シナリオ3 トカゲ王の山 3
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
デメキン:ボウエンギョそっくりの小さな竜。冒険中は主人公の肩にいる。
ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。
レイ:ユキヒロの持つ魔剣レイクドーターの分身体。十代の少女の姿をとる。
ドゴーン:ドワーフ族の屈強な戦士。
ボテクル:ドワーフ族の屈強な神官。
クレイジ:ドワーフ族の屈強な機械技師。
倒した暗黒騎士からまだ息のある奴を探し、ドワーフ達は尋問を始めた。
「キングリザードはどこにいる?」
するとそいつは「ククク……」と微かな含み笑いを漏らす。
「族長の間だ。行って殺されてしまうがいい」
何一つ抵抗せずに喋った敵を前にドワーフ達は顔を見合わせる。だが答えた以上は危害を加える理由は無い。ドワーフ達は騎士をその場に置いて、ユキヒロ達に呼び掛けた。
「行きましょう。族長の間がどこか、我々にはわかりますので」
彼らに頷きながら、ユキヒロは考えていた。
(あっさり情報を吐いたのは、俺達相手に隠す必要など無いと考えたわけか……)
それはつまり、敵が大将の勝ちを確信しているという事だ。
――族長の間――
ドワーフ達が案内した先は家紋の彫られた銀縁の扉。調べてみたが鍵はかかっていない。
扉を開けて一行は奥へ向かう。
ほどなく大理石の柱が並ぶ、天井の高い立派な空間に出た。最奥には豪華な椅子があり、そこに巨体が座っている。そいつがゆっくりと立ち上がった。
身長2メートルを大きく超える屈強なリザードマンが。
ざらざらの鱗の下で鍛えられた筋肉が盛り上がっている。椅子の傍らにある金棒は並の成人男性の身の丈を超える長さ。分厚い金属の鎧を纏い、蛇のような縦長の瞳が眼前に来た敵を睨みつけていた。
その体のような太い声が牙の生えた口から出た。
「ここまで来たか」
「お前が……」
とユキヒロが喋るその途中、肩のデメキンが目を光らせる。両眼からサーチライトのような光が放たれた。ほぼ真上に。
天井に張り付き、保護色で身を隠していた影が光の中に浮かび上がった。
武器も防具も何一つ身に着けていないリザードマンである。
灰褐色の鱗が全身を覆う、やけに目と指の大きい個体。その目がぎょろぎょろと動き、下に居るユキヒロ達の動きを窺っていた。
「あれは?」
「このオレ、キングリザードのコモドダインが右腕として雇った必殺の刺客・リザード忍者の月光だ」
ユキヒロの問いに微妙に気まずそうに答えるコモドダイン。
「なんで天井に?」
「戦闘開始と同時に敵の後ろに跳び下りて、後衛へ奇襲をかける手はずだったからな」
ユキヒロの問いに微妙に気まずそうに答えるコモドダイン。
後衛にいる者達は大概の場合、防御能力に難のある職である。
そこに切り込む伏兵を用意すればフォーメーションの弱点をつく事になり、壊滅させる事も可能。この必殺の罠をコモドダインは仕掛けておいたのだ。
まぁ戦闘開始前に察知されてしまったが、それは結果論というもの。
「普通は敵が跳び下りる直前に『そこだ!』と見抜くのがパターンだと思うけど……」
いつの間にか現れていたレイの呟きにディアが肩をすくめる。
「デメキンにそんな様式を理解しろといっても無理ですね」
当の小竜はびちびちと尾を振っていた。
「もういいぞ。降りろ」
「承知でゴザル」
コモドダインの指示に従い、リザード忍者が天井から跳び下りる。
当初の目論見どおりユキヒロ達パーティの、後衛よりさらに後ろへ着地はするが、既にバレている以上、ドワーフ達が壁を作っていた。
そのドワーフ達三人が汚い忍者を口々に罵る。
「おのれ卑怯な!」
「それで勝てると思うなよ!」
「貴様の命もここまでだ!」
一方、ユキヒロはコモドダインと向かい合っていた。
リザードキングを名乗る個体が太い声で唸る。
「とりあえず行くぞ」
「来い!」
そう言いつつもユキヒロは自らも前進した。敵の総大将へと。
そのすぐ真後ろにぴったりとディアも張り付くように。
ちょっと困って立ち止まり振り向くユキヒロ。
「近いよディア子」
「でもですね……」
ディアが口を開いた、その時。
後方で爆発が起こった。3発。
立ち昇る爆炎と煙。それが徐々に薄れた時、ユキヒロは見る。
ブスブスと煙をあげて倒れる三人のドワーフと、一緒に倒れるリザード忍者を。
ドワーフの誰かの武器が爆発し、残り二人の武器が誘爆したのだ。忍者の側に焦げた丸太が転がっているので空蝉の術で避けようとはしたのだろうが、三連発は回避しきれなかったらしい。
「やっぱり」
ディアが淡々と呟いた。
爆発が収まった事を確認したディアが、ユキヒロとコモドダインから距離をとる。
リザードキングを名乗る個体が改めて太い声で唸った。
「改めて行くぞ」
「こ、来い!」
そう言いつつもユキヒロは自らも前進した。敵の総大将、元魔王軍の幹部へと。ユキヒロが本来戦う筈だった敵へと……!
(ドワーフ機械技師クレイジ)
脇役が総力をあげて敵のNo.2と刺し違える壮絶な展開だ。




