔が絶えなくて、そこだけがまるで別世界のようなんだ。
「ところであんたには特技とかないの?」
「特技?」
「趣味でもいいわよ」
「うーん……」
「なんでもいいの。教えなさいよ」
「えーと……歌を歌うことかな。趣味って言えば」
「ふうん。じゃあ、今度聞かせてもらうわよ!」
放課後、特にやたくなるような部活動もなく、ただ意味もなく校内をさまよっていたぼくに、君は話しかけてくれたね。
君の唐突な質問に、ぼくはなぜだかとっても驚いて、緊張してしまったんだ。
さんざん迷った挙句に出した答えが「歌」だなんて。
へたくそ極まりないのにね。
「じゃあ、また明日」
「うん」
「名前、覚えたわよ。ばっちりね」
「ぼくも」
「そう! よかった!」
別れ際、君の眼がきらめいたのが、強く印象に残ったんだ。
それからずっと、ぼくの胸は高鳴っていた。家についても、お風呂に入っても、布団を被っても、収まる気配がまったくなくて、大変だったんだよ。
いま思えばそれはきっと、君に恋をしたからなんだ。




