シナリオ3 トカゲ王の山 1
登場人物紹介:今回のエピソードに関わる者達。
ユキヒロ:主人公。地球から召喚された転移者にして冒険者ギルドマスター。
ディア(ディアスポラ):人造人間の少女。ギルドの従業員。
――ギルド事務所――
ユキヒロが依頼結果の報告書に目を通していると、ディアが入って来た。
「新主人。例のお客が来られましたよ」
頷くユキヒロ。
あらかじめ手紙が送られており、これからの会談は既に予約済みだったのだ。
――応接間――
三人のドワーフ達が揃って頭を下げた。
「「「我がドンキ氏族の子供の恩人! 新たな冒険者ギルドマスターよ、礼を言いに来た」」」
「いえ、これも仕事ですから」
ユキヒロが言うと、ドワーフ達は揃って顔を上げる。
赤髭のドワーフが唸るように申し出た。
「今日はもう一つ仕事を頼みたい」
「はい、聞かせてください」
頷くユキヒロ。これもあらかじめ手紙に記されていた事だ。ただし詳しい内容は会ってからという事で、今から初めて聞く。
三人のドワーフ達が代わるがわる話す事には……
元々、イムブック国にドワーフの大きな集落は無かった。彼らドワーフのドンキ氏族は国外からの難民なのである。
先の魔王軍との戦いは数年に渡る長い物で、鉱山を中心とした彼らの領土は抗いきれずに奪われてしまったのだ。
鉱山を支配する魔物達は魔王軍が壊滅した今も残党として居座り、ドンキ氏族は未だ故郷へ帰れずにいる。
今回の依頼とは鉱山の奪還。
「故郷に帰れさえすれば! あの高慢ちきでイケメン気取りな野生原住民のエルフ等と子供が慣れ合う事などなく、無駄なケガをしないで済んだというのに!」
「エルフの奴らはいつもワシらに迷惑をかける。相互友好条約を結んだのは大昔なのに、それ以降も事あるごとに境界線上で権利権利と主張しおって。奴らの約束には真正性が無い!」
黒髭のドワーフと白髭のドワーフが息巻いた。
「なお彼らの相互友好条約というのは互いの主張する領域の境界線で過去に起こった争いを手打ちにするという物ですが、その後に問題が起こった時にエルフがドワーフに譲るという約束ではありません」
ディアが囁くように教えてくれるのを聞きながらユキヒロはちょっと感心していた。
(ドワーフとエルフの仲が悪い世界って本当にあったんだ)
「つきましては、ぜひギルドマスターの力を借りたい。どうかご助力を!」
赤髭のドワーフが頭を下げる。
だがディアが淡々と口を挟んだ。
「依頼者からマスターへの直接指名は原則受付ませんけど」
それに一度頷きはするが、しかしユキヒロはあえて言う。
「今回は特例を認めよう」
ドワーフ達の話によると、敵の大将は旧魔王軍の親衛隊――幹部クラスだ。その強さは上下差が激しく、モンスターランクをつけるなら個体ごとにバラバラ。今回の相手も実力は未知数で、この依頼に適正な冒険者ランクを決める事ができない。
そしてドワーフ達が提示した報酬は「ドンキ氏族の鉱山運営にダイクレー市からの使者を加える」事。これは街が……ひいては国が鉱山を手に入れるに近い意味を持つ。
危険度と報酬の大きさ。この二つから、今ギルドにいる最大戦力を投入せねばならないと判断したのであり、ユキヒロは自身が出るべきだと考えた。
一応は今待機している冒険者の名簿をディアに持ってきてもらう。
しかしユキヒロが溜息をつく結果に終わった。
「エンクさんもホルスナもいないか……」
「高レベルの依頼なんてそうそう無い筈なんですけどね」
ディアは言うが、今いない物は仕方が無い。ホルスナはたまたま仕事を請けており、エンクは行商人の護衛からまだ戻っていない。
「ご安心を。我ら三人も命の限り戦いまする!」
黒髭のドワーフが己の胸を叩いた。
「我は戦士ドゴーン!」
金属鎧に角兜、鈍器を握る赤髭のドワーフが吼える。
「我は神官ボテクル!」
金属鎧にバイザー付き兜、鈍器を握る黒髭のドワーフが吼える。
「我は機械技師クレイジ!」
金属鎧に兜に背嚢、鈍器を握る白髭のドワーフが吼える。
「さあ、我らの心の故郷を取り返しにいきましょう!」
鼻息の荒い白髭のドワーフに、ユキヒロは気圧されつつも頷いた。
「よ、よろしく……」
――食堂――
出発してから鉱山に着く時間を計算し、その日はギルドの宿に泊まる事になったドワーフ一行。
「「「ステーキッ! 血のしたたるステーキッ!」」」
彼らはサイズ最大のステーキ定食を飯特盛で注文し、ビールの大ジョッキを次々とおかわりする。
そのテーブルに何度もジョッキを運びながら、給仕娘をやっているレイが呆れていた。
「ねぇマスター。この人達、明日から仕事よね?」
付き合いでドワーフ達と同じテーブルについて同じ物を飲み食いしていたユキヒロは何も答える事ができなかった。
酔いとゲップで。
(ドワーフ戦士ドゴーン)
設定解説
【血のしたたるステーキッ!】
ステーキを注文した時の赤い汁は肉汁であり、血ではない。
まともな店なら血の処理が不完全な肉を客に出さない。




