シナリオ3 トカゲ王の山 4
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
デメキン:ボウエンギョそっくりの小さな竜。冒険中は主人公の肩にいる。
ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。
レイ:ユキヒロの持つ魔剣レイクドーターの分身体。十代の少女の姿をとる。
ドゴーン:ドワーフ族の屈強な戦士。
ボテクル:ドワーフ族の屈強な神官。
クレイジ:ドワーフ族の屈強な機械技師。
互いに前進し間合いを詰めるユキヒロとコモドダイン。その距離が近づき……
先に打ち込んだのは、より大きく長い得物を持つ元魔王軍のリザードマンだった。巨大な金棒を両手で振り回し、恐るべき速さの打撃を見舞う。だがユキヒロはそれを盾で受け流しながら踏み込み、魔剣で斬りかかった。
床に触れる度に石畳を砕く威力で金棒を振り続けるコモドダイン。その打撃の嵐の中で、剣と盾による的確な攻撃と防御をこなし続けるユキヒロ。
繰り出される攻撃の一撃一打全て、それをいなす防御の動き全て、才能の無い者では生涯訓練を続けても一つとして真似はできない。その攻防が果てる事なくぶつかり続けていた。
だが戦いの中、ユキヒロは焦りを覚えていた。
防ぐ事で、打ち合う事で、はっきりと感じる。自分を明らかに上回る敵のパワーを。
そして力と大きさを持ちながら、敵は決して鈍重では無かった。見上げるほどの巨体が凄まじい速さで動く。
さらに戦慄すべきは――二人の戦いの中にもディアは魔道ライフルを何発も撃ち込んでいた。彼女の射撃の腕は、この戦いの中に割り込めるレベルにあったのだ。しかしコモドダインは、その弾を全て避けているのである。
激しく打ち合いながら、2メートルを大きく超える巨体で!
「ちょっと! 私は……レイクドーターは+2クラスの魔剣よ? それがあってなんで苦戦してんのよ!」
剣の分身体レイがディアの横で叫ぶ。驚きと苛立ちで。
彼女を振るうユキヒロは、ここまでの敵を全て圧倒し斬り伏せてきた。それがコモドダインには全く通じていない。
しかし批難めいた声を浴びながら、ユキヒロは感謝していた。
(この剣だからここまで戦えている。前の剣なら俺は倒されていたかもしれない……)
金棒の強烈な威力に、盾で防ぎながらもユキヒロは後ろによろめいた。急いで体勢を立て直す――が、予想に反してコモドダインは追撃しなかった。
「ぬううん……!」
唸りながら全身に力を籠めたのだ。
ユキヒロは相手に恐るべき力が燃え上がるのを感じる。
(これは異界流!)
コモドダインが動いた。これまでの打撃を遥かに超える速度と力の打撃が炸裂する。
「【リザドブルータルヒット】!!」
吠えるコモドダイン。下から打ち上げられた金棒が、ついにユキヒロを捉えた……!
剣で受け止めようとはした。だが受ける事はできても止める事はできず、高々と吹き飛ばされるユキヒロの体!
BAGOOOOM!
激しい音と共に跳ね上げられた体は、頭を下にして落下し、床に叩きつけられた。
「先の魔王軍において四大隊長の直下にある幹部が親衛隊。その親衛隊員は全員が聖勇士だった」
勝ち誇りながらコモドダインが金棒を肩にかつぐ。
「そしてオレこそが元陸戦大隊、最強の親衛隊! マスターリザードを名乗っていた男だ!」
リザードマンが吼える。
砕けた床に伏して動かないユキヒロを見下ろしながら。
「こいつも聖勇士だったようだが……互いに異界流がある以上は地力での勝負になる。オレの肉体に対抗するにはあまりに貧弱だったな」
その強く速くタフな巨体には、まだまだエネルギーが漲っていた。
ディアは眼前で倒れている主人を見つめ、内心では疑問を覚えていた。
(妙ですね? なぜ盾を使わなかったんでしょう)
敵の恐るべき一撃を見舞われた時、ユキヒロは剣で切り払いに行った。結果パワー負けして食らってしまったのだが……。
そんなディアの前で、ユキヒロの体が輝いた。緑の粒子が沸き上がり全身を包む。
そして多少よろめきながらも、身を起こし、立ち上がった!
「なにィ!?」
驚愕の声をあげるコモドダイン。
「別に、力比べをするつもりはないんでね」
出血を拭うユキヒロ。
無詠唱で回復魔法を行使はしたが、完治とまではいかない。だがそれでも戦闘の続行は可能――再び身構える。
「ではどうするつもりか見せてもらおうか。回復魔法が使えても、回復しながら攻撃する事はできまい」
確信した勝ちを覆されて苛立つコモドダイン。全身の筋肉に力が入り、大きな金棒を構えた。
「次で叩き殺すのみ! それを恐れて回復に専念するなら回復以上の威力で叩き殺すのみ!」
「できるだろうな。アンタなら」
血を拭いながら呟くユキヒロ。
そこへコモドダインが突っ込んだ。
「できるとも! 食らえ【リザドブルータルヒット】!!」
高速の踏み込みから高速の打撃が打ち上げられる!
対するユキヒロは。
やはり全速力で踏み込んでいた。その速度は相手に劣らない――いや、上回っている!
戦闘における速度は敏捷性だけで決まるものではない。装備重量や姿勢、軌道、攻撃を仕掛けるタイミング、そして狙いをつける場所も関係する。
敵を金棒で打とうとコモドダインが踏ん張った時、ユキヒロはまだ加速をつけて跳び込んでいた。金棒に自ら当たりに行くかのように。
そう、当たりに行ったのだ。
盾を前面に構えて。
激突!
盾が砕けた。
金棒は弾かれ、コモドダインがよろめく。
盾を叩きつける突進・シールドチャージ……ユキヒロのそれは、威力が完全に乗る前の、モーション途中の金棒を弾く事に成功した。激突の衝撃で盾が割れてしまう事と引き換えに。
前の一撃を受けていれば、盾はその時に砕けてこの戦法を実行できなかっただろう。
ダメージを食らってでもあえて剣で受けたユキヒロの咄嗟の判断は間違っていなかった。
そしてユキヒロは体を回転させるようにして、低姿勢からそのまま剣を斬り上げる。よろめいていたコモドダインは避ける事ができない。
魔剣レイクドーターが鎧と鱗を切り裂き、鮮血が噴き上がった!
苦痛と絶叫。しかし……
「お、おのれ!」
コモドダインはまだ死んではいなかった。踏ん張り直し、なんとか再攻撃に移ろうとする。
直後、銃声が轟いた。
コモドダインの傷をディアの魔弾が撃ち抜き、激しい放電が体内を焼く。
そのせいで動きが止まり、ユキヒロの次の攻撃を許してしまった。
破壊魔法の光弾がさらに傷口へ炸裂。今度は背中側から血飛沫が!
体を貫通したのだ。
コモドダインが金棒を落とした。
「そ、そうか……オレの、フェイバリット・ブローを、一度食らったあの時……あの時に見切ったのだな……」
無念と賞賛の混じった声を漏らし、元魔王軍の親衛隊は倒れた。
聖勇士同士の戦いに、この日、初めてユキヒロは勝った。
パワー型が噛ませ犬にならずにかつ盾も役に立つ展開を頑張って考えました。
これを思いついたのでこのドワーフ編を始めたというか……。




