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シナリオ1 ドラゴンの洞穴 6

登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。


ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。

ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。

ホルスナ:牛獣人の女戦士。前ギルド時代から所属している脳筋。

エンク:麒麟獣人の剣士。金が要るのでパーティに参加。

ゴリケーン:トロールのシーフ。運悪く人里で足止めを食らって参加。

 真珠の竜(パールドラゴン)を倒した一行は魔物の解体後、洞窟を調べてみる。

 湖岸から離れた地底湖奥には大きなトンネルがあったが、岩崩れが起きてあらかた塞がっていた。隙間があるので水や小さい生き物なら通る事ができそうだが……。

 ユキヒロは推測する。


「崩れた岩が地下水脈を塞いだのか。それで何体もの竜がこの洞窟に閉じ込められたんだな」

「そして餌が少なくなったから外にも出るようになった、と」


 ディアが呟いて振り向いた。この地底湖から洞窟の外へと流れ出ている地下水路へと。


「しかしなんで崩れたんだろ?」

「自然現象の崩落か……この付近にも魔王軍が来て、ここを利用しようとして何かしたのか」


 首を傾げるホルスナにエンクが言うが、それもまた憶測に過ぎない。

 崩れた岩の辺りは背の立たない深さだし、人間より大きな岩がいくつも重なっている。除去作業をするならかなり困難だろう。


「このままにしておこう。あんな所で大きな作業はやり難いし、下手な衝撃を加えたらもっと大きく崩れるかもしれない。塞がっていればこれ以上は何も入ってこないだろうし」


 それがユキヒロの決定だった。



――冒険者ギルド――



 一行は街へ、ギルドへ帰ってきた。

 もちろん仕事は成功だ。依頼者の村長へ竜達から得た部位を見せて納得してもらい、報酬の剣を貰った。

 ギルドの規則として、もし短期のうちに同じ洞窟から魔物が出れば無償で討伐に行かねばならないが、その心配は無いだろう。


 相変わらず人のいない受付ホールで、テーブルの上に剣を置いて一行は考える。見た目は古びた鞘に長剣が収められているだけだ。


「問題はこの剣にいくらの値段をつけるかだな……」


 悩むユキヒロ。値段のつかない物だが買取を約束している以上はそうも言っていられない。

 だがゴリケーンから助言が出た。


「無理に決めんでもいいぞ」

「え? でも、お金は要るだろ」


 驚くユキヒロ。一番金に困っているのがゴリケーンの筈だが。

 だがその本人が、膨れ上がった荷物袋をひょいと持ち上げた。


「あの洞窟で手に入れた金品と素材で一財産できる筈だ」

「確かに。これで必要なぶんは足りるどころか、当分寝て暮らせるな」


 金を受け取る筈のもう一人、エンクもそう言って納得する。

 だがユキヒロの方が受け入れ兼ねていた。


「いやでも、予定外の収入があったからって最初の契約を反故にするわけには……」


 予想より儲かったから約束していた報酬を減らす、または無くす。こんな事がまかり通ったら悪用し放題だ。

 今回のメンバーに詐欺を働くような奴はいないとユキヒロは信じているが、この前例を持ち出して利用する奴が今後出ては困る。

 そこでホルスナが満面の笑みを浮かべた。


「だったら成功祝いに宴会しようぜ! かかった費用が剣の値段て事で、ギルドが全額出せばいい!」


 エンクがフッと、ゴリケーンが牙を剥きだして笑う。


「いくらと明確に約束はしていなかったからな。俺達が合意すれば問題は無い」

「この巨体だが、オレは遠慮せずに食うぞ」


 完全に乗り気な三人を見て、ディアは微かに微笑んでユキヒロを見上げた。


「マスター。決断をどうぞ」

「よし、やるか!」


 ちょっと考えはしたが、すぐにユキヒロは大きく頷いた。



――ギルド食堂――



 人のいない夜の食堂は事実上貸し切りだ。料理の大皿と酒瓶をいくつも並べたテーブルで一行は騒ぐ。

 ホルスナが酔って赤くなった顔で陽気に笑った。


「いやーギルドマスターがいなかったら危ない所だったぜ。回復とか防御の事を考えてなかった!」

「ホルスナさんは純脳筋ですからね」


 犬と猫と竜に餌をやりながらディアが言うと、ホルスナがその肩をぱんぱんと叩く。


「照れるじゃねーか!」


 エンクは酒をちびちびやりながらゴリケーンに声をかける。


「帰るなら気をつけてな。まだまだ治安は良くない」

「まぁ治安のいい世だと、オレみたいな奴が街道を歩いたらすぐ討伐されるがな……」


 そう言いつつゴリケーンは鶏の腿をバリバリ齧った。


「いっそ故郷まで送った方がいいのかな?」


 少し心配になりユキヒロは訊く。

 だがゴリケーンははっきりと断った。


「そこまでの世話はいらん。旅する奴をいちいち送っておったらキリが無いぞ」


 定住せずに街から街へ渡る冒険者も多い。ギルドに所属している者達の顔ぶれは割と頻繁に変わるのだ。

 ほろ苦い話も馬鹿話も出ては消える中、ユキヒロはふと気になった事を訊いてみた。


「突然ですけど、エンクさん。あなた、聖勇士(パラディン)じゃありませんか?」

「流石にわかるか」


 肯定するエンク。


 異界流(ケイオス)を持つ者は異界流(ケイオス)を感じる事ができる。

 感じるのも感じられるのもある程度のレベルは必要なので、エンクが敵に剣技を叩きこんた時にやっとユキヒロは察する事ができたのだが。


「獣人が召喚される事もあるんですね……」


 他の聖勇士(パラディン)を見た事がないユキヒロにとっては意外な事だ。

 しかしエンクは軽く笑いながら教える。


「別の世界の【人】を召喚するそうだが、意外と曖昧なものだぞ。俺のような獣人、爬虫人、機械生命体……そんな転移者を見た事もある。地球から召喚されたという連中も、異なる時代や並行世界から呼ばれているようだしな」


 その言い分から、彼はこの世界を旅慣れていると感じるユキヒロ。


「あなたは俺より相当レベルが上みたいですね。剣も踏み込みも、まるで見えない事が時々あった」

「それはレベルだけが原因ではない。麒麟獣人の神通力でな……単発ならば、俺は光速での攻撃が可能だ」

「こ? え!?」


 光速……突然出た突拍子もない言葉にユキヒロは目を丸くするが、エンクは当然のように言葉を続ける。


「だから俺の剣技は種族固有の特殊能力みたいな物だな」


 ユキヒロは肩を落とした。


「そうなんだ。じゃあ俺が真似しても同じ事はできないわけか。いや、よければ剣技を少し教えてもらおうかと思ったんだけど」


 エンクは徳利をテーブルに置く。


「しばらく特訓の相手を務めようか。そこから掴む物もあるかもしれん」

「あ、じゃあ頼む……じゃなくて、お願いします!」


 少し慌てて、でも嬉しそうに、ユキヒロは頭を下げた。


「ほええ、真面目だなー」


 二人のやりとりを見てホルスナが目を丸くする。

 ディアは動物達に餌をやりながら静かに呟いた。


「まぁ支部の長を任されてますからね。せいぜい腕を上げてもらいましょう」


 まぁ同時に頭の中でこう考えてもいたが。


(訓練中はそれに適した食事のメニューも考えねばなりませんね……私が)

最近のファンタジー物では引っ越しやギルドの移籍はあまりやらないようだが、この世界ではそう珍しい事ではない……という事にしておく。

冒険者に放浪者の側面があった時代が、昔は確かにあったのじゃよ……。

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