シナリオ1 ドラゴンの洞穴 5
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。
ホルスナ:牛獣人の女戦士。前ギルド時代から所属している脳筋。
エンク:麒麟獣人の剣士。金が要るのでパーティに参加。
ゴリケーン:トロールのシーフ。運悪く人里で足止めを食らって参加。
――洞穴最深部――
徐々に広がるトンネルは今までで一番大きな空洞に繋がっていた。奥に行く事は困難だ――端まで地底湖が広がっているのだから。
しかし動く物は無く、襲い来る敵もいなかった。
岸辺には大小様々な岩がごろごろしている。その間を縫って、一行は慎重に湖に近づいた。
「ここにいなければ、この洞窟の魔物は全部退治した事になります」
バインダーに挟んだ手書き地図を確認するディア。
一行は警戒しながら洞窟の中を探してみる。
ユキヒロは湖を覗き込んだ。すると岸のすぐ下あたりの水底に沈んでいる大きな物がある。
「……貝?」
巨大な二枚貝である。
驚いていると、その貝が動いた。隙間があいて四本の足と尾、そして長い首が出てくる。それらは光沢のある薄黄色に輝いていた。
体長10メートル以上のヘビクビガメのような真珠色の竜となり、岸にあがってくる!
「真珠の竜か。ディア子、どんな能力を持っているかわかるか?」
「いいえ。戦いながら探るしかありません」
ユキヒロとディアが警戒する前で、真珠の竜はその目を光らせた。
途端に出現するオーロラのような光のカーテン! それが冒険者パーティを囲む。
「ふうむ、これは一体?」
ゴリケーンが首を傾げた、その直後。カーテンの向こうから光線が飛んで来て彼を撃った!
「うぎゃあ!?」
火花をあげて吹っ飛ばされるゴリケーン。
それを見た他の4人は戸惑った。光線はさっき竜がいたのと違う方向から飛んで来たのだ。
「ええい、チクショウ!」
叫んでホルスナが跳びかかりカーテンに斧をふるう。刃にふれた箇所は虹色の粒子となって散った。
「手応えないぞ! これ、幻だ!」
そうホルスナが叫ぶ。途端にまた別の方向から光線が飛んで来て彼女を撃った。「ぎゃっ!」と悲鳴をあげ、ホルスナも傷を負って洞窟に転がる。
虹のカーテンが広がり、ホルスナが裂いた箇所があっさり塞がった。
「幻影で視界を遮り、その向こうで位置を変えながら光線ブレスを撃ち続ける……それがこの竜の戦法らしいな」
「さすが上位の竜は知能が高い」
カーテンを睨むエンクに、身を起こしながらゴリケーンが呻く。
「新主人は範囲攻撃魔法を使えますか?」
「一応……」
ディアの質問にユキヒロはそう答えた……自信なく。
攻撃魔法の訓練も習得もした。岩をも砕く威力を叩きだしはした。だがそれが上位の魔物にどこまで通じるか? 何発撃てば倒せるのか? 先に敵のブレスで倒されはしないか? 実戦経験の乏しさ故に見通しを立てる事ができないのだ。
だが他に方法が無いならば――ユキヒロは腹をくくってカーテンを睨む。
「それを繰り返すしかなさそうだ」
その時、肩にいた小龍が双眼鏡のような双眸を光らせた。そこからサーチライトのごとく光が放たれ、カーテンを丸く照らし出す。
照らされた箇所にはその向こうがはっきりと映っていた。そこに隠れていた真珠の竜も!
ユキヒロは思わず声をあげた。
「あそこにいるのか!」
「敵の居場所を暴けるのか。やるじゃん!」
感心しながらホルスナが斧を構え直す。
だが真珠の竜は再び目を光らせた。すると虹のカーテンが再びその姿を隠す。
「ぬう、幻影を作り直す事もできるのか」
呻くゴリケーン。
しかし小龍も再び目を光らせた。すると再度、カーテンの向こうが照らし出された。今度は別の位置が。そしてそこに再び真珠の竜が映っている。
「本体暴きも繰り返せるみたいです」
そう言って銃を構えるディア。
思わずユキヒロは呻く。
「イタチごっこじゃないか……」
だが暴かれる事を予測していたからか、今度は一早く竜がブレスを吐いた。しかも今度は拡散し、シャワーのように降り注いだ。五人がことごとく光線に焼かれる!
ダメージに耐えつつ皆が体勢を立て直した時。真珠の竜は再び目を光らせ、虹のカーテンで姿を隠していた。
「こっちがジリ貧かよ!」
悔しそうなホルスナ。
しかしエンクが剣を構える。
「だが暴かれてから隠れ直すまでタイムラグがある。敵の攻撃に耐えて突っ切るしかあるまい」
他の3人は頷き、身構えた。
だがユキヒロだけは少し違う事を考えていた。
(竜はカーテンの向こうからこっちの位置がわかっている。こっちは竜の姿が現れてから動く。だから先にブレスを食らってしまう。ならば……)
そして、竜が姿を現す前から呪文を唱えだした。
小龍が再び真珠の竜を照らし出した。
冒険者達がいっせいに動く。だがその時には竜は拡散光線のブレスを見舞っていた。範囲が広くとても避けられる物ではない――
――が、破壊光線を受けながら皆の行動は止まらなかった。
全員の体が透き通った白い粒子の膜に覆われ、光線の威力を消していたからだ。
【マジック・スクリーン】魔領域に属する防御魔法。魔力による攻撃を軽減・遮断するバリアを造り出す。
味方にかける呪文なら敵の位置を確認する必要は無い。だからユキヒロは竜が姿を現す前に呪文を行使したのだ。それに防がれた竜の光線に4人を阻害する力は無く……彼らは攻撃直後の無防備な竜に刹頭した。
真珠の竜の眉間が斬れて血飛沫があがった。
剣を手に竜の前で着地したのはエンク。跳躍して斬撃を見舞ったのだが、その移動も攻撃も誰にも見えなかった。竜の血飛沫が地面を濡らすより先に攻撃が終わっていたのだ。
仰け反った竜の頭に着弾した銃弾が激しい放電を起こす。
さらに蛮刀と両手斧が体に深々と食い込んだ。
それでもなお真珠の竜は最後の光線ブレスを振り絞ろうと口を開ける。
その口内を撃ち抜く、ユキヒロの放つ破壊魔法の光弾!
それがとどめ……竜は崩れ落ち、夥しい血で洞窟の地面を濡らして動かなくなった。
この洞窟に住み着いた最後の竜が息絶えた瞬間だった。
「DOラクエ5の勇者はフバーハ使えたよな」と思い出しながら書いた回。
なぜそんな事を考えたかというと「前回DOラクエの勇者を引合いに出したけど、あいつらが範囲回復魔法を使い出したのは5からだよな」という事も考えたからだ。
ゲーム外でだけ強いミナデインを元ネタに何か考えてみるか……。