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シナリオ4 魔人の爪を折れ! 1

登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。


ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。

ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。

レイ:ユキヒロの持つ魔剣レイクドーターの分身体。十代の少女の姿をとる。

――ギルド事務所――



 ユキヒロが依頼結果の報告書に目を通していると、ディアが入って来た。


「新主人。今度はエルフから依頼者が来て、領地解放を頼んでいますよ」

「使者? こっちはいきなりだなぁ」


 ドワーフ達は先に手紙で予約していた事を思い出し、つい比べてしまうユキヒロ。しかしとりあえずは会ってみる事にした。



――応接間――



 やはり依頼者はゴブリンの巣で子供を助けた部族からだった。

 内容もドワーフ達とほとんど同じ――元々、イムブック国にエルフの大きな集落は無かった。彼らエルフのルイド氏族は隣国からの難民なのである。

 先の魔王軍との戦いは数年に渡る長い物で、彼らの住んでいた故郷の森は抗いきれずに奪われてしまったのだ。

 森を支配する魔物達は魔王軍が壊滅した今も残党として居座り、ルイド氏族は未だ故郷へ帰れずにいる。

 これを奪還して欲しいと。


「ギルドマスターのユキヒロ様は元魔王軍幹部をもうち倒した、真の聖勇士(パラディン)だと聞きました。どうかお願いします」


 そう言ってエルフの女性……外見年齢なら10代の少女に見える娘が、両手を握り合わせ、透き通りそうな綺麗な瞳を潤ませる。

 ()()()()()()

 いずれ劣らぬ見目麗しい三人横並びの女性を前に、しかしユキヒロは困って頭を掻いた。


「すいません、無理です」

「ど、どうしてでしょう!? ドワーフ達には救いの手を差し伸べたと……」


 紫の髪と瞳の娘が困り果てて尋ねる。

 それに答えるユキヒロも同じぐらい困っていた。


「貴女達が提示する報酬が『誰か一人が俺の嫁さんになる』というのではね……」


 三人のエルフ娘は顔を見合わせ、緑の髪と瞳の娘がユキヒロへ訊く。


「妻も恋人もいないと聞いたのですが」

「いませんが、貴女達を貰うつもりはありません」


 断るユキヒロ。青い髪と瞳の娘が訊く。


「私達ではご不満でしょうか?」

「そういう意味ではありません」


 否定するユキヒロ。紫の髪と瞳の娘が訊く。


「ではなぜでしょう? 私達からの精一杯のお礼が、貴方が生きている限りお世話させていただく事なのですが」


 ユキヒロは大きな溜息をついた。


「俺個人だけの利益のために、この冒険者ギルドのマスターが動くわけにはいかないんですよ」

「「「そんな……酷い」」」


 涙ぐむ三人のエルフ娘。

 ユキヒロの傍らでディアが呟いた。


「いきなり押しかけて確認もせず批難する方が酷いですね」

「というわけで、一旦お帰りください。この街や国に利益が出るなら喜んで動きますので、氏族内でもう一度相談しなおして……」


 ユキヒロのその言葉は、横から割り込んだ男の声に遮られた。


「相談などしていない。彼女達の独断でやっている事だ」


 部屋の入り口に立つ、ローブを纏った長身のエルフ青年。

 その端正な顔を見てエルフ娘の一人が驚きの声をあげる。


「兄さん!」


 エルフの青年は誰の許しも得ずに堂々と部屋に入って来た。

 彼の後ろにはもう一人、フードマントを羽織った者がいた。背と体格からして恐らく男性だが、彼は部屋を入った所で壁にもたれる。

 ユキヒロの側にはローブの青年だけが来た。

 彼は自分を兄と呼んだ、緑の髪と瞳の娘へ厳しい口調で声をかける。


「アルヴァ。愚かな事をしているな。高貴で美しく知性あふれる我らが、短命で無識な人間どもに頭を下げて助力を乞うなど……嫌で嫌でしょうがないから到底できんと、氏族会議で言われたはず」


