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シナリオ1 ドラゴンの洞穴 3

登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。


ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。

ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。

ホルスナ:牛獣人の女戦士。前ギルド時代から所属している脳筋。

エンク:麒麟獣人の剣士。金が要るらしくパーティに参加。

ゴリケーン:トロールのシーフ。運悪く人里で足止めを食らって参加。


用語解説

ケイオス・ウォリアー:この世界に普及している、魔法仕掛けの巨大ロボ。

――ダイクレー市から少し離れた山中――



 ドラゴンの駆除に出発したユキヒロ達は、巣になっている洞窟目指して山中を進んでいた。人の気配の無い山の中、ゴリケーンが忌々し気に呟く。


「しかしナメた話だったな。売り物にならん剣だとは」


 彼は分厚い毛布のようなフードマントで全身を覆っていた。そのおかげで人里でも魔物だと騒がれず、巨体に奇異の目を向けられる程度で済んだ。

 だがマントは変装のためだけに装備しているのではない。トロール族の中には太陽を苦手とする種が珍しくなく、彼も日光の中では動きが極端に鈍ってしまうのだ。

 そんな体質もあり、安住の故郷・洞窟ダンジョンに帰る旅費を彼は切実に求めているのだが……


「何度鑑定しても【これを売るなんてとんでもない】級でした」


 戦闘用装備のメカボディで、ディアが肩をすくめた。


 洞窟の場所を含めた情報の再確認のため、一行は先にストンマテン村へ訪れた。そこで村長に話を聞いた時、ついでに報酬になっている魔剣レイクドーターを鑑定したのだ。

 その結果が【これを売るなんてとんでもない】級。これは何か特異な力を秘めており、対応する相場が無い事を表す。大概はとても貴重な物だが、現金化するとなると困難だ。


 それでも今回の依頼を放棄する者はいなかった。まぁ現金が要るエンクとゴリケーンはギルドからの報酬を約束されているし、後の三人は金目当てでは無い。



――村から離れた山奥の川岸――



 激しい戦いが繰り広げられていた。洞窟へ誤る事なく向かっているようだが、そのせいでドラゴンと遭遇してしまったのである。

 その戦いを離れた木陰で眺めながらホルスナが歯噛みした。


「くっそー、しぶとい相手だな!」

「彼が初陣という事もあるだろう。まぁそれにしてはよく戦えているが」


 同じく木陰のエンクが冷静に戦いを観察する。その横で頷くディアスポラとゴリケーン。


 水中から現れたドラゴンは足の無い蛇竜で頭に鋭い角を持ち、そこから放電する能力も持っていた。その体長は約20メートル。この大きさになるとLサイズという分類に入り、生身ではなくケイオス・ウォリアーで対処する事が前提になる。

 そしてこのパーティには一台だけそれがあった。ギルドの備品として王城で貰った、最も普及している量産型の巨人兵士機・Bソードアーミーが。

 身長18メートル、生体部品と金属でできた、地球の古代ギリシャ重装兵のような姿の人造巨人……その操縦席でユキヒロは初の巨大兵器戦闘に手間取っていた。


(くそ、訓練はじゅうぶんやったつもりだけど! やっぱり実戦となると違うな)


 巨大で狂暴な生物と同時に、己の緊張・恐怖・焦りともユキヒロは戦う。繰り出される角を慌てて避け、剣を振り回して竜の頭を打とうとした。

 何度か竜の角や電撃を受け、その度にダメージが数値化されてモニターに映る。しかし竜を打つ度にこちらが与えたダメージも表示された。


(やれる筈! 俺は聖勇士(パラディン)って奴で、強い異界流(ケイオス)があるんだろ!)


 自分を鼓舞しながら戦ううち、互いに傷つき疲れて巨人機と竜が睨み合う時間が増えてくる。おかげで考える時間が生じ、ユキヒロは次の動きをイメージする事ができた。


「おおぉお! 異界流斬り(ケイオススラッシュ)!」


 思い付きの必殺技名を叫ぶのも己を奮い立たせるため。踏み込み、敵の動きを予測して身を捻りながら剣を横薙ぎ! 機体が完全に思い通りに動く――レバーやボタンはあくまで補助。

 ケイオス・ウォリアーは操縦者が感覚を一体化させて操縦するのだ。


 ユキヒロの予測通り、竜は全力で角を真っすぐ突き出してきた。だがボディをあらかじめ捻っておいたので角は機体を掠めるだけ。

 一方、ユキヒロ機の剣は強烈な手応えとともに竜の頭を捉え、叩き割った。


「おお、勝ったぞ」


 ゴリケーンが賞賛の声をあげると同時に、竜が絶命して地に伏した。周囲の地面が揺れる。

 ソードアーミーに膝をつかせ、ユキヒロは操縦席から縄梯子で降りた。


「流石ですね新主人」

「ありがとうディア子。でも少し休ませてくれ……」


 労うディアに、疲れ切った声で呻くように答えるユキヒロ。

 エンクは頭を掻いた。


「手伝ってやれなくてすまんな。俺も自分のケイオス・ウォリアーを持ってはいるんだが」


 ケイオス・ウォリアーを操縦するには最低限の異界流(ケイオス)が要る。極めて微量なレベルではあるのだが、それでもこの世界の住人の半分ほどはそこに達する事ができず、己の世界の巨大兵器を操縦する事ができない。

 逆に言えば半分は乗れるので、操縦できる者が珍しいわけでもない。よって冒険者パーティや個人で所有している場合もある、のだが……


 エンクは軽く溜息をつく。


「俺の機体はダイクレーの街へ来るまでにだいぶ痛ませてしまってな。今は修理屋に出してオーバーホール中だ」

「ああ、それで現金が必要なんだ」


 ユキヒロは納得した。

 魔法と錬金術と鍛冶技術で造られるケイオス・ウォリアーは工業製品。メンテナンスも修理も必要であり、それには金がかかる。戦闘に使えばダメージも受けるし痛みも早い。エネルギーや弾薬類の補充も必要だ。

 要するに維持費がそれなりに要るのだ。



――蛇竜を倒してから川にそって進む事しばし――



「見つけたぞ。あの洞窟だ」


 ゴリケーンの視線の先には、岸壁にぽっかり空いた大きな洞穴があった。川もそこへ流れ込んでいる。

 だが大きいといっても……


「ケイオス・ウォリアーでは入る事ができないか」


 ユキヒロは機体を停める場所を探して周囲を見渡す。


 この世界には巨大兵器があり、人類の繁栄に大きく貢献している。

 だが巨大故に万能ではない。この世界には天然・人工を問わずあちこちにダンジョンやそれに類する場があり、そこでは行動へ参加する事さえできない。

 大規模な戦場においても歩兵の役目が消えるわけもなく……結局、生身での戦闘能力は重要なのだ。


 ホルスナが元気に声をあげた。


「よーし、ここからが出番だ! 任せろ、やるぞー」



(剣士エンク)

挿絵(By みてみん)

この回を見ていただけばわかる通り、この作品は無敵の主人公が格下を右から左に蹴散らしていく作品ではない。

10段階評価で7ぐらいの強さの主人公が体当たりで四苦八苦しながらいろいろやっていく話にしようと思っている。

理由は自分がそうしたいからだ。

昔はこういう塩梅の作品が多かった。割とマジで。

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