シナリオ1 ドラゴンの洞穴 1
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
ディアスポラ:人造人間の少女。ギルドの従業員。
ユキヒロが事務室で明日届く物のリストに目を通していると、ディアスポラがホールからやって来た。
「新主人。討伐の依頼が来ましたよ」
「やっと来てくれたか! よし、さっそく掲示板に出しておいてくれ」
冒険者らしい仕事が入った事に喜ぶユキヒロ。
そんな彼をディアスポラが上目遣いにじっと覗う。
「新主人も冒険者パーティに助っ人するんですよね?」
「まぁそれを期待されてのギルド長採用だからな。でも冒険者が望んだ時だけだぜ?」
依頼の難易度が高い時、人手が多数必要だと感じた時。冒険者のパーティが助っ人を欲しがる場合もある。そういう時は他の冒険者を臨時でパーティに加えるのだが、再出発するダイクレー冒険者ギルドは十分な数の冒険者が揃うまで時間がかかる筈だ。
そこで助っ人をギルド側で用意するためもあり、イムブック国が用意できる最強の人材・ユキヒロがギルド長に選ばれたのである。
だが、言ってからユキヒロは少々不安を覚えた。わざわざこんな念を押すという事は……。
ディアスポラは静かに告げる。
「ではそのつもりでいてください。討伐対象はドラゴンどもですので」
「一発目から!?」
いきなりドラゴン退治。しかも複数形だ。
――ギルド受付ホール――
依頼は既に羊皮紙に書かれ、掲示板に張り出してある。
依頼主はストンマテン村の村長。猟師達の狩場が魔物に荒らされ獲物が激減。猟師の一人が山向こうの洞窟に複数のドラゴンが出入りしたのを見つけた。このままでは家畜や村に被害が出るのも時間の問題。それまでに駆除して欲しい。
報酬は村長宅の納屋にあった魔剣レイクドーター。
「これ駄目じゃないかな」
「駄目そうですね」
渋い顔のユキヒロ、その隣であっさり肯定するディアスポラ。
魔物退治の報酬は強い魔物ほど相場が高額になる。ドラゴンの巣を潰せともなれば、そこらの貴族でもおいそれと出せない額になるだろう。
それをアイテム一つで手をうってくれ、というのだ。それがいくらで売れるのか、この依頼書だけではわからない。
それでもやってくれる酔狂な者がいるかどうか。ユキヒロは後ろを振り向いた。
受付ホールには誰もいない。その向こうに食堂が見えるが、夕食をとっている者が二人だけ。
その二人が現在所属している冒険者の全てである。しかもどちらもソロで活動し、パーティは組んでいないのだ。
(俺一人でなんとかするしかないのか……自信はさっぱりなんだが)
聖勇士ではあっても実戦経験ゼロ。それがいきなり高レベルモンスター、しかも複数を一人で相手にする。重圧を感じて肩は重く眩暈がするが、仕方のない事だろう。
だがしかし。
その時やけに大きな声が威勢よくとんできた。
「安心しなディア! アタシが戻ってきたぜ!」
「あ、ホルスナさん。生きていたんですか」
振り向き呟くディアスポラ。
そこにはいたのは屈強な女戦士だった。
でかい背、でかい体格、でかい胸。自信に満ちた笑顔、そして頭には牛の角が二本。
(獣人……隣の大国出身か)
ユキヒロは思い出していた。この国で聞いた情報を。
イムブック国を挟む大国の一つが、獣人達が多く住む小国の集まり・ヘイゴー連合国だと。
「この人は牛獣人の戦士ホルスナ。まぁ完全な脳筋です」
ディアスポラが女戦士をユキヒロに紹介すると、ホルスナは陽気に笑った。
「アハッ、照れるぜ」
(今のは褒めたのか?)
疑問を覚えるユキヒロの前で、ディアスポラが女戦士に訊いた。
「ギルドの高レベル冒険者は魔王軍相手に全滅したと聞きましたが、あなたは生きていたんですね」
すると女戦士ホルスナは……気まずそうに頬をかく。
「皆で敵の大将首狙って斬り込んで、アタシはとにかく敵を薙ぎ払って前進してさ。でも見通し悪い山中だし、乱戦で敵ぞろぞろでごちゃごちゃで……いつの間にか、敵陣を通り抜けて山の中で迷子になっちゃったんだ」
それを聞いてディアスポラは納得し、また露骨に呆れた。
「あー……ホルスナさんは戦闘関係以外の技能を綺麗さっぱり一つも持っていませんよね。野外活動も全然できないのに孤立したんですか」
ホルスナは急に涙ぐみ、拳を握って訴える。
「ほんとしんどかったよ! 遭難しかけた! 川とクマを一度ずつ見つけてなかったら飢えか乾きで死んでた! それでも何日も飲まず食わずになって、ふらふらの所を田舎村の山菜取りに運よく会えて! 道案内してもらったり泊めてもらったりして、南の街道に出てから大回りで戻って来たんだ」
「しかけたというか遭難してますよね。しかも南周りって、山岳地帯を横断してるじゃないですか。本当によく生きてましたね」
ディアスポラにそう言われ、ホルスナはしゅんと頭を下げた。
「そんなわけで他のメンバーがどうなったかは知らないんだ。面目ない」
ディアスポラの表情が僅かに緩んだ。
「ここに帰ってきてくれたからいいです」
二人の話が一段落してから、ユキヒロはホルスナに訊く。
「そんな命からがら帰ってきた所に悪いんですけど、相手はドラゴンなんです。大丈夫ですか?」
すると一転、ホルスナは自信に満ちた笑顔で親指を立てた。
「おうよ、戦えばいいなら任せとけ! それでも心配なら他のヤツにも声かけようぜ」
そう言うと食堂へ入っていく。そして登録してある二人の冒険者へ呼びかけた。
「おい、話は聞こえているんだろ。行こうぜ!」
(女戦士ホルスナ)
ホルスナの絵を生成する指示語に「白と黒の鎧」と書いたら自動でビキニアーマーにしてくれた。
SeaArtでも日夜ビキニアーマーの女戦士が多数生成されており、それが反映されたのだろう。
こんな格好で戦えるのかと思わなくもないが、最近のファンタジー物にはモビルスーツかUルトラマンで戦うのかという怪獣サイズのモンスターもちょくちょく出る。冒険者はそんな敵とも戦うのだ。
それなら金属鎧でも裸でも誤差でしかないような気もするので、まぁこれでいいのだ。多分な。