 娘――アルヴァはうつむいて身を縮めた。


「うん、言われたわ。小さくて薄汚い酔っ払いのドワーフどもと手を組んだ人間も、あのモグラモドキどもと同じだって……」


 ユキヒロの後ろにレイが現れ、吐き捨てるように言う。


「こいつらは見捨てなさいよ」


 そんな事は見ようともせず、エルフの青年はさらに言葉を激しくした。


「なのにお前達は助けてもらおうと言うのか! 若く美しく才能溢れる自分を売り飛ばして!」

「兄さんの言う事も、わかるけど……わかるけど」


 アルヴァは声を震わせる。


(わかるんだ……)


 ユキヒロはちょっと表現し難い感情で顔をひきつらせた。

 だがアルヴァは顔をあげ、一転して兄へ決然と反論したのだ。


「でもケニングが心身ともに傷を負ってしまったじゃない。弟があんな目にあったのよ!? 私がこの身を捧げれば故郷が取り戻せるなら、それで弟も故郷で安全に暮らせるならそれでいい。私はそう思ったの!」


 アルヴァと共に来た娘達も頷く。


「私達二人も似たような者です。ダルフ様、故郷を離れた人間の地で災難にあった者は何人もいるのです」


 そう言われた青年エルフはしばし言葉に詰まった。


「なんとかしなければと、思ってはいる……」


 やっとのその言葉も小さな呻き声だった。

 ここまでの話で、ユキヒロは概ね理解した。

 以前助けたエルフの少年の姉が、似たような境遇の友人達を連れて、ここに助力を求めて来たのだと。


「ダルフさん、ですね? 俺は依頼を請けないとは言っていません。この街や国に利益が出るなら喜んで動きます」


 ユキヒロは魔術師の青年へ声をかけた。

 彼は初めてユキヒロに反応し、端正な顔を厳しく強張らせる。


「もしもだが……ドワーフ達同様、この国に帰属し統治に人間を介入させるという条件でなら?」

「それなら通るでしょう。ともかく一度帰って意見をまとめ……」


 ユキヒロの、その言葉の途中で――


「帰る気はない」


 青年・ダルフはそう言いきった。

 冒険者ギルド側の面々が、困惑、あるいは不快感をその顔に露わにする。

 だがダルフは落ち着いて真正面からはっきりと告げた。


「故郷奪還の暁にはイムブック国に帰属しよう。現代表者ダルフの名で約束する」

「に、兄さん!」


 驚くアルヴァ。

 そんな妹にダルフは優しく微笑みかけた。


「帰るのはお前達だ。我ら二人、これからダイクレー冒険者ギルドマスターと共に占領された故郷へ……ウォーターウッドの森へ向かうからな」


 黙って見ていた緑のフードマントの青年が頷く。

 ぱあっと顔を輝かせ、しかしアルヴァは――


「ううん。私も行くわ。ここを頼るのは私が言い出した事だもの」


 しばしエルフ達は相談する。

 青と紫の髪の娘達は部族へ戻って経緯を報告する事になったようだ。残る三人がユキヒロ達に自己紹介する。


「改めて名乗ろう。私はエルフのルイド氏族、魔術師のダルフ」

「その妹、吟遊詩人のアルヴァです」


 エルフの美しき兄妹が改めて一礼した。

 後ろで壁にもたれていた青年もフードを外す。その顔は金属の仮面で隠されていたが、声は確かに男の物だ。


「レンジャーのロビンだ」


「え? 結局助ける事になっちゃったの」

「まぁ子供か動物のためと言えば、正義はここに有りになりがちですし」


 レイはいまいち納得していないようだったが、ディアは足元に来た犬・猫・小竜の頭を撫でつつ割とどうでもよさそうにそう言った。



(エルフの吟遊詩人アルヴァ)

挿絵(By みてみん)

ドワーフ話の次はエルフ話だ。

ファンタジー物の定番を外す理由も無いからな。

